立憲民主党と日本共産党が憲法改正議論より政治と金の問題の解決が先だと主張している。「憲法を人質にとって話し合いを拒否するのは卑怯なのではないか」と思った。
その上で是非について検討しようと考えたのだがそもそも何が話し合われているのかがよくわからなかった。ほとんどまともな報道がない。そこで去年末の総括質疑の内容を一通り読んでみた。
緊急事態条項
緊急事態条項については自民・公明・維新・国民・有志の間に合意がある。
いざというときに参議院だけでは心もとないので二院制を維持する必要があるとした上で、衆議院議員の任期延長が必要という筋立てになっている。
立憲は「参議院だけあればいいではないか」という立場。国民・玉木氏は「司法の関与の重要性」に言及し立憲も憲法裁判所について言及している。
この件について小西洋之氏は「衆議院と参議院では緊急事態条項に対する議会の在り方についての合意ができていない」と主張している。最も優先順位が高く合意が簡単だとされてはいるがかなり積み残しになった議論の多い課題だと感じる。
自衛隊
自衛隊についてはほぼ合意形成ができていると中谷氏は主張している。確かに自衛隊の名前を書き加えるだけであれば簡単なように思える。
一方の国民・玉木氏は賛成ながらも「共産党から突っ込まれない程度の法律論は必要なのではないか?」と疑問を呈する。つまり単に自衛隊の存在を書き加えるだけの加憲は安易なのではないかと考えているようだ。
デジタル時代の新しい人権
今回の議事録の中では最も困惑する課題だった。そんな話を聞いたことがないと感じたからだ。仮にこれが国民の間に降りてくるとかなり困惑を呼びそうだ。
デジタル時代の新しい人権(自己情報コントロール権、情報アクセス権、情報環境権)についても議論されている。国民民主党は「データ基本権」という新しい概念について説明していた。
地方自治
立憲は地方自治についても議論したいようだ。沖縄に対する国の介入阻止が念頭にあるようだが画一的な地方自治が東京一極集中に対応できていないと言った問題もあり議論の内容は地方自治全般にわたる幅広いものになりそうだ。
地方は自治財産権を確立すべきだと指摘されているがm憲法ではなく法律でも議論は可能なのかもしれない。
参議院の合区解消や地方の声を生かすための一票の格差問題の柔軟な運用も必要だろうとしている。
本来なら地方から要望が上がったものを国会で処理すべきなのだろうが、地方議会は権限は欲しいが責任は追いたくないという人が多いのではないかと感じる。また実際に権限が降りてきたとしても地方にはそれを担える人材がいない可能性がある。
国民投票法
国民投票法については自民・公明・維新・有志の四会派で合意ができているが立憲とは隔たりがある。これは政府を信頼できるかという主観の問題であり隔たりは埋まらないだろう。
ただしそれ以外にも実は重大な懸案事項がある。それがフェイクニュース対策だ。
立憲などは豊富な資金を使った側がCMを大量に流し世論誘導をすることを気にしているようだが、広報の縛りを厳格化すると世間一般が流すフェイクニュースに対抗できなくなるという懸念もある。
そもそも何がフェイクニュースなのかがはっきりとしない。憲法審査会の意図とは違う議論が全て「フェイクニュース扱い」されている。
国民・玉木氏は、緊急事態条項をについて提案すると「ナチスが生まれる(ありもしない)」や「朝鮮民主主義人民共和国に乗り込んで行って拉致被害者が救済できる(できもしない)」情報が乱れ飛んでいると主張している。
今後のスケジュール
最も困惑するのが今後のスケジュールである。立憲民主党と日本共産党は何か理由があり憲法改正案を出させたくない。一方で維新は何らかの理由があり最も前のめりだ。
だが自民党の立ち位置が実はよくわからない。
中谷氏は「具体的な条文を検討する機関を作るべき」と提言している。だが、維新は具体的な姿が見えていないと苦言を呈している。
岸田総理は9月までにまとめたいと言っているようだが、果たして自民党は本気なのかと問うている。
維新は閉会中も審査をすべきと主張する。また、国民民主党も臨時国会のうちに条文策定を行うべきだったと苦言。
共産党は憲法改正を優先順位と考えている国民は多くないのになぜ改憲勢力は憲法改正を急ぐのかと批判していた。その後は「岸田・大軍拡」についての持論を展開しており、おそらくは憲法改正そのものに興味がないのだろう。
下村博文委員は「憲法審査会は小田原評定(何も決めないダラダラとした会議)だ」と中谷氏などに批判的な意見を展開しており維新に近い印象だ。
Comments
“国会の憲法改正議論が不毛な理由(1/3) そもそも何が話し合われているのか” への2件のフィードバック
[…] 立憲民主党と日本共産党が憲法審査会の開催を拒否しているという。政治と金の問題を優先すべきだと言うのだ。憲法を人質にとって国会対策を進めるのは卑怯なのではないかと思ったのだが、そもそも憲法審査会は今何をしているのだろうかと疑問を感じた。そこで去年末の締めくくり審議を読んでみた。 […]
[…] 立憲民主党と日本共産党が憲法審査会の開催を拒否しているという。この是非を知るためにまず総括質疑で何が話し合われたのかをまとめ、次にコミュニケーションの問題について書いた。最後に考えたいのは「選択肢がない」という問題だ。これまで憲法を軸に政策選択をしたことがない。その上に「デジタル人権」などという聞き馴染みのない用語まで飛び交っている。 […]