アメリカ政治の撹乱が新しい仕事になったトランプ前大統領

日本語のメディアではあまり紹介されないのでしばらく忘れていたのだがトランプ前大統領は今もアメリカの政治をかき乱し続けている。民主党側も負けずに応酬しておりこれぞ劇場型政治という風情だ。トランプさんの新しい仕事は「アメリカ政治の撹乱」になったようだ。日本で言うところの炎上系政治YouTuberという感じだろうか。

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トランプ大統領と演劇的空間

NHKの番組に高田延彦が出ていた。トランプ大統領の誕生を予期できなかったマスコミは何を間違えたのかというテーマがあり、制作者たちは、トランプはプロレスから学んだというような仮説を持っているようで、得意げに「プロレスはヒールが物語をコントロールしている」などと言っていた。
演劇の視点からはこの説にはかなりの無理があるように思えた。そもそも西洋の演劇類型は悲劇と喜劇の2つある。悲劇が扱うのは運命なのだが、主人公は最終的に運命に負けてることになる。それ以外の事象を扱うのは全て喜劇である。
実際の神話には、主人公が敵に勝つという物語がある。これも運命に勝つという物語であり、運命対人間という図式には違いがない。悪役というのは主人公が対峙する運命を具現化しているだけなので、受け手の心理的な投影の対象にはなりえない。
人々が演劇に求めるのはカタルシスだ。閉鎖された空間で他人の悲劇的状況を見ることで、普段の生活で抱えている様々な感情を解放するのである。だから、政治が演劇であるという前提そのものに大きな問題がある。有権者は大統領選挙を閉鎖空間の出来事だと捉えていることになってしまうからだ。実際には明日からの生活に影響があるわけで、これは有権者の誤認だと分析されるべきだろう。
いずれにせよ、運命そのものに投影しているということは、つまり物語そのものが解体するのを喜んでいるということになってしまう。するとヒールが破壊しているのは、主人公ではなく物語世界そのものだ。
一つ思い当たるのはアメリカの映画が、運命に打ち勝つだけでなく、主人公が成長することが前提になっているという点だ。だが、アメリカにも成長したくないという人はいるわけで、そういう人たちが成長を否認する演劇世界がプロレスだという仮説が立てられる。プロレスは、成長物語を信じているテレビや新聞が「下に見ている」人たちのための娯楽空間なのだ。
髙田延彦は、演劇の素人たちから「プロレスってヒールが物語をコントロールしてるんですよね」などと言われて、曖昧な笑顔を浮かべていた。プロレスが持っている物語の構造についてきちんと語るべきだったのではないかと思う。と同時に「プロレスはスポーツだ」と思っている人もおり、そのために遠慮があったのかもしれない。あるいは、政治報道のアウトサイダーが「きちんとした場所にお呼ばれした」という意識があったということも考えられる。
オバマは理想を語ったけど、結局成長したのはオバマだけであり、受け手には関係がなかった。であれば、そんな理想が完膚なきまでに破壊されるのを見てカタルシスを得たほうがいいということになる。
橋下徹が「今回の選挙ではインテリが敗退した」と言っている。これはインテリがヒールだという意味なのだと思っていた。だが、トランプ分析を受け入れてしまうと、そもそも政治の持っている物語世界の解体を意識しているのかもしれないと思えてくる。あるいはその闘争自体が、一つの物語かもしれないなどと考えてしまうと、構造は無限に複雑化する。
本来考えたかったのは、受け手はどうやってヒールとベビーフェイスを分けているのかということだ。例えば小池劇場では、内田さんがヒールであり、小池百合子はベビーフェイスである。しかし、国政では安倍晋三がベビーフェイスであり、蓮舫がヒールになっている。
蓮舫代表はベビーフェイス顔なのだが、きつすぎてヒール顔になってしまった。だが、構造がわからないので何がヒールを決めているのかが分析できない。その上、受け手が物語の解体そのものを願うようになると、もはや誰がヒールなのかという分析そのものが無効化するだろう。
何が物語の解体を望むのか(言い換えれば日本人はなぜ物語の崩壊を望まないのか)という点についても「よくわからない」としか言いようがない。スケールとしては日本が一番進んでいるように思える。正義と悪の対立が民主主義とは切断していて自民党の内部構造が担っている(例えば、小池百合子は自民党員だ)からだ。アメリカがこの中間にあり、もっとも遅れているのは韓国だ。正義の味方が現れては、堕落して消えてゆくという悲劇を延々と繰り返している。これは韓国に民主主義の歴史がほとんどないからだろう。ただ、このスケールだと一番進んでいる国は中国だということになる。共産党王朝なので民主主義が介在する余地が革命しかない。
しかし、物語の解体には持続性がないのだから、プロレスが興行としてヒールがベビーフェイスを破壊するという構造が永続するとは思えない。これは興行としては成り立たないわけで、ヒールがぶつかるというのは余興であるか、ベビーフェイスが勝つための途中経過なのではないかと考えられるべきなのではないだろうか。高田さんにはそのあたりを解説していただきたかった。
もちろん、政治を興行として扱うことはあまりにも不謹慎だ。政治は困っている人を助けたりして実感を取り戻すべきであるなどと書きたいのは山々なのだが、それが信じられない程度には政治家は堕落している。

