アメリカで各種統計が発表されるたびにさまざまな観測が流れ金融市場は一喜一憂する。今回はGDPが思っていたほど好調ではなかったことでニューヨークの株式市場が下げている。
経済が傷んでいるのなら利下げが行いやすい環境が整ったのではないかと思えるのだが、実はそうなっていない。経済は好調そのもので、それがGDPを押し下げているのだ。
一体どういうことなのか、そしてそれがどうして日本の為替政策に影響を与えるのかを順番に見て行く。
アメリカの経済は好調そのものである。特に個人消費が好調だ。個人消費が好調になると輸入が増える。輸入はアメリカ経済にとって赤字となるのでGDPにマイナスの影響が出る。好調な経済の影響を受けてアメリカの労働市場もタイトな状況が続いている。アメリカの経済を健全に維持するためには個人消費を抑える必要がある。
このため、FRBが本当に年内に利下げができるのかが怪しい状況になってきた。本来の適正な為替水準は130円台と言われているそうだが日米金利差のためにこれが155円まで移動している。そんな情勢である。企業の財務担当者は計画が立てられずかなり苦しい思いをしていることだろう。
本来ならアメリカの金利に合わせて日本の金利を上げるべきだ。だが、現在の自民党内では金利上昇を是認できるような環境になっていない。そもそも経済対策が必要という認識もまとまっていないようだ。党内ポピュリズムを代表する片山さつき氏などは「利上げはやらずに商品券やポイントを配ってはどうか」と提案する。おそらく有権者はこのようなバラマキ政策を歓迎するだろうが、おそらくこれは状況を悪化させることはあっても好転させることはない。
すると円安を放置するか為替介入を行なって円高に誘導するのかという選択肢が出てくる。アメリカの金利が高止まりし金利差が縮小しないことを前提とすると為替介入を実行すべきではないかとも思える。
まず、どのような時に為替介入が行えるのかを見ておきたい。
アメリカ合衆国は日本や中国などが自国の製造業を有利にするために為替を低く誘導していると警戒している。こうした操作を行う国を為替操作国という。毎年為替操作国や監視対象国を指定していて、現在はスイス・中国・台湾・韓国・ドイツ・マレーシア・シンガポールが監視対象になっている。日本は監視対象から外れている。
もちろんこれには例外がある。
- 交易条件以外の理由(主に投機)で為替が変動する。
- 当事国同士で懸念が共有されている。
もちろん表向きは通貨は国家主権なのだから日本が独自で動いても構わない。さらに今回は行きすぎた円安の解消であり本来の為替介入には当たらない。
だが、アメリカ議会は外に敵を設定し執拗に叩く傾向があり日本政府は議会に睨まれたくないという気持ちを持っている。さらにバイデン大統領を説得したところで議会への影響力は限定的だろう。
鈴木財務大臣は「介入の条件はクリアした」と言っており、一見介入に向けた環境整備が整いつつあるように見える。実際に日銀会合後に介入が行われたことがある。そして、この時には一定の成果が出ている。だから今回も「日銀会合後に介入があるのでは?」などと期待されている。
だがロイターが指摘するように1年半前の成功体験はアメリカの利下げ予想に裏打ちされたものだった。さらにイエレン財務長官も「為替介入は例外的でなければならない」としており、日本は失敗が許されない。そう何度も行えないのだ。
岸田総理が求心力を失っており、自民党の中で経済対策がまとめられないという事情を考え合わせると、為替介入も行われず(あるいは行われたとしても大した影響は出ず)政府も何ら対策を打ち出さない可能性がある。将来に向けた増税や社会保障費増加の議論だけが先行するという状況に落ちいりかねないわけである。