立憲民主党と日本共産党が憲法審査会の開催を拒否しているという。政治と金の問題を優先すべきだと言うのだ。憲法を人質にとって国会対策を進めるのは卑怯なのではないかと思ったのだが、そもそも憲法審査会は今何をしているのだろうかと疑問を感じた。そこで去年末の締めくくり審議を読んでみた。
この文章は内容を読んだ上での感想になる。
わかりやすく言うと家の塗り替え(リフォーム)セールスマンのようだと感じた。「なぜ今家を塗り替えないといけないのか」がよくわからず相場観もない。そんな状態で入ってきたセールスマンは全て詐欺師扱いされる。そんな印象である。
家をセールスマンが訪ねてくる。「お宅の外壁を見ましたが何かあったら大変なので塗り替えた方がいいですよ」と言っている。こう言う人は大抵は詐欺である。
第一どれくらいがリフォームの相場なのかがわからない。セールスマンは売上を立てるために家の塗り替えを提案するに決まっている。
ここでセールスマンが執拗に塗り替えを進めてくれば「ああ、こいつは俺を騙そうとしているんだろう」と感じるだろう。第三者の意見が欲しいところだが、そもそも報道があまりない。アンケートで「憲法について話し合ったほうがいいか」と質問すると「話し合ったほうがいい」という人が多い。だがさまざまな政策アジェンダを並べて何が優先順位が高いかと問うと憲法と応える人はほんのわずかしかいない。
現在議論が進んでいる項目はいくつもある。これについては別のエントリーでまとめておいた。
緊急事態条項(何かあった時に大変だから準備しておこう)などが話し合われている。何を変更すべきかの議論の前に「なんでそんなに急いでいるのか?」も「どうしてそんなに憲法改正が嫌なのか」のどちらもわからない。
どうやら急いでいる側は「岸田総理が任期中に改憲する」と約束したから任期中にやらないといけないと焦っているようだ。この「任期」がいつなのかという議論も行われていた。最も前のめりなのが維新である。閉会中も審査しろと言っている。自民党は「岸田総理の思いは受け止めた」とするもののどこか煮え切らない対応であり、自民党の中にも意見の相違があるようだ。立憲民主党と日本共産党はとにかく反対している。
何となく背景の事情はわかるのだが少なくとも議事録には現れてこないし、国民に対して正直な説明もない。
そもそもなぜ岸田総理が憲法改正を急いでいるのかの理由を聞いたことがない。
例えばフランスの場合は女性の権利として法律レベルでは確立している中絶権を恣意的に奪われないために憲法に書いておきたいという理由づけができていた。背景にはカトリックなど宗教的な右派の揺り戻しの懸念がある。
ところが日本の議論にはそのような切迫性が全くない。にもかかわらずどういうわけか(おそらく安倍総理を支援していた「改革派」を惹きつけたいのだろうとは思うのだが)唐突に任期中に改憲をやると言い出し、今もそう言い続けている。
まあ、一回やってみたらいいのではないか?と思うのだが、実はそれほど単純な話でもない。国民民主党の玉木雄一郎代表がこんなことを言っている。
現在憲法改正議論(具体的には緊急事態条項だ)をするとSNSでは二つの極端な意見が出てくると言う。1つは「緊急事態条項ができるとヒトラーが誕生する」というありもしない主張だ。だが逆に北朝鮮に乗り込んで拉致被害者を救出できるようになると言う極端な意見も出るそうだ。
確かにこれは理解できる。
日々政治問題について扱うブログやフォーラムをやっていると「意見やフィードバックが欲しい」と思うことがある。読者の期待に応えた記事を書けば(つまりお願い事に応えてあげたほうが)それを広めてもらいやすくなる。
ところが政治について書いている人にダイレクトなフィードバックが入ることはない。
理由を聞いてみた。ダイレクトに「フィードバックをください」と言っても誰も答えてくれないので別の機会に混ぜてなんとなく聞いた。
理由は1つではないが「下手に接触して意見を押し付けられるのが嫌」と言う人がいた。政治について語っている思い込みの強い人にうっかり近づいて何か言おうものなら相手は主張を押し付けてくるのではと思っているらしい。同調圧力に常に怯えている日本人らしい感想だ。
実際に政治について語る人とは食事にゆきたくない人が多いのは日本と中国だけという研究まである。
これを憲法改正に当てはめるとどうなるか。おそらく憲法改正議論が出た瞬間にさまざまなな思い込みの激しい人たちが自分達の主張をぶつけてくる。「どっちにしようか」迷っている人たちはおそらく「ああやはり面倒な議論だな」と感じて判断材料を集めるのをやめてしまうだろう。
さらに政治家が信頼できないという問題もある。
憲法審査会には下村博文さんが委員として入っている。政倫審で「私は何も知りません」と事実上説明を拒否した人である。そんな人たちが作った憲法草案にあなたは賛成できますか?ということになる。とても賛成はできない。
おそらく「この人たちは何か騙そうとしているのではないか」と感じる人も多くなるだろうし、感情的に拒絶する人も出てくるだろう。
このように現在の憲法改正には何層ものコミュニケーションの問題がある。
- まず、なぜ今なんですか?という「リフォームのセールスマン」問題がある
- 次に、実際に条文の是非が問われる段階になると、極端な人(おそらく彼らは分断されている)と政治議論は面倒だという人たちの間で不毛な論争が起きる
- 最後に、そもそも政治家が信頼されていないため「丁寧な説明」が「極論」に勝てるはずもない
つまり、政治について人々が話し合うような環境が整備されていないため、憲法改正議論などとてもできないだろうという結論になる。
Comments
“国会の憲法改正議論が不毛な理由(2/3) 「そもそもなぜ今憲法改正議論なのか」問題” への1件のコメント
[…] 立憲民主党と日本共産党が憲法審査会の開催を拒否しているという。この是非を知るためにまず総括質疑で何が話し合われたのかをまとめ、次にコミュニケーションの問題について書いた。最後に考えたいのは「選択肢がない」という問題だ。これまで憲法を軸に政策選択をしたことがない。その上に「デジタル人権」などという聞き馴染みのない用語まで飛び交っている。 […]