安倍首相の思惑はトランプ大統領の戦略と合致するという分析

イアン・ブレマーが、トランプ新大統領と安倍首相は反りが合うというような分析をしている。内容が面白いというより、英単語の勉強になりそうなので訳してみた。なお、ブレマーは中立的な言い方をしているのに、悪意があるように訳してあるのは、単に訳した人(私)が安倍首相が嫌いだから。
4. Japan
Things get trickier with existing allies who Trump has repeatedly thrown under the bus during his “America First” campaign. Trump famously suggested that the U.S. would be better off if Japan had its own nuclear weapons instead of outsourcing its security to Americans. His world view—like a businessman’s—is transactional. But here’s the thing: Japanese Prime Minister Shinzo Abe actually wants a more muscular Japan. Japan has for five straight years increased its military spending, even if the military budget remains less than 1 percent of the country’s GDP. This is not for America’s benefit, but for Japan’s. China is growing larger and more powerful every day as America recedes further from Obama’s Asia pivot. Abe had hoped that the Trans-Pacific Partnership would keep the U.S. tethered to the region; wishful thinking it turns out. But in this instance, Japan’s desire to shoulder more security responsibility dovetails nicely with Trump’s.

  • thrown under the bus のバスは通学バスのことだそうで(最近はGoogleで多くのことがわかる)わがままな理由で友達を犠牲にするというような意味だそうだ。アメリカ人ってひどいですね。いじめじゃん。
  • transactionalはトランザクションのという意味なのだが、日本語には該当する言葉がないと思う。
  • tetherはテザー広告のように使われることが多いが、家畜をつなぎとめておくツナが原語なのだそうだ。知らなかった。
  • wishful thinkingってどのように訳せばいいのだろう。楽観的な見込みとか希望的観測とかそういう意味なんだろう。
  • in this instanceは「この場合は」。
  • dovetailは建築木材同士が噛み合う様を指すそうだ。こういう単語は忘れてしまいそうだけど、使いこなせるとかっこいいんだろうなあと思う。

トランプが「アメリカファーストキャンペーン」の間、わがままな理由で「日本はアメリカに防衛を外注しないで独自の核兵器を持ったほうがよい」などと主張した。このため、事態はややこしいことになっている。トランプは世界を商取引きとしか見ていないのだが、考えるべきことがある。安倍首相は日本の軍拡化(原文では日本の男性化とされている)を進めている。GDPの1%以下に抑えられているものの軍事費は連続5年上昇しているのだ。これはアメリカに貢献するためではなく日本のためだ。オバマのアジア重視政策が後退するにつれて中国が台頭している。日本はTPPを使ってアメリカ地域につなぎとめておきたいと考えていたが、それは単なる希望的観測だということがわかった。この場合、日本の安全保障に責任を持ちたいという意欲はトランプと適合している。
なお、カナダの項目には「リベラルなトルドー首相」という言葉が出てくる。これ、なんとなく「人権派の」みたい訳を当てたくなりますよね。実際にはどうなんだろうか。開明派のとでも訳すのかもしれない。こういう用語は実際のトルドー首相の政策などが分からないと訳せない。

