長島昭久議員のXアカウントをフォローしている。アメリカの情勢と防衛・安全保障政策の知見に優れていると考えるからだ。おそらく独自人脈もかなりお持ちなのだろう。主張に深みがある。
その長島さんが経済政策についての提言をしているので読んでみた。「ああこれはひどいな」というのが感想だ。
だが、最も大きな問題点は誰もこの政策を読まないだろうという点にあるんだろうと感じた。国民が安倍政治の何に期待していたかについて絶望的に読み違えている。
長島さんの記事のタイトルは「「デフレ脱却」の最大チャンスを潰してはならない!」である。アベノミクスの継承を訴える内容だ。安倍総理の国民的人気は高くその継承を狙っている政治家は多い。だが誰もそれに成功していない。
最初に金融緩和と財政出動について称賛したうえで実質賃金が27ヶ月ぶりに前年比プラスになったとしている。無理がある。
第一に金融緩和と財政出動の組み合わせが円キャリートレード環境を生み投資環境を不安定化させたことが広く知られるようになってきた。その原因はアベノミクスであるという点にも国民は薄々気がついている。日本政府が低金利状態から抜け出せないことを海外投資家は見抜いているからだ。アベノミクスは経済の坂道を緩やかにすることを狙った政策なのだが、結果的に国民はこの楽な状態に慣れてしまい坂を登らなくなった。
ちなみに経済の坂を急なものにすると経済は活発になるが富裕層への資産転移が進み中間所得者と低所得者がゲームから脱落する。アメリカ合衆国はこの状態に陥りかけている。
資本主義は案外残酷なゲームである。国民が気が付かない程度の急な坂道を作り適度に運動させなければならない。日本とアメリカは対極にあるがそれは1つの現象の2つの極だ。
また企業は政府を信頼しなくなっておりベースアップによって成果を分配せずボーナスで成果を分配したがる。だから27ヶ月ぶりの実質賃金アップはボーバス効果で一時的に上がっただけの可能性が高い。実際に家計消費は抑制傾向が続いており実質賃金が継続的に上昇するかはしばらく様子を見なければならないだろう。これを引き合いに出すと後で苦労するかもしれない。またマイナスに戻ったときに言い訳を考えなければならないからだ。おそらく「すべて日銀のせい」にする人たちが出てくるだろう。
次に日銀の利上げが株式市場を混乱させたと言っている。株式市場の混乱はアメリカの雇用と円キャリートレードの解消が図られたことが原因である。また、それは海外投資家によって引き起こされた可能性が高い。確かに株価の好調は多幸感にはつながるだろうが日本経済全体に接続するのは少し無理がある。
デフレ脱却のために日銀は今の政策を続けるべきだと言っている。この論には2つの無理がある。
- 仮に日銀の政策が良い政策ならそれはアベノミクスが始まったときにすでに実証されているべきだ。だが未だに「デフレ状態」から脱却できていない。
- 企業は貯蓄を増やしているのだから(それは長島さんのブログ記事に書かれている)お金を借りる必要はない。つまり金利と投資にはなんの関係もない。
ここまでで読むのがしんどくなってきたのだが結論を読んで深い溜め息が出た。日銀は雇用の拡大を目指すべきだと言っている。
- え、人手不足なんじゃなかったでしたっけ。
ただここまで読んでくると「事の本質」はわかってくる。確かにアベノミクスは環境を作った。だがその環境に合わせて「もう少し頑張ってみよう」と感じるか「ああもう頑張らなくていいんだ」と考えるかは受け手の気持ち次第である。またデフレマインドも経済的な現象というよりは「この先賃金は伸びず社会保障も破綻してしまうかもしれない」という見込みの問題だ。
つまり全て「主観」の問題なのだ。
この長島提言がメディアで取り上げられることはなく、自民党に落胆した保守の気持ちを取り戻すこともないだろう。実は保守と呼ばれる人たちも政策の中身でなく主観でアベノミクスを支援していた。
