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人はおかしくなるとどうなるのか トランプ氏の裁判に抗議して焼身自殺した男が訴えたかったこと

先ほどABCニュースでトランプ氏の裁判が行われている裁判所の近くで男が焼身自殺を図ったというニュースを見た。ダメもとでGoogleに(英語で)マックス・アザレロ(Max Azzarello)氏は何と言っているのか?と検索したところNewsweekの記事が見つかった。

Newsweekの記事にはPDFがリンクされており、そのPDFの原典はSUBSTACKという個人がニュースレターを配信できるサービスだった。もうすぐに消されてしまうのかもしれないが残っているうちに読んでみようと考えた。

人がじわじわと狂ってゆく様子を知ることができる。彼は政治家が自分達のお金を盗もうと企んでいると考えているようなのだが、途中にシンプソンズが出てくる。あのアニメのシンプソンズは「洗脳装置」なのだそうだ。この辺りで「あ、この人は……」と感じる。

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マックス・アザレロ氏は現場で命だけは取り留めたが金曜日のうちになくなっているそうだ。以下The New York Timesが彼の人となりを取材している。The New York Timesは彼を「パラノイア」と表現している。

2009年にノースカロライナ大学で人類学と公共政策の学位をとりラトガーズ大学で都市計画と地域計画の修士号を取得している。陰謀論について語ることはあったが友好的な人だった。だが2022年4月に母親がなくなっている。そしてLinkedinの職業欄に「調査研究者」と記載した。フェイスブックには精神病棟に3日入院したという記録を残しているそうである。

マックス・アザレロ氏の文章は「政治家が終末論的ファシスト世界クーデターを起こそうとしている」と始まる。ここまではありきたりの陰謀論である。彼はシリコンバレーバンクの破綻で違和感に気が付き「調査」を始める。そしてすぐさま仮想通貨の足跡が至る所にあると突き止めた。もちろん新型コロナウィルスもその企みの一部である。そしてこの銀行破綻は株式市場の半分が崩壊すると気がついた。

これは大変だ。

でもまだこの陰謀を疑うかもしれないと彼は続ける。デュカキスの頃から既に政治はおかしかった。実はビル・クリントンは密かに元CIA長官であるG.H.Wブッシュとグルになっており「プロレスまがいの」政治ショーを行っているという。

この箇所はアメリカの政治をよく知らないとわからない。

ロイターに当時のことを書いた記事があるので調べてみた。レーガン大統領(共和党)に人気があった時代で、民主党は3代に渡って共和党候補に敗れている。この最後が1988年のデュカキスだった。次のクリントン大統領はレーガンコンセンサスと呼ばれる共和党的価値観の妥協によって生まれた大統領とされている。これまでの共和党でも民主党でもない価値観のことを「第三の道」と呼ぶ。アザレロ氏はこの共和党に妥協した民主党が好きではないのかもしれない。ロイターにはこのように記述されている。

「レーガン・コンセンサス」は、ジョージ・W・ブッシュ政権の失敗によって地に墜ちた。2008年のグローバル金融危機において自由市場資本主義がもたらした破壊を経た今日、「民主社会主義者」という名乗りは、それほど過激とも思えない。時代は変わった。多くの民主党員は、クリントン時代の妥協を、本来の民主党の価値観に対する裏切りとして否定したがっている。

ここまではなんとなくよくある陰謀論という気がするのだが、ここに唐突にシンプソンズが出てくる。あのアニメのシンプソンズだ。2つのエピソードを引き合いに出しつつ、リサ・シンプソンズがいかにして政治家の欺瞞を世の中に訴えようとしてきたのかを力説している。

当然ながらシンプソンズは「政治家はこんな悪いことをやっているかもしれないなあ」という世の中の漠然とした違和感を面白おかしい笑いに変えているのだから、彼が「ピンと」きても当然だ。だが、アザレロ氏はここに隠されたメッセージを感じ取ってしまったようだ。そして、シンプソンズも「洗脳だ」と結論づけている。つまり政治に対する皮肉だとは考えずに「これは我々を現実に慣れさせるための手段なのだ」と結論づけてしまったのである。

だがクリティカルシンキングを働かせれば真実に辿り着けるだろう……とアザレロ氏は結論づける。

Lastly, we string these major discoveries together: Cryptocurrency is an economic doomsday device; our government is a secret kleptocracy; The Simpsons exists to brainwash us. From there, the only research we need is critical thinking and we’re able to piece together the true story of our circumstances.

この後には延々と「なぜ自分は真実を知ったのか」ということを書き連ねている。そして文章の最後は「購読する」ボタンに続く。

これだけを見ると「なんだ金儲けか」という気がするのだが、実際には彼は自分で自分に火をつけている。フィクションもニュースもごっちゃになった世界で彼は自分だけの真実を発見したが誰にもわかってもらえない。だがその真実を知らせなければ世界は大変なことになる!という気持ちだけは本物だったのかもしれないと思うといたたまれない気持ちになる。

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Comments

“人はおかしくなるとどうなるのか トランプ氏の裁判に抗議して焼身自殺した男が訴えたかったこと” への1件のコメント

  1. […] トランプ氏に人気がある理由がよくわかる。トランプ氏は政治には興味がない。彼は人々がどうすれば自分を喝采してくれるのかだけを常に考えている。そのためには人々の秘めた欲求や欲望を解放してやるのが良い。ニューヨークで始まっている口止め料裁判の側で「私は真実を発見した」と主張する人が焼身自殺を企てたが、人々は常に自分の主張は正しいと証明したがっている。 […]

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