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日本経済は成長型経済に移行しつつあるのか?

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岸田総理が総裁選不出馬を決め総裁選レースがスタートした。国民は直接関与できないとは言え、候補者の経済政策に注目している人は多いだろう。4-6月期のGDPが発表になり名目・実質ともに成長が確認された。岸田政権の経済政策は正しかったと思いたくなる。

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4-6月期のGDPは名目・実質ともにプラス成長になった。NHKは岸田総理の「日本経済は成長経済型に移行しつつある」との認識とともにこのニュースを伝えている。読売新聞も経済実感に近い実質GDPもプラスに転じたと言っている。

普段から懐疑的なことばかり書いているがさすがに「明るいニュースを信じたいなあ」という気持ちになっている。だからこのニュースは素直に受け止めたいところである。

ところがそうはならない。

時事通信は「実感が伴っていない」と書いている。自動車生産が滞っていた前期の揺り戻しが来たと言う認識だ。産経新聞も同じ認識を示している。さらに時事通信の別の記事は「実額」という別の概念を持ち出し「実額ではマイナスだ」と指摘する。ただし実額の定義は示されていない。

ただ、実質GDPの実額は約559兆円で、前年同期の約563兆円を下回る。約608兆円となった名目GDPの伸びに実質成長は追い付いていない

大台突破も実感乏しく 4~6月期GDP

これをやや詳しく書いているのが東京新聞だ。2名の識者の見解を引用している。

名目GDPと実質GDPの伸びが乖離している。これは物価高による上昇だとの説明である。経済成長というと同じお金でたくさんのものが買えるようになったりより便利な家電やサービスが登場して国民生活が豊かになるという印象がある。だが、東京新聞は単に物価が上がっているだけと言っている。

第一生命経済研究所の熊野英生氏は物価だけが上がれば消費は抑制されると言っている。つまり岸田総理のいう「好循環」は生まれていないということになる。経済が成長しても生活実感が苦しくなっては意味がない。

企業収益は好調で一部労働者への分配も始まっている。だが、野村総合研究所の木内登英氏によるとその恩恵に浴していない人たちも大勢いるため(全体的な)内容は良くないという。二極化が進行してしていて国民全体が経済実感の好転を感じにくくなっているのだ。

高度経済成長期のように国民生活全体が豊かにより便利にと言う時代ではなくなりつつある事はわかる。

このような状態になっているため政治家によって経済認識が全く異なる。経済に関する日本メディアの情報を読めば読むほど話がわからなくなってしまうのはこのためだ。

まず岸田総理は自分が正しかったといいたいのだから当然「成長型経済に移行した」という。新藤経済再生担当大臣もこのポジションであり名目と実質の乖離は問題視しない方針だが「投機によるボラティリティが心配」と付け加える。つまり現在の政権に参加している人たちは「経済の好循環が生まれておらず、かつ国民全体が恩恵を感じることができていない」という状況をあえて無視する傾向がある。

連合を支持母体玉木国民民主党代表は「連合は成長経済への道筋を付けたが日銀の早急な利上げがそれを邪魔した」と主張する。このような主張をする人は自民党にも多い。以前長島昭久氏の「経済政策」について触れた事がある。保守をつなぎとめようとアベノミクスの継承を訴える人たちはこのポジションを取る人が多い。自民党の政治家は今までの政治が間違っているとは言えないので「約束は実現するはずだがまだ道半ばだ」と説明する傾向がある。

一方でとにかくアベノミクスが良くないと言う政治家が立憲民主党には多い。とはいえ、彼らの主張はアベノミクスの修正提案(つまり利上げ)を避けて、国民に対する国庫からの支援強化を謳う傾向が強い。これは当然利上げを難しくし「ゾンビ企業」と呼ばれる不健全な企業の温存につながる。一方で投機筋が金利の低い日本で資金を調達する円キャリートレードの温床となる。

構造としては

  • アベノミクスに一定の効果があったから出口が見えてきた
  • アベノミクスには効果がなく弊害だらけだったが、国民支援策は継続したい
  • アベノミクスには効果があったが、国民支援策は継続したい

というものの見方の違いがある。

さらに何でも他人のせいにしたがる人達がいる。

  • 政府は正しいことをやっているが投機筋が問題を引き起こしている
  • 労働組合は機能しているが日銀が足を引っ張っている
  • とにかく自民党のやり方が良くない

メディアはこれらの発言を単に右から左に流すだけで議論を整理しない。

国民は混乱した議論を受けて「どうせ政府が何をやっても自分たちの生活は変わらないだろう」と考え始めている。政治家やメディアの発言を細かくチェックしている人は多くないはずである。国民の関心は政府の直接支援(なにかの給付)と株価・為替の動向である。後者は日本経済とはなにの関係もないアメリカ経済の従属変数だ。国民はとにかくすぐに自分たちの口座に何かが振り込まれるニュースだけを見たがり、面倒な生産性向上にを意識しなくなった。

これでは政府がいくら働きかけても国民生活や生産性が向上することはない。だから少子高齢化も地方の過疎化も進み続けている。

本来ならば国民に対して「ああそうだな」と思えるような働きかけができる自民党総裁が生まれて欲しいところだ。だが、すでに内輪の論理による自民党総裁選びが始まっており少なくとも9月に期待できる総裁が誕生することはなさそうである。

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