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国会の憲法改正議論が不毛な理由(3/3) 国民が選んでいないメニューが唐突に目の前に突き出される問題

立憲民主党と日本共産党が憲法審査会の開催を拒否しているという。この是非を知るためにまず総括質疑で何が話し合われたのかをまとめ、次にコミュニケーションの問題について書いた。最後に考えたいのは「選択肢がない」という問題だ。これまで憲法を軸に政策選択をしたことがない。その上に「デジタル人権」などという聞き馴染みのない用語まで飛び交っている。

国民に選択肢がなく出されたものを受け入れるか拒否するかという選択肢しか与えられていない。われわれはすでにマイナンバーカードでこれを経験している。目の前にマイナンバーカードが出てきて「あなたたちはこれを受け入れなければならない」と言われた。確かに使ってみると便利なのだが「押し付けられた」感覚が強く今でも国民の間に拒絶反応がある。マイナンバー健康保険証の利用率は高い件でも8.4%(2024/2/29現在)であり国家公務員でも4.88%(2024/2/24)が利用しているに過ぎない。

仮に憲法が改正されたとしてもそれを押し付けれらたという人たちの間には拒否反応が残るだろう。これまで国民の意見が二分してきた憲法第9条にも危険性はあるが意外と新しいデジタル人権もこうした問題を抱えるかもしれない。

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例えば緊急事態条項には(衆議院の議論を読んだだけでも)いくつかの異なる考え方がある。

  • 衆議院というのはとても大切なものであり、衆議院がないのは許されない
  • 衆議院がなくても参議院があるじゃないか
  • 議会が単独でものごとをと決めるのはよくないので憲法裁判所などを作って議会を監視するべきであろうという考え方

憲法審査会で議員たちが話し合って落とし所を見つけてくれればいいのだろうが、おそらく骨子は「持ち帰り」で話し合われており妥協の余地はあまりなさそうである。

仮にどうしてもこの中からなにかを選ばなければならないと仮定して(実はそれもかなり無理のある仮定なのだが)折り合いもつかないなら「どっちかを選ばせて欲しい」と思う人も出てくるはずである。

だが、それは不可能だ。国会が条文を決めて国民に提示することになっているからである。だから憲法改正には2/3の合意が必要なのだ。


逆に自衛隊の議論のように公明党が潜在的な懸念を示している問題もある。こちらは自民党が妥協して「面倒なことはこの際考えるのはやめてとりあえず憲法に書いておけばいいのではないか?」という提案が出ている。これを加憲という。

ところが国民民主党の玉木代表は「さすがにこれは乱暴なのでは?」という立場だ。共産党の疑念を払拭できる程度の議論をしてきちんと矛盾なく組み込むべきと主張している。


デジタル時代の新しい人権のように聞き馴染みのないものが突然提示される可能性もある。自己情報コントロール権・情報アクセス権・情報環境権・データ基本権などの言葉が飛び交っている。仮にこれが極めて重大な権利でありなおかつ国民生活に支障が出ているのであれば国民からすでに請願が出ているであろう。だがそのような話は聞かない。

まとめると次のようなことになる。

当事者の間に意見が割れている問題がある。当事者の間では解決しないので国民は「我々に選ばせて欲しい」と思うわけだが現在の憲法改正の仕組みはそうなっていない。

次に当事者の間で合意形成が難しいために曖昧になっている問題がある。これは憲法運用時に破綻する可能性がある。

最後に国民が全く望んでもいない新しい権利が持ち出されてくることもある。

なぜこんなことになっているのかは全くわからないのだがとにかく国民が関与しないところで議論が進んでいる。

維新の議員が「テレビ中継すればいいのに」とSNSのXで呟いていたが、おそらく中継されても誰もみないのではないかと思う。

いずれにせよ唐突に憲法改正の議論が行われてそれが通ってしまうと「何をいきなり唐突な」ということになりかねない。我々はそれをマイナンバーカードで学んでいるはずである。

おそらく岸田総理や自民党の一部には何としても憲法改正を成し遂げたいという気持ちがあるのだろうが、国民の理解を得るというプロセスが欠落している。憲法改正議論はさまざまな法律の基になっている。おそらく政局的興味で憲法改正を強行すれば国民生活に大きな混乱が出るであろう。

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