トランプ大統領が豹変したように見える人向けの解説

Twitterのタイムラインを見ていると「トランプ大統領は豹変した」という人がいる。行動には明快な論理があると思うのが、意外とわかりにくいと感じる人がいるらしい。
トランプ大統領は選挙運動期間中口汚ない言葉で敵を罵ってきた。オバマ大統領もその中の一人だ。だが、勝利宣言はおとなしいものであり、実際にホワイトハウスでオバマ大統領と接すると態度が変わった。これを「豹変」と考えた人がいたわけだ。
これを説明するのは意外と簡単だ。トランプ候補は目の前にいる聴衆に聞こえの良い事を言っていた。彼らを団結させるのは敵を作るのがよい。敵の存在が身内意識を強めるからである。
だが、大統領になった瞬間に(少なくとも彼にとっては)目の前にいる人はマイピープルになった。オバマ大統領も敵ではなく、彼の先代なのだから同類で同格である。彼の行動原理は溢れるように出てくるとりとめもないアイディアと、マイピープルに対する責任感で成り立っている。責任感が勝ったので発言がおとなしく見えたのだ。
トランプが混乱して見えるのは、この内と外が彼の主観によって決まるからだろう。
日本政府は彼と接する時、やってはいけないこと2つある。まず一つは彼の思いつきに対して決して反対しない事だ。他人から否定されると燃え上がるタイプなので実際にやらせてみて(しかし自分は距離をおく)破綻するのを待つ方がいい。もう一つは決して競争相手にならないことだ。彼にとっては「外」を意味する。それよりも身内であることを協調した方がよいだろう。
「アメリカが世界のリーダーであり続けるのか」という疑問があるわけだが、これも愚問であると言える。もともとアメリカは「理念」を広げる装置だと考えられてきた。それをリードするのがアメリカなのである。安倍首相がロボットのように繰り返す「価値観を共有している」というのはそういうことである。が、アメリカのいう自由と民主主義というのはキリスト教的価値観のことなので日本人は決してそこには入れないわけだが、理念なので違和感がなかったわけである。
しかし、トランプが重視するのは合理性と家族意識なので、世界のリーダーであるというのは家長であるということだ。トランプ大統領はアメリカを慕ってくる国のリーダーでありたいと考えるだろう。つまり、アメリカが世界のリーダーでありたいという政策は維持されるかもしれないということだ。
ここから先は調べてみるとわかると思うのだが、彼にとって家族とは事業の共同体のようなもののようである。最初の妻とは離婚したが、妻は事業を始め、別の金持ちと結婚した。離婚の理由は浮気だったそうである。彼は二回の離婚歴がある。
だが、子供達は手元に残り事業を手伝っている。誰が身内であるかということは「自分にとって役に立つか」ということで決まっているのではないかと考えられる。つまり価値観を共有するという事はそれなりの貢献が求められるわけで、それを「自分の金・他人の金」などと分けてはならないという事になる。
だが、誰を家族にするかというのはトランプ大統領次第なので、貢献した挙句捨てられたということも多いに考えられる。
 

