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火付盗賊戦略 なぜトランプ氏は「ウクライナは大切」と態度を豹変させたのか?

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イスラエルとウクライナを支援する予算が連邦下院で採決され上院に送られた。この判断に大きな影響を与えたのがトランプ氏の態度変容だったと考えられている。ここで「なぜトランプ氏は態度を変えたのか」と疑問を感じる人がQuoraにいた。

これはトランプ氏のいつものやり方なのだが意外と知らない人がいるのだなと感じ理由を一通り書いてみることにした。

トランプ氏は議論の「火付盗賊」のような側面がある。盗賊なので盗れるものだけ奪って現場から逃げてしまうのだ。そしてこの火付盗賊は大抵の場合うまく行ってしまう。アメリカが民主主義の国だからである。

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トランプ氏が態度を変えたと読売新聞ロイターが書いている。これまでウクライナ支援に反対だったのに賛成に回ったというのである。確かに表面上はそう見える。だがトランプ氏はおそらく最初からウクライナに関心はない。

この話題に入る前に興味深い事例を紹介したい。トランプ氏の手法がよくわかる。

アメリカ合衆国には「アメリカが白人の国でなくなる」と怯えている人たちが大勢いる。彼らはアメリカを白人の国に戻したい。それがMake America Great Again運動の本質だ。そのためにはキリスト教の伝統を復活させることが重要だ。キリスト教では中絶は単なる殺人なので禁止されなければならない。これがプロライフ運動が盛り上がる理由の一つだ。隠れた欲望をキリスト教の伝統で覆い隠している。

そこでトランプ氏は最高裁判所に保守系判事を送り込み連邦レベルで中絶禁止の法律を無効としたロー対ウェイド判決を覆させた。

この影響を受けてアリゾナ州では1864年に作られた中絶禁止法が復活しそうになっている。アリゾナは州ではなく女性にも参政権はなかった。民主党議員たちは怒り狂っているが共和党の支持者たちにとってみれば怒り狂っている議員たちをみるのも楽しい。道徳的感情が満たされるからである。

ところがこの動きはトランプ氏に不利になる可能性がある。女性の権利を守りたい人たちが大統領選挙に合わせて住民投票を行い「バイデン氏を支持し中絶の権利を守ろう」と訴えればどうなるだろうか。選挙に行く人が増えトランプ氏は不利になるだろう。

そこでトランプ陣営はこう考えた。「もう私の問題ではないと宣言しよう」と。

トランプ氏はこの問題はそれぞれの州が考えればいいことで、連邦で一律に中絶反対の法律を作ることはないし議会からそれが送られてきても自分は署名しないと態度を変えた。つまり自分が火をつけた議論から逃げてしまったのだ。

今回の議論も「火付け盗賊式」説明ができる。これまでトランプ氏はバイデン親子がウクライナと私的に結びつき私服を肥やそうとしていると散々議論を煽ってきた。そしてそれ以上の大問題として国境政策を掲げた。中南米から入ってくる移民が白人中心のアメリカ合衆国を破壊すると議論を煽ったのである。

こうして国境問題は徐々にアメリカ大統領選挙の中核問題へと進展してゆく。つまり政治家が人々から盗もうとしているというディープステート論に具体的な政治アジェンダを当てはめてみせた。人々の中にある漠然とした不安に形を作ってやった。たったこれだけだったが議論は大いに盛り上がった。

ところが議論が盛り上がりすぎると今度は弊害が出てくる。ウクライナ予算が通らなくなってしまったのだ。ウクライナが負ければ「共和党のせいだ」ということになる。民主党に格好の攻撃材料を提供することになり、なおかつレーガン以来「穏健で現実的な」外交を志向してきた穏健共和党支持者たちの離反につながっていただろう。

そこでトランプ陣営はこの議論から逃げることにしたのである。

今回ヨーロッパ版のポリティコが興味深い記事を書いている。なぜドナルド・トランプはウクライナを憎むのかという記事だ。トランプ氏は依然バイデン親子がウクライナで私服を肥やそうとしているという議論に執着しているという内容だ。

トランプ氏はウクライナに興味はないがバイデン親子は追い落としたい。今回、ウクライナ支援の一部は借款になっており大統領に減免権限がある。トランプ氏が大統領になった暁には「借金を背負うかそれともバイデンが汚職に関わっていたという証拠を出すかどちらがウクライナにとって正しい選択なのか?」とウクライナに対して言えるようになるようになる。バイデン・トランプの争いに巻き込まれたくないウクライナ政府はこの問題に立ち入らないようにしているようだが、おそらく今回のディールにはそのような狙いもあるのではないかと考えられる。

トランプ氏に人気がある理由がよくわかる。トランプ氏は政治には興味がない。彼は人々がどうすれば自分を喝采してくれるのかだけを常に考えている。そのためには人々の秘めた欲求や欲望を解放してやるのが良い。ニューヨークで始まっている口止め料裁判の側で「私は真実を発見した」と主張する人が焼身自殺を企てたが、人々は常に自分の主張は正しいと証明したがっている。

ただこの自己証明欲求は非常に可燃性が高く危険なため、トランプ氏自身はそこから静かに距離を置く傾向がある。盗れるものは獲ったのだからもう議論には要はない。

ただこの戦略は必ずしもいつもうまくゆくとは限らない。トランプ氏は大統領選挙結果を覆せ!と叫び実際に人々は議場に乱入し国政を混乱させた。結果的にこれは刑事裁判になり2024年3月にも公判が開かれる予定になっていた。現在トランプ氏は「大統領は何を言ってもいいのだから免責しろ」と訴えている。今回も騒ぎから逃げようとしているがそれがうまくゆくかどうかは誰にもわからない。

民主主義はこうした火付盗賊型の議論に弱い。だが出口戦略も準備しておかないと自分も丸焦げになる可能性がある。

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