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153円突破 円安によるインフレ継続か金利上昇による倒産か 二択を迫られる日本銀行

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アメリカで消費者物価指数(CPI)が発表された。インフレが再加速する兆しがあり年内に利下げが始められるかが怪しくなっている。

アメリカの経済は比較的順調な状態が続いているが、日本経済は大きな影響を受けそうだだろう。

岸田総理の支持率が低い状態で日銀がインフレの継続か金利上昇による倒産誘発かという二択を迫られる可能性がある。ドル円相場は一時152.95円まで円安が進んだ。このまま状況を放置すると誰が何を負担することになるのかについては文末に記載した。

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岸田総理はたくさんのおみやげを抱えて訪米。大統領のおトモダチしか乗せてもらえないビーストに乗せてもらいご満悦だったようだ。この写真のコストがどれくらいだったのかはまだわからない。

アメリカでCPI(消費者物価指数)が発表された。エネルギーと住宅の伸びが全体を押し上げた。2022年夏頃に比べるとインフレは抑制されてはいるものの、少しでも気を緩めるとインフレが再加速しかねない状態になっている。

このため。利下げの時期の予想が後退した。ロイターの分析記事によると6月だった利下げ予想が7月以降になる可能性が出てきたとされている。CPI再加速を伝えるロイターの別の記事では利下げは9月以降とされており予想はまちまちでばらつきがある。中には「そもそも利下げの根拠などないのではないか」という人もいる。

エネルギー価格と住宅(ロイターは住居費と表現)の上昇が顕著だった。上昇率は+3.5%だった。

アメリカの株価は高金利維持を嫌気して下がっている。また一段と円安が進行し一時152.95円まで円が下落した。金利差が高い状況がしばらく続くという予想になっている。

アメリカの経済は比較的堅調だが、日本経済を取り巻く環境は激変し難しい局面を迎えている。そもそも米ドルは他通貨に比べると価値が下がっているため円はそれにも増して価値が下がっていることになる。長年のアベノミクスのツケを国民全体が払わされているからである。

もちろん「実弾投入」を通じて一時的に円高に誘導する為替介入という選択肢はある。実際に効果が期待できる作戦ではあるがこの効果もやがては剥落するだろう。

本来ならば金利を上げて通貨防衛を行いたいところだが政治が制約条件になっている。すでに政策立案能力を失っている与党にはこれといった打ち手がないため「アベノミクスにしがみつきたい」という政治家が多いのである。

ロイターに次のような記述を見つけた。

日銀が17年ぶりの利上げに踏み切って3週間。為替円安をにらみ、市場では早ければ7月にも追加利上げに動くと予想する向きもあるが、政府・与党内からは時期尚早との声が出ている。賃金上昇がモノやサービスの価格に転嫁されていくか見極めに時間が必要なほか、次の利上げは住宅ローンなど国民生活にも直接影響を与えるためだ。岸田文雄首相の衆院解散のタイミングも関連するとの指摘もある。

ロイターは住宅価格をあげている。さらに下手に金利を上げてしまうと環境変化に耐えられないゾンビ企業が続々と倒産するだろう。

自民党の経済政策は明らかに失敗しているがそれでもまだ「倒産」という結果がでていないため地方の有権者は見て見ぬふりをして自民党を応援し続けている。だが、このまま金利を低い状態に留め置けば円安状況が改善されず円安由来の物価上昇に苦しむことになるだろう。

このような状態が続くとまずは為替介入を行い通貨防衛が図られる。だが市場は為替介入の原資に限りがあるということを知っているのだから当然次は「追い込まれて利上げ」ということになるだろう。政治家と有権者は「見て見ぬふり」をするだろうが、市場関係者と企業経営者は冷静に状況の折り込みを図る。ロイターの別の記事の記述である。

他方で、「当局が円安阻止を強調すればするほど日銀の追加利上げも含めて政策が総動員されるとみる市場参加者がいてもおかしくはない」(経済官庁幹部)との声も、政府内にはある。強い口先介入を繰り返すことで、追加利上げが早期に織り込まれ、消費マインドに影響する可能性も懸念される。

岸田政権は「賃金の上昇分を国民負担としてそのまま徴収する」という作戦をを立てている。つまりこの政権を温存すると上昇分はそっくりそのまま政府に召し上げられることになる。だがこれは「政権の甘すぎる見込みがうまくいった場合」のかなり楽観的なシナリオに過ぎない。アベノミクスのツケは「金利高騰か円安甘受か」で国民が負担することになる可能性が高い。さらに人工的な生産性向上を伴わない賃上げもインフレを加速させ、そこに社会福祉と防衛費の負担が乗ってくる。

整理すると次のようになる。

  • 円安を放置すれば賃金上昇の恩恵を受けない国民全体が物価高に苦しむ。特に中小企業と高齢者が被害を受けるだろう。
  • 産業構造が変化しない状態で一部企業の賃上げを行うと物価が上昇を始める。これも中小企業と高齢者に被害を与える。
  • とはいえ金利を上げるとゾンビ企業と言われる生き残る見込みがない企業が倒産する。また今後住宅を購入したい人たちも購入を諦めざるを得なくなる。
  • またこのままの政府の方針に従うと現役世代は高い社会福祉コストを背負わされることになる。だが社会福祉を大胆に切り捨ててしまうと路頭に迷う高齢者が出てくる。

現在のSNSの政治談義はこうした利害の異なる人たちがお互いを罵り合っているという状態だ。全体のパイが膨らんでいかないためどうしても誰かが生き残るためには誰かが犠牲にならないといけないという議論になりがちである。政治が何も対策を取らなければおそらく最終的には全てが沈み込んでしまうだろう。

バイデン大統領にビーストに乗せてもらってご機嫌な岸田総理だが日本経済の先行きはそれほど楽観的なものではなさそうだ。

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