トランプ大統領の今後を占う

トランプ大統領が誕生し「こんなはずじゃなかった」とか「意外といい人かもしれない」というような評価が飛び交っている。100日プランというのが出ているが、これをまともに実行するとたぶん議会が止まり何もできないだろう。予算が潤沢に必要だが、議会を敵に回してしまうからである。
これをいちいち聞いていても怖くなるだけなので占いに頼ってみた。トランプ大統領はふたご座であり、天秤座の木星と60度の角度が多い。逆にハードなアスペクトは少ない。また太陽は天王星とともにある。これはアイディアが革新的で、次から次へと湧いてきて止まらなくなるということを意味している。木星効果なのである。
トランプ大統領はまた家族を政権に入れようとしているようだ。太陽に近い惑星が蟹座に入っている。大衆性も蟹座で見るので、大衆が喜ぶようなことを言う力があるという解釈もできる。合理的なのに家族思いということで「意外」という人がいるだろうが、実は意外につながっているのだ。土星が蟹座にあるのでそれなりの責任感もある。
星占いに詳しい人は天秤座と蟹座ということで90度だということがわかるわけだが、これは溢れるアイディアを家族に対する責任感で押さえているというような解釈になる。
トランプ大統領は満月近くの生まれでドラゴンヘッドが太陽に近い。ということはまもなく月食になるころの生まれだ。従って月は射手座ということになり落ち着きがない。と、同時にそれ以降に全く星がない。つまり「私」と「私たち」には関心があるが、社会には全く関心がないという解釈だ。
と同時に感じるのは長期的視野とか辛抱に耐え抜くというような気質の欠落だ。つまりトランプ大統領の「政策」はフラッシュアイディアの寄せ集めだということになる。これを粘り強く実行しようという気持ちは全くないのではないだろうか。注目を集めているうちは熱中するが、それがなくなれば飽きてしまうということになる。
ここから導き出される結論は単純だ、トランプ大統領が「身内だ」と認識すれば優遇してもらえる。早めに近づけばいいことがある。これが「話してみると」意外といい人だったという評価になるのだろう。また、判断は合理的だ。しかし回りくどい説得や根回しは苦手だろう。たぶん机に縛り付けてご説得しても全く聞いていないし、すぐに忘れてしまうだのではないだろうか。
「みんなの大統領」にはなれない。そもそも家族を大切にするということは敵を作るというのと同じことだからだ。彼のモチベーションは自分と家族を守り、その場その場の楽しい事を追い求めるということだから、壁にぶつかれば敵を非難し状況は収拾がつかなくなるのではないだろうか。
なんとなく豊臣秀吉を思い出した。天才的なアイディアで世界を席巻するが、その死後彼の王国は瓦解するだろう。周りのスタッフと協調できれば、受け入れられにくい政策をうまく大衆に説明できるようになるかもしれないが、そのために敵を怒らせて収拾不能な事態を招くかもしれない。
 

トランプ大統領は安倍首相にとって追い風という分析

トランプ大統領誕生から一夜明けた。トランプショックで下がっていた株は上がり、円安基調も持ち直した。そんな中でユーラシアグループがトランプ大統領の下での勝ち組と負け組みを分析している。


日本関連記述は2つ入っている。まず、TPPが漂流するだろうことは容易に想像できる。ブレマー氏によると大統領が就任して最初の仕事はTPPからの撤退だろうとのことだ。
