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長ネギの呪い 韓国で「国民の力」など与党系が大敗へ

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韓国で総選挙が行われた。尹錫悦大統領に対する信任投票の色彩の強い選挙だったのだが、なぜか選挙の争点の一つが「長ネギ」だった。厳密には生鮮食料品の値上がりが国民の怒りを呼んだ。

結果的に韓国の与党「国民の力」の代表である韓東勲氏がどうなったかについてはこのエントリーの最後に記載することにする。

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韓国の政治は保守・革新の二大政党制ということになっている。朴鍾憲保守政権時代に汚職が蔓延したが、保守系政党は検察出身で政治刷新を訴える尹錫悦氏を外部から擁立して危機を乗り切った。部外者を起用して刷新を図ったのだ。一方の革新系も李在明代表にも汚職疑惑がある。

政治刷新には成功した保守政権だったが経済政策で失敗した。尹錫悦(ゆんそくよる)政権下でインフレが進みとくに食料品の値段が上がっていた。

日本でも岸田総理がスーパーマーケットを視察して話題になったが韓国でも尹錫悦大統領がスーパーマーケットを訪問した。

ここで思わぬ悲劇が起きた。尹錫悦大統領は長ネギの価格を見て「これは普通の価格ですね」と評論してみせたのだが、実はセール価格だった。これを見たネット市民たちが尹錫悦大統領の無知ぶりに怒りを爆発させ、長ネギが反大統領のシンボルになってしまった。

韓国では物価高が深刻化している。特に生鮮食料品の値上がりが顕著だった。原油高の影響を受けているが異常低温で路地野菜にも影響が出ていた。

「食品関連物価」の上昇幅は急騰している。消費者物価指数の構成品目(458品目)のうち、消費者が市場やスーパーなどで主に購入する品目(55品目)だけを選んで作成する生鮮食品指数は、1年前に比べて12.1%上昇。消費者物価上昇率の約3倍だ。生鮮食品物価は7月は1.3%、8月は5.6%、9月は6.4%、10月は12.1%と、上昇幅が急激に大きくなった。農水産物中心に価格が大幅に上昇したことによるものだ。8月から3カ月連続で消費者物価の上昇幅が生鮮食品物価の上昇幅を上回っている。

ある意味韓国は日本に先行しているといえる。政府が掲げる賃金上昇策が物価を上昇させているのだ。韓国の場合は年功序列を業績主義に転換した結果として賃金が上昇した。そして賃金上昇に伴って物価が急激に上がっていった。また中央銀行も積極的に利上げをおこなっておりこれもインフレに拍車をかけたようだ。

韓国の尹政権は賃金設定を年功序列から業績主義への移行を呼び掛けるなど労働市場改革を進め、文前政権による極端な労働者寄りの政策を転換している。最低賃金は2023年に前年比+5.0%と前年(同+5.1%)と同程度の伸びに抑制された。しかし、前政権による労働組合への支援策の影響で、組合の交渉力が強まっており、賃金全体を押し上げている。労働者1人当たりの平均月給は、最低賃金引き上げの影響が小さい2021年と2022年でもそれぞれ同+4.6%、同+4.9%と続伸している。

日本では長い間物価が動かない「デフレマインド状態」が続いている。岸田政権はこの対応として企業に積極的な賃上げを要求している。供給制約のあるなかで人工的な賃上げを行うと悪性のインフレに拍車がかかる可能性がある。

現時点での日韓の最も大きな違いは日銀と韓国中央銀行の政策の違いだ。日本の場合は円安が起こりやすい状態が温存され(160円を予測する人も出てきた)円安に起因するインフレが加速しているが韓国の場合はわかりやすく生鮮食料品が値上がりした。

よく「算数経営」という言葉を目にするようになった。

現在の岸田総理の政権運営は算数国家経営と言っても良い。経済が低成長状態(日本ではデフレと呼ばれている)からインフレに変わるとさまざまなものが連鎖反応的に変わってゆく。根本的な変化に対応するためには足し算・引き算ではなく土台からの経済政策の変更が必要だが、岸田政権はそれに対応できていない。

韓国では物価高に対する潜在的な怒りが渦巻いていたが、新しい政党を立ち上げた野党系の疑惑のタマネギ男こと曹国(チョグク)氏は長ネギをいただいて反政府のシンボルにしようとした。

韓国ではネギを「파/パ」という。

タマネギはもともと日本語で「タマネギ」と呼ばれていたようだが日本語を韓国語に置き換える動きがあり今では洋ネギ(ヤンパ)と呼ばれている。

長いネギは大きいネギという意味で「대파/テパ」と呼ばれる。日本語ではテッパと聞こえる。つまりヤンパ男がテッパを抱いて庶民感覚がわからない政府を転覆しようと主張したことになる。韓国語で政権打倒のことを政権「大破/テッパ」と呼ぶことがあるそうだ。つまり長ネギと政権交代が同音意義語なのである。

事前投票では長ネギ人形や長ネギ入りの透明バッグが溢れており大いに盛り上がった。これに危機感を覚えた与党「国民の力」は投票所には長ネギを持ち込ませないようにと選挙管理委員会に働きかけた。特定の政党の運動に利用されるモノを持ち込んではいけないという規則があるそうだ。長ネギTシャツや長ネギカチューシャ(髪飾りとして長ネギをつける)なども禁止される。

ここで問題が起きた。長ネギには厳密な定義はない。例えば실파(シルパ/細ネギ・あさつき)や쪽파(チョッパ/ワケギ)はどうなんだという議論が起きている。無理に押さえつけようとしたことで返って反対運動が盛り上がったことになる。

JTBニュースでは長ネギの絵に「これは長ネギではありません」というキャプションがついたモノだったらどうなるんでしょうね?と大真面目に解説していた。別のタイトルはディオールのバッグは? 寿司はいいのか?などというタイトルがついている。また別のニュースは「が意外でネタにされるだろうな笑」というタイトルがついており、おそらく笑いものになるだろうということもわかっているようである。

結果的には与党系の大敗という結果に終わった。与党の責任者の韓東勲(ハンドンフン)氏らは凍りついたそうだ。時事通信が伝えている。あえてネギに例えるならネギのように青ざめたと言って良い。できすぎた話のオチになる。

10日投開票の韓国総選挙で、各放送局が出口調査を基にして与党「国民の力」が惨敗する見通しを伝えると、国会で状況を見守っていた与党幹部は凍り付いた。一方、最大野党「共に民主党」の幹部は「尹錫悦政権を審判しなければならないという民意の爆発だ」と笑顔があふれた。

ロイターによると全議席300のうち与党系が獲得できるのは85−100程度になるだろうと言われているそうだ。

KBS、MBC、SBSが共同で行った出口調査では、共に民主党と系列政党が300議席中183─197議席を獲得し、与党「国民の力」と系列政党の議席は85─100議席となる見通し。

次の争点は大統領弾劾の防衛ができる1/3議席を与党系が確保できるかだ。仮に政権が交代すると現在日米韓で進めている安全保障共闘にも亀裂が入ることになるかもしれない。保守系は親米だが革新系は必ずしもそうではないからだ。アメリカでも大統領選挙が予定されており政権交代の可能性も否定できない。秋以降の日本の防衛をめぐる環境が大きく変わる可能性も出てきた。

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