ざっくり解説 時々深掘り

なぜ麻生太郎氏のトランプ訪問はアメリカを感情的に怒らせる「やらかし」なのか

麻生太郎元総理がアメリカを訪問した。テレビ東京はトランプ氏との面会が決まったと伝えている。「ああこれはバイデン政権を怒らせることになるだろうな」と感じたのだがその理由の説明が難しい。日本人はプリンシプルという言葉を理解しないからである。だが結果的にこの訪米はかなり大きなやらかしでありアメリカ人に生理的な嫌悪感を与えるだろう。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






日本では「もしトラ」という言葉が語られるようになっているため、不確実性を嫌う日本人は今回の訪米を自然で道理にかなった行為のように思えうかもしれない。麻生氏は無事に接触に成功しトランプ氏との会談が実現するようだとテレビ東京が伝えている。

だが、おそらくこれはバイデン政権を怒らせることになる。それは合理的な怒りではなく生理的な不快感を与えるだろう。

だがなぜアメリカ人がそれほど怒るのかを説明するのが難しい。

アメリカ人は「プリンシプル」を重要視する。プリンシプルにはいくつかの意味があるのだがここでは「人の行動原理」を指している。つまり現行一致のことである。

岸田総理はバイデン大統領を訪問し日本はアメリカを全面的に支えるなどと言っていた。日本では「共和党・民主党のバランスをとった」などと言われているが、バイデン大統領に直接対面しビーストにも乗せてもらっているのだからバイデン大統領と約束をしたと言って良いだろう。

だがその舌の根も乾かぬうちに麻生太郎氏がアメリカを訪問しトランプ氏に接触している。表面的にはニコニコしていたにも関わらず裏ではバイデン氏が落選した場合に備えているのだということになる。つまり「岸田総理はずるい」と思われてしまう。岸田総理の言行は一致しておらず彼のプリンシプルがわからない。アメリカ人はこれを生理的に嫌う。

ところが日本人はこのプリンシプルを理解しない。個人の考えよりも周りに合わせることが良いことなのだと捉えられる傾向があるためだ。このためアメリカに慣れた日本人でも無意識にこのプリンシプル原則をブリーチしてしまいアメリカ人を怒らせることがよくある。

さらに日本人に「日本人には原理原則に基づいた行動ができない」と伝えるのも悪手だ。自分が屈辱されたと考える人が多く「アメリカ人だって裏表のある態度を取ることがあるのではないか」と反論される。確かにその通りなのだが、生理的なプリンシプルがブレることを嫌うアメリカ人は何かしらの理屈をつけてプリンシプルが一貫していると「説明」したがる。

これは嫌われるだろうなと感じたのだが、TBSがバイデン政権の関係者が「下品だ」と言っていると伝えている。やはり感情的に嫌悪されているようだ。

わずか10日ほど前には岸田総理が国賓待遇で訪問し、バイデン大統領との会談をはじめ、大統領専用車「ビースト」に同乗するなど“厚遇”を受けたばかり。その直後に麻生氏が大統領選の対立候補への接触を試みていることに、「全く下品で全然だめだ」と眉をひそめます。

政府が送ったエージェントが麻生氏であるという点も問題だ。麻生氏はアメリカ人と一対一で交渉できる人物に憧れを持っている。それが祖父の吉田茂と上川陽子外務大臣である。祖父の帽子を模倣し上川陽子氏は「顔は大したことはないが胆力がある」と褒めてみせた。

吉田茂総理は日本はアメリカに負けたが精神的には飲み込まれたくないというプリンシプルを持っていた。また上川陽子氏も女性が紛争解決や和平交渉に参画することで男性とは違った貢献ができるはずだというプリンシプルを持っている。だからこそ彼らはアメリカ人と対等に話ができる。利害が一致せずともアメリカ人は「自分なりの考えを持っている人」が好きだ。

ところが麻生太郎総理大臣にはプリンシプルがない。単にプリンシプルを持った人に憧れを抱いており彼らのようになりたいと考えている。このため彼は形にこだわる。だが形にこだわればこだわるほと「彼は下品だ」ということになる。単に自分を大きく見せたい人は下品なのだ。

トランプ陣営は日本の狙いがよくわかっている。時事通信がトランプ陣営のスティルウェル前国務次官補の発言を伝えている。アメリカのアジア重視の姿勢はバイデン大統領のオリジナルではなくトランプ政権時代に始まったものだと言っている。有権者の隠れた欲望に火をつけて支持を引き出すトランプ氏の活動はこうしたリアリズム的な側近に支えられている。「狂人理論」のニクソン大統領と「リアリズム外交」のキッシンジャー氏のような関係ができているということだ。

今回の麻生訪米を伝えるロイター通信も次のように書いている。世界のリーダーたち(つまり麻生さんはそのOne of them=その他大勢になっている)トランプ大統領こそが世界平和に貢献すると知っていると宣伝しているのだ。

Leaders from around the world know that with President Trump we had a safer, more peaceful world,” Trump senior campaign adviser Brian Hughes said on Monday.

“He is widely recognized as a leader who, with the support of the American people, kept our nation and allies safe, our enemies in check, and American workers protected from unfair globalist trade policies.”

バイデン大統領の狙いはフィリピンの大統領と岸田総理をホワイトハウスで引き合わせ(トランプ氏と違い)自分は国際協力の枠組みを構築できるリーダーであると示すところにあった。

アメリカの有権者たちはアメリカこそが世界を善道する輝かしいリーダーであると考えており、バイデン・トランプ両氏は有権者たちの誇大な自己認識に応えるためにあの手この手だ。

その意味で岸田総理訪米の後の麻生元総理訪米は彼らの根幹的な価値観に触れる壮大な「やらかし」になっている。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です