一方で安部の改革は進むだろうとしている。安部の改革とは「強い軍隊を持って日本を守ろう」というものを指しているようだ。トランプ大統領は東アジア地域からの米軍撤退を視野に入れており、米軍からの独立を画策している安倍には有利に働くだろうと指摘しているのだ。
個人的に異論があるのだが、言っていること自体は理解できる。安倍首相の対米政策は実は整合性がない。「戦争法」で米軍追従姿勢を見せたかと思うと、アメリカと関係がない南スーダンに展開したいと言い出したりする。また、TPPで「価値観を共有しているから」経済で協力したいといいながらも、裏ではGHQは日本精神を踏みにじったとか西洋由来の民主主義は日本になじまないなどと主張する。
普通に考えると「安倍は狂っている」という結論になる。もう少し我慢して考えると「それぞれの利権をばらばらに考えているから全体として整合性がなくてもよいのだ」と合理化することもできる。だが、これは少し弱い。
イアン・ブレマーをヒントにもう少し考えてみる。安部首相の悲願はアジアの盟主になることだという仮定をおくとなんとなくすんなりくる。打倒すべきなのは中国である。TPPも自由貿易圏の構築というよりは中国を中心とした経済圏の構築(実際にはASEANが日中が主導することを望んでいる)に対抗していると考えられるし、南スーダンも中国に対抗しようとしているものと考えられる。ロシアに接近しているのも、中国をけん制する動きだと考えることはできる。
しかし、あからさま中国に対抗しようとするとアメリカの反発を招くので、表面的にはアメリカに追随するふりをしていたのかもしれない。つまり「対米協調路線」のほうが嘘だったのだということになる。
そう考えると、日本人が安部の野望に乗るかという点が焦点になる。
ここは悪辣な独裁者の視点で考えてみたい。まず、中国の脅威はこれ以上にあおる必要がある。と、同時にトランプの過大な要求をことさらに宣伝する。すると国内では危機感が増すだろう。
これまでの経緯から高齢者ほど昔を懐かしみ現状維持をよしとする傾向があることが分かっている。米英では移民さえなければと考える人が多数だったが、日本では「新興国(中国のことだ)の台頭さえなければ」と考える人が増えるだろう。そこで「負担を」という話になるわけだが、年金生活者に向かっては「あなた方の負担は増えない」という話をするだろう。代わりに犠牲になるのは若者だ。
今でも櫻井よしこのような高齢者向け右翼雑誌の論客は「最近の日本人は自分で国を守ろうという気概がなくなった」と言っている。しかし、この年代の人たちは自分が犠牲になって国を守ったことなどない。自分のためには他人は犠牲になってもかまわないということが平気で言える年代の人たちなのだ。ということで支持は集まる。一方の若者は「大勢についていれば大丈夫」と考えているので、騙して動員するのは可能だろう。
いずれにせよブレマー仮説にはアメリカが世界の盟主から降りることで日本が同盟から開放され政策の自由度が増すという前提がある。だが、実際は競合国がひとつ増えるということを意味するに過ぎない。
一方でアメリカが退潮することで、東アジアの盟主になるということも考えられなくはない。ASEANは中国が台頭することを恐れている。強い国が二国あればお互いにけん制してくれるので、日本が大国化するという可能性はゼロではない。しかし、この場合アメリカとオーストラリアのような個人主義の強い国は東アジアの集団主義的な文化を持った経済圏から排除されてしまうわけで、深刻な軋轢が起こるかもしれない。

