大統領選挙もいよいよ佳境だ。ここにきてトランプ候補がまたやってくれた。「選挙結果を受け入れるかどうか分からない」と言及したのだ。オバマ大統領が2期勝利したので、共和党員の間には「選挙で不正があるのではないか」という不満が根強い。これはどちらかというと居酒屋トークの類である。
トランプ候補がこれをおおっぴらにしたことで問題が複雑化した。討論会の発言そのものはワイドショーで繰り返し伝えられているが、その後日談は日本ではあまり知られていないのではないか。
トランプ候補は選挙結果を受け入れるか受け入れないかは「そのときに決める」と言っている。それまでは決めないという意味で「サスペンス(宙ぶらりんにする)」という言葉が使われたが、これはいろいろな通訳によってさまざまに訳されており面白かった。それぞれなんとなく印象が異なる。いずれにせよ、意味するところは「負けは認めない」ということだ。
トランプ候補の脳内ではいろいろなことが起きているのだが、基本的には自分に都合の悪いことはなかったことになる。過去に言ったことでも「そんなことは言っていない」などと平気で主張する。彼の厚顔無恥ぶりは安部首相に似ている。その場でうけるためにいろいろなことを言うわけだが、あとで整合性が取れなくなる。それを脳内で補正するのだ。「負けは認めない」発言もその線に沿ったもので特に目新しさはない。
ここまでは良かったのだが、ロシアが「候補の一人が大統領選挙には疑念があると言っているのだからアメリカは監視団を受け入れるべきだ」と言い出した。誰が言ったかは分からないのだが、国営のテレビ局が報道したので政府の意思と言えそうだ。国際ニュースで一瞬見ただけなので嘘なのかと思ったのだが、USA Todayが伝えているので間違いがない。
ご存知のようにアメリカはさまざまな国の選挙にイチャモンをつけてきた歴史がある。選挙の結果が気に入らないと「民主的でない」といい、選挙に干渉したり、軍隊を差し向けたりしてきた。どの選挙が民主的に行われているかということは、アメリカの都合で決まる。非人道的な独裁者であってもアメリカの国益に沿っている限りは許されるのである。
その根拠になっていたのは「アメリカが民主主義を擁護する」という根拠のない自信だ。だが、ロシアはそれを侵食している。クリントン候補のメールがリークされ、国民などどうでもいいと考えていることが露見した。彼女のスポンサーはお金持ちと大企業なのだ。
どの国でも「民主主義が機能していない」と言われるのは嫌なものだろう。ロシアが言っていることももっともなところがある。州によってはすべての票が勝ったほうの候補者に入るので大量の死票が出る。また選挙キャンペーンを維持するためには多額の費用がかかる。アメリカの選挙は実は民主的とはいえないのである。
アメリカはプライドの面からロシアの提案を受け入れられない。これはロシアが予想している反応なのだろう。ロシアが好まない選挙結果が出たときに「あれは不正だった」と言えるからだ。
だがこれは問題の本質ではないかもしれない。大統領は働く庶民階層の代表ではないという不満がある。アメリカの民主主義は機能していないというトランプ支持者がまだ40%以上もいるのだ。