ロシアとウクライナの戦争が始まってすぐに北海経由で天然ガスを送るノルドストリームが破壊された。当時はロシアとウクライナ双方がお互いを批判していたが、このほどドイツ当局がウクライナ人の仕業だったと断定した。容疑者はすでにポーランドを出国し行方がわからなくなっている。ウクライナは依然として関与を否定しロシアを非難しているが、このウクライナ人が誰に頼まれてノルドストリームを破壊したのかはわからなくなっている。
「ノルドストリーム攻撃の男、独が逮捕状も出国=ポーランド検察当局」によると、ノルドストリームを破壊したのはウクライナ人の男性で名前も特定されている。ドイツはポーランドの裁判所に通告を行っていたがどういうわけか国境警備には情報が渡っていなかった。このため男はすでにポーランドから出国している。容疑者から事情を聞けない以上はこの男が誰に頼まれてノルドストリームを破壊したのかはわからない。ウクライナ政府は関与を否定しロシアを非難している。
当時は一方的にウクライナを侵略したロシアが絶対的に悪でありウクライナには問題がないとする見方が一般的であった。「ロシア側に正義がある」という偽情報を交えたプロパガンダ情報も多数飛び交っていたため、ウクライナ政府が何らかの破壊工作に関与したとみなされる情報はタブーだったといって良い。
今回の記事を読んでも未だにウクライナが不利になる情報はタブー視されていることがわかる。スウェーデンとデンマークは独自に調査したが「容疑者不詳」で調査を打ち切っている。
ドイツも「連絡ミスで容疑者が逃亡した」という体裁にしている。だが、これが本当なのかはわからない。だが「今回の件でウクライナとドイツの関係が悪化することはない」としている。つまり破壊事件とウクライナ政府を分離しようとしている事がわかる。仮に男が拘束されてしまうと男を取り調べなければならなくなり背景情報が明らかになる。
ドイツの政権にとってこれは国内問題でもある。極右「ドイツのための選択肢」はウクライナへの武器支援に反対し続けている。このためウクライナに不利な情報はあまり伝わってほしくないと言う事情もあるのだ。
BBCやCNNなどのメディアを見るとウクライナがロシア領を侵犯した事件はウクライナの躍進・ロシア兵のやる気の無さ・プーチン大統領の統治の正当性の失墜・ロシア国民の動揺という伝えられ方をすることが多い。一方で戦略の合理性や持続性に対する検証はほとんど行なわれていない。
唯一語られるのが和平交渉に対する影響だ。
ロシアは今回の件が領土交換に持ち込まれることを恐れており「いかなる和平交渉にも応じない」という姿勢に転じている。また和平サミットへのロシアの参加は見通せなくなった。プーチン大統領にとっては東部4州などの併合のみが選択肢でありこれを失うことはロシアの領土が奪われたのと同じ意味合いを持っている。
ウクライナがロシアに侵犯したことで「一方的にウクライナが被害者である」とはみなせなくなりつつあるがウクライナを支援する西側各国はこの状況を見て見ぬふりをすることになるだろう。各国ともウクライナ支援に強くコミットしておりここから抜け出せなくなっている。
事態が長期化すればするほど「一方的な防衛戦争」と現状の維持は単なるフィクションとなることがわかる。あるいは最初からそんな実体はなかったのかもしれない。だが、このフィクションは我々の西側国家が現在の体制を維持するためには欠かせない重要な物語であり安易に「いやそれは違うのではないか」と言い出すことは難しくなりつつある。
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