トランプ大統領の誕生と安倍政権の崩壊の始まり

落日ってこんなもんかと思う。安部政権のことだ。
マスコミの事前予測と異なり、トランプがアメリカの大統領になりそうだ。このシナリオは安倍政権にとっては悪夢ではないだろうか。政策がどうという問題ではなく、事前に予測ができないからだ。これまでのアメリカの政策というのは大体決まっていて、日本はそれを忖度しながら政権運営をしていればよかった。これができなくなる。
直近の影響は2つある。ひとつは防衛予算の増額だ。トランプ大統領は東アジア撤退を仄めかしつつ、防衛費の負担を求めるだろう。日本はこれに応じざるを得ないがどの程度の負担増になるかは誰にも分からない。これが日本の財政を圧迫するだろう。
このことは間接的に日本には防衛戦略がなかったという事実を露呈するはずだ。力強い日本という虚像がガラガラと崩れてしまうのである。
次の懸念は株価だ。今日株価は800円ほど下がったがこれはプレビューに過ぎないのではないだろうか。アメリカは保護主義的な政策を取るはずなので、日本の企業にとっては大きな痛手となるだろう。輸出企業中心で成立している日本の株式市場にとってよい影響はないだろう。
安倍政権は株価連動政権だ。というより、安倍を支持している人たちは経済について難しいことは分からず、株価=経済だと考えているようだ。だから、株価が下がれば心理的な動揺が広がるだろう。これは年金のパフォーマンスに影響を与えるだろうが、それよりも、メンタルな部分が大きいはずだ。そのほかの「経済政策」はすべて撤退戦に入っているので、安倍政権には打ち手がない。
一方で「ロシアとの間でバランスを取っている」というポジティブな意見もある。トランプ大統領を見越してロシアとのパイプを作ろうとしているという人がいるのだ。だが、これは単なる希望的観測に過ぎないのではないか。
安倍政権は総合的な政策を持たず、分野分野で都合のよいディールを模索しているに過ぎないと思えることが多い。ロシア利権のようなものがあり、それを推進するのに4島返還論が邪魔になっている。これを棚上げして、エネルギーや鉄道に関する利権を得たいという人がいるだけなのではないかと思う。つまりロシア外交と防衛政策とはリンクしていない。防衛政策ではアメリカにフリーライドするつもりだったのではないかと思える。
さんざん「アメリカ追随」と批判を受けてきた安保法制も実はアメリカと関係なさそうだ。南スーダンでは、中国に近隣国を加えた国連部隊が展開しているだけでアメリカのプレゼンスはないようだ。中国軍は統制が取れていないらしく、南スーダン政府軍と衝突したりもしている。安倍政権は、国策として総合的な判断をしたというよりは、単に「国際的な役割を拡大させたかった」だけか「中国に乗り遅れたくなかっただけ」のように見える。石油関係の利権があるからだ。中国との対抗心は安倍政権のキーになっている。だが、南スーダンは泥沼化しつつあり、死者が出れば「違憲判断」のリスクにさらされる。
多分、日本人は安倍政権をよく理解していないし、積極的に支持もしていない。オバマ大統領が「よいアメリカ」という顔を持っていたので「大勢についてゆけばまあ大丈夫だ」と考えていたのだろう。
ところがトランプ大統領は嫌われ者であり日本に対する過激な発言でも知られている。「これまでのようにアメリカについて行っても大丈夫か」と考える人は増えるだろう。
唯一の請っていた「成長戦略」であるTPPでは完全にはしごをはずされた形になった。自民党は不人気を覚悟でTPPを推進してきたが、国民がこれを容認したのは「それでもアメリカについてゆけばまあ大丈夫だろう」と思っていたためだろう。
しかし、今後は「トランプランドに追随して大丈夫か」という疑念が出てくるに違いない。安倍政権はTPP=農家にダメージがあるだけという図式を作ってきたようだが、これで製造業国としてのアメリカと対峙するという形に変わってしまった。かといって、ここで批准手続きを止めてしまえば「アメリカに忖度しようとしただけ」ということになってしまうので、このままコミットせざるを得ない。
さらに悪いのは民進党が崩壊寸前ということだ。このため自民党の議員には危機感がない。日米同盟の動揺という党の基幹にかかわる危機が訪れているわけだが、そのような危機感は持っていないのではないかと考えられる。民進党は単に現在の政策に自民党をコミットさせるというダチョウクラブのような役割を果たしている。
彼らがプラカードを出して大騒ぎすることで、自民党は安保法制やTPPを積極的に推進したという印象になり、失敗したらすべて自民党のせいということになってしまうのだ。この対立構造を作ったのも安倍晋三なのだ。
加えて安倍政権は当初の目的である長期政権の維持を達成してしまったために、リスクを犯して思い切った政策を取ろうという意欲はないのではないだろうか。このまま危機を迎える。フリーライドしたいという周辺議員を抱え、誰もリスクをとって変化しようというリーダーシップも新しいアイディアもないまま、なし崩し的に自壊の道を走るという時代になったのだ。