安倍・福田・麻生政権は経済を立て直すことができなかった。自民党は内紛を始め不祥事が相次いだ。日本の政治の混乱を見ていると何故か惨めな気持ちになる。
そこに出てきたのが民主党政権である。主観は2つに分かれる。
- 「何を言っているかわからないがとにかく国民負担はなくても大丈夫らしい」「自民党みたいな惨めな政治を見なくていいらしい」と主観的に期待する人たち
- 「何を言っているかわからないがとにかく日本は駄目だ駄目だと言い続けている」「なんか聞いていると惨めになる」と主観的に反発する人たち
民主党の失敗はふわっとした主観に依存しすぎた点にある。藤井裕久氏が「マニフェストはざっくりしたものでもよく財源などはあとから考えればいい」と指導したと言う逸話が残っている。結果的に日本人はマニフェストを信頼しなくなった。
安倍総理のメッセージは実は単純なものだった。
- 日本はダメじゃない。ダメだダメだと言っている民主党こそが悪夢で全ての元凶なのだ。
- 日本は変わらなくてもいい。すべてうまく行っている。嫌なことは考えなくていい。
結果的に事実上の政府の財政ファイナンスによって国民負担を押入れにしまい込んだのが安倍総理の成果である。結果的に企業は現状に甘んじるようになりイノベーション意欲が損なわれた。国内市場は成長しなくなり企業は海外に逃避した。
だが安倍総理を支持した日本人にはそんなことはどうでもよかった。そもそも日本が成長できなくなっていることはわかっていて成長に期待もしていない。だが民主党のようにそれを正面から「こんなことじゃダメだから我々が変わらなくてはいけない」などと言われると惨めになる。
岸田総理が仮に安倍政権の秘密を理解していれば(結果的に理解しなかったことは日本にとって不幸中の幸いだったとは思うのだが)「あなたがたは何もしなくても仕組みを変えれば問題はすべて消えてなくなりますよ」と主張しただろう。
だが岸田総理はまず「防衛増税」を持ち出し国民にさらなる負担を想起させた。次に所得を倍増するといい何もしなかった。次に所得ではなく投資によって所得が倍増すると言い出した。さらに企業が賃金を上げてくれれば問題は解決するとした。
つまり岸田総理は安倍総理と全く反対のことをやっている。全てはあなたたち次第だがもらうものはしっかりもらいますよと言っているのである。
もともと「何をやっても将来不安が増すばかりで暮らしを良くする道が見つからない」と考えていた国民は岸田総理の登場でようやく「そのままで大丈夫」というメッセージが虚偽であることに気がついた。
ところが事態はそこで終わらなかった。
安倍派の中で不適切な会計処理が横行していることがわかってきた。安倍総理のメッセージは「すべてこちらでうまくやっておきますから、あなた達はなにもしなくていい」だったが、実際にはちっともうまく行っていなかった上に誰も責任を取ろうとはしない。やはり日本の政治は二流なのだなあ、関わったり期待しないほうがいいのかなあと多くの人が思い始めているのではないだろうか。
今の政治を見ているとなんか惨めな気持ちになる。だったらオリンピックで日本人が金メダルを取っているところだけ見ていたい。
さらに岸田総理、河野太郎、茂木敏充氏らの「円安は容認できない」という発言を受けて植田総裁が金利の引き上げを発表すると「投資による所得倍増」もでたらめだった事がわかった。
多くの政治家が安倍総理の人気にあやかろうとあの手この手で安倍総理の政策を継承しようとしている。しかし、これらの政治家が見落としていることがある。安倍政治の秘密は変化の拒絶と眼の前の問題からの逃避だ。政策そのものではない。
だから形式的に経済政策を模倣したり憲法改正を声高に叫んでも誰も期待しないのである。
末筆ではあるが今後も長島昭久議員の安全保障に関する提言に期待したい。
コメントを残す