トランプ候補がアメリカ人の尊厳を大いに傷つける

大統領選挙もいよいよ佳境だ。ここにきてトランプ候補がまたやってくれた。「選挙結果を受け入れるかどうか分からない」と言及したのだ。オバマ大統領が2期勝利したので、共和党員の間には「選挙で不正があるのではないか」という不満が根強い。これはどちらかというと居酒屋トークの類である。
トランプ候補がこれをおおっぴらにしたことで問題が複雑化した。討論会の発言そのものはワイドショーで繰り返し伝えられているが、その後日談は日本ではあまり知られていないのではないか。
トランプ候補は選挙結果を受け入れるか受け入れないかは「そのときに決める」と言っている。それまでは決めないという意味で「サスペンス(宙ぶらりんにする)」という言葉が使われたが、これはいろいろな通訳によってさまざまに訳されており面白かった。それぞれなんとなく印象が異なる。いずれにせよ、意味するところは「負けは認めない」ということだ。
トランプ候補の脳内ではいろいろなことが起きているのだが、基本的には自分に都合の悪いことはなかったことになる。過去に言ったことでも「そんなことは言っていない」などと平気で主張する。彼の厚顔無恥ぶりは安部首相に似ている。その場でうけるためにいろいろなことを言うわけだが、あとで整合性が取れなくなる。それを脳内で補正するのだ。「負けは認めない」発言もその線に沿ったもので特に目新しさはない。
ここまでは良かったのだが、ロシアが「候補の一人が大統領選挙には疑念があると言っているのだからアメリカは監視団を受け入れるべきだ」と言い出した。誰が言ったかは分からないのだが、国営のテレビ局が報道したので政府の意思と言えそうだ。国際ニュースで一瞬見ただけなので嘘なのかと思ったのだが、USA Todayが伝えているので間違いがない。
ご存知のようにアメリカはさまざまな国の選挙にイチャモンをつけてきた歴史がある。選挙の結果が気に入らないと「民主的でない」といい、選挙に干渉したり、軍隊を差し向けたりしてきた。どの選挙が民主的に行われているかということは、アメリカの都合で決まる。非人道的な独裁者であってもアメリカの国益に沿っている限りは許されるのである。
その根拠になっていたのは「アメリカが民主主義を擁護する」という根拠のない自信だ。だが、ロシアはそれを侵食している。クリントン候補のメールがリークされ、国民などどうでもいいと考えていることが露見した。彼女のスポンサーはお金持ちと大企業なのだ。
どの国でも「民主主義が機能していない」と言われるのは嫌なものだろう。ロシアが言っていることももっともなところがある。州によってはすべての票が勝ったほうの候補者に入るので大量の死票が出る。また選挙キャンペーンを維持するためには多額の費用がかかる。アメリカの選挙は実は民主的とはいえないのである。
アメリカはプライドの面からロシアの提案を受け入れられない。これはロシアが予想している反応なのだろう。ロシアが好まない選挙結果が出たときに「あれは不正だった」と言えるからだ。
だがこれは問題の本質ではないかもしれない。大統領は働く庶民階層の代表ではないという不満がある。アメリカの民主主義は機能していないというトランプ支持者がまだ40%以上もいるのだ。

ドナルド・トランプ語録 – 日本を敵視

共和党の大統領候補のドナルド・トランプは遠慮のない物言いで共和党の大統領候補の中でダントツの人気を誇っているが、ほとんどが英語で日本人にはあまり知られていない。演説内容は主に内政に関するもので、日本への言及は必ずしも多くない。そこで、様々な演説から日本に対して言及している部分を拾ってつなぎあわせた。
こうした演説がもてはやされているのを見ると、共和党支持者の白人は被害者意識を募らせていることがわかる。有色人種はアメリカに移民として押し寄せ、外国でもアメリカの仕事を奪っている。中国、日本、韓国、メキシコ、サウジアラビアなどの有色人種の国が名指しされる一方で、ヨーロッパやカナダなどの白人国が批判の対象になることは少ない。
共和党候補者が大統領になれば、これまでの対米交渉はすべてやり直しになるかもしれない。安保法制やTPPなど、国論を二分してまで大騒ぎする必要が本当にあるのか、充分に考えた方が良い。日本がアメリカに尽くしてみせても、相手には意外と伝わっていないということがわかる。
以下、トランプ語録。
私のメッセージは「アメリカを取り戻す(Make America Great Again)」だ。アメリカを再び金持ちで偉大な国にしなければならない。中国はアメリカの金を全て奪っている。メキシコ、日本、その他の国々もそうだ。サウジアラビアは多額のドルを1日で稼いでいるのに、アメリカの保護に対して何の対価も払わない。だが、正しいメッセージを発すれば彼らは対価を払うだろう。
四月にはツイートでTPPに対する意見を表明した。TPPはアメリカビジネスに対する攻撃だ。TPPでは日本の為替操作は防げない。これは悪い取引だ。2011年の本「タフになる時(Time to Get Tough)」ではアメリカ労働者を保護するために、輸入品に対して20%の関税をかけるべきだと主張している。
トランプは、アメリカは何の見返りもなしに日本や韓国などの競争相手を守ってやっていると言って批判した。日本が攻撃されたとき、アメリカには日本防衛の義務があるが、アメリカが攻撃されても日本は助けにくる必要がない。これがよい取引だと言えるだろうかと、43,000人収容のスタジアムに寿司詰めになった観衆に訴えかけた。
アメリカは日本と韓国に対して多額の貿易負債を抱えているのに守ってやっている。アメリカは何の見返りも受けていないと主張した。
「日本は米国に何百万台もの車を送ってくるが、東京で(米国製の)シボレーをみたことはあるか?」と挑発。中国、日本、メキシコから米国に雇用を取り戻すと訴えた。(産經新聞
トランプは安倍首相をスマートなリーダーだと持ち上げたうえで、お遊びで仕事をしているキャロライン・ケネディでは太刀打ちできないだろうと言った。日本のリーダーたちはタフな交渉人なのだ。
キャロライン・ケネディは娘の友人なので個人的には好きだが、日本のリーダーたちに豪華なもてなしで酔っぱらわされているだけだとの懸念を表明した。トランプが大統領になったら億万長者の投資家カール・アイカーンを中国と日本の貿易交渉の担当者にすると言った。アイカーンは喜んでやるだろうとトランプは言った。
以下、日本関連ではないが核に関する言及の一部。全文はTrump: I Will Absolutely Use A Nuclear Weapon Against ISISを参照のこと。
トランプはプレスとの会合で、最高司令官としてイスラム過激派に対して断固として核兵器を使用すると言及した。彼らは野蛮人だ。オバマのイラクとシリアの失策のせいで多くのキリスト教徒の首がはねられている。
[以下中略]
CNNの軍事アナリストのピーター・マンソーによると、トランプが水爆を使うと天文学的な市民の犠牲が予想される。アル・ラッカだけでも21000人の人口があるが、ほとんどISISとは関係がない。何百万人もの命が失われ、外交と地域の安定を取戻すまでに少なくとも百年はかかるだろう。
トランプによると「市民の犠牲は不幸な戦争の現実」だ。しかし核兵器を使えばアメリカと同盟国に歯向かう人たちに正しいメッセージを送ることになるとトランプは言う。自分は過去と現在の政権と違って、自分はアメリカを守るために正しいことをなすべきだという不屈のモラルを持っているとも主張した。そして、中国やメキシコには負けつつあるが、ISISには負けないと語った。の競争相手を守ってやっていると言って批判した。日本が攻撃されたとき、アメリカには日本防衛の義務があるが、アメリカが攻撃されても日本は助けにくる必要がない。これがよい取引だと言えるだろうかと、43,000人収容のスタジアムに寿司詰めになった観衆に訴えかけた。
アメリカは日本と韓国に対して多額の貿易負債を抱えているのに守ってやっている。アメリカは何の見返りも受けていないと主張した。
「日本は米国に何百万台もの車を送ってくるが、東京で(米国製の)シボレーをみたことはあるか?」と挑発。中国、日本、メキシコから米国に雇用を取り戻すと訴えた。(産經新聞
トランプは安倍首相をスマートなリーダーだと持ち上げたうえで、お遊びで仕事をしているキャロライン・ケネディでは太刀打ちできないだろうと言った。日本のリーダーたちはタフな交渉人なのだ。
キャロライン・ケネディは娘の友人なので個人的には好きだが、日本のリーダーたちに豪華なもてなしで酔っぱらわされているだけだとの懸念を表明した。トランプが大統領になったら億万長者の投資家カール・アイカーンを中国と日本の貿易交渉の担当者にすると言った。アイカーンは喜んでやるだろうとトランプは言った。
以下、日本関連ではないが核に関する言及の一部。全文はTrump: I Will Absolutely Use A Nuclear Weapon Against ISISを参照のこと。
トランプはプレスとの会合で、最高司令官としてイスラム過激派に対して断固として核兵器を使用すると言及した。彼らは野蛮人だ。オバマのイラクとシリアの失策のせいで多くのキリスト教徒の首がはねられている。
[以下中略]
CNNの軍事アナリストのピーター・マンソーによると、トランプが水爆を使うと天文学的な市民の犠牲が予想される。アル・ラッカだけでも21000人の人口があるが、ほとんどISISとは関係がない。何百万人もの命が失われ、外交と地域の安定を取戻すまでに少なくとも百年はかかるだろう。
トランプによると「市民の犠牲は不幸な戦争の現実」だ。しかし核兵器を使えばアメリカと同盟国に歯向かう人たちに正しいメッセージを送ることになるとトランプは言う。自分は過去と現在の政権と違って、自分はアメリカを守るために正しいことをなすべきだという不屈のモラルを持っているとも主張した。そして、中国やメキシコには負けつつあるが、ISISには負けないと語った。