ざっくり解説 時々深掘り

アメリカ・日本・韓国 インフレの共通点と違いについてざっくりと整理する

この文章は現状をざっくりと説明した上で「今社会保障費用負担の議論をすべきではない」と主張する内容になっている。なぜ社会保障費用の負担議論をすべきではないのかについては文章の最後の方で説明する。状況をざっくり知りたい人は最初のパートだけを読めばいい。

韓国の総選挙について観察したときに偶然韓国のインフレについて説明した記事を見つけたのでざっくりと共通点と違いについて整理することにした。論としては荒い覚書程度のものだが次の点が確認できる。

  • 賃金上昇が経済にとっていいこととは限らない
  • 低賃金移民が経済を救っている可能性がある

昨日、SNSのXの引用リプライで「岸田政権の嘘を暴く」無駄な証明に時間をかけるべきではないと書いた。すでに「嘘の弊害」が出始めており、だらだらと不毛な証明に時間をかけるような状態ではなくなっている。野党はこれを嘘と呼ぶことに躊躇しているようだがもはやそんなことはどうでもいい。今何をやるべきで何をやるべきでないかを整理する必要がある。

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アメリカ、日本、韓国の3か国ともインフレが起きている。アメリカが最も先行しており抑制に苦慮している。

だが、労働供給の質と量に大きな違いがある。アメリカは質量共に豊富な人材供給があり人件費高騰が吸収できている。韓国は人材供給がない状態で賃上げを進めたために議会での与党大敗を招くような生鮮食料品中心のインフレが起きた。日本も人材供給がないなかで賃上げを進めなおかつ賃上げ分を政府が社会保障のために召し上げようとしている。

ざっくりまとめは以上となる。「なぜ社会保障費用の負担議論をすべきでないのか」について理由を知りたくない人はここで読むのを終わっても良い。直感的には誰の目にも明らかであり証明など必要としないという人も多いだろう。

アメリカはもともと成果主義の要素が強く労働市場の需要と供給によって賃金が変化する。またデジタル先進国・ファブレス大国であり稼ぐ力が強い企業と生産性が高い労働力が豊富に供給できる。また量の面でも豊富な移民が入ってくる。つまり低賃金労働者もそれなりに供給できている。このため経済は好調だ。生鮮食料品や製造業では物価上昇が見られない。上昇しているのは主に燃料と住居費だ。またサービス価格も上昇しているようだ。このため結果的に利下げが開始できない。このままアメリカの金利は高い状態が続きそうである。

アメリカでは「多様性」と「不法移民が国を滅ぼす」という議論が見られるのだが実際には多様性(質の担保)と不法移民(量の担保)こそが経済を救っている可能性がある。非常に皮肉な現象だ。道徳的な洞察と実情は合致しないことがある。

市場主義の強いアメリカでは社会保障の役割は限定的であまり議論にならない。

韓国は年功序列を廃止し成果主義に移ったため賃金が上昇を始めた。ところが移民の受け入れには積極的ではない。賃金上昇は有権者の望みであり政権が「悪いことをした」とは思わないが結果的に国民の怒りが沸騰した。

韓国の尹政権は賃金設定を年功序列から業績主義への移行を呼び掛けるなど労働市場改革を進め、文前政権による極端な労働者寄りの政策を転換している。最低賃金は2023年に前年比+5.0%と前年(同+5.1%)と同程度の伸びに抑制された。しかし、前政権による労働組合への支援策の影響で、組合の交渉力が強まっており、賃金全体を押し上げている。労働者1人当たりの平均月給は、最低賃金引き上げの影響が小さい2021年と2022年でもそれぞれ同+4.6%、同+4.9%と続伸している。

結果的に生鮮食料品などの価格が高騰している。ざっくりとした分析であり確かなことは言えないものの質・量共に労働力供給が制約される中で賃金が高騰するとインフレが加速する可能性があるということだ。つまり、同じ環境が整えば日本でも当然同じようなことが起きる可能性がある。

韓国では日本の製品が売れ始めている。政権が煽っていた反日感情が薄らいだと説明する人が多い。だが、価格が下がっているという点も見逃せないのではないか。実は2020年に0.08だったウォン円レートは現在0.11まで動いている。つまりウォン高円安が起きている。韓国ウォンはある程度通貨防衛に成功していることがわかる。過去にアジア通貨危機の煽りを受けているため通貨防衛意識が高いのだろう。

また韓国は日本ほど社会保障が充実しておらず高齢者の貧困率が高いという調査もある。むしろ社会保障を充実させるべきなのかもしれない。高齢者雇用政策を進めたところ若者の雇用対策が手薄になり若者の非正規雇用化が進んでしまったというという現象も起きているそうだ。

日本は賃金が上昇していなかったが食糧や燃料価格が上がっていた。このうち燃料価格の高騰はアメリカ、日本、韓国で共通しているので政府の政策がまずかったからインフレが起きたとは言えない。

だがここで「政府の賃上げ要請」が行われつつある。これは韓国でインフレを起こしたとされる人工的な賃金上昇に似ている。韓国のように賃上げが成功した場合に生産性の向上と低賃金労働力の供給(つまり移民の導入ということだ)がなければ、日本でも韓国で政権基盤を揺るがしたのと同じようなインフレが起きる可能性がある。仮に中小に波及しなければ国民は物価高に苦しむ。中途半端な政策によってマダラ模様の難しい状況を生み出す。

だがおそらく移民の導入に賛成する日本人はほとんどいないだろう。直感的に「経済や生活に良くない」と考える人が多い。日本は賃金上昇に伴う物価高にた意する対策を講じる必要がある。

さらに米韓と比べると社会保障は充実している。確かに社会保障制度の持続可能性の維持は重要なテーマだが、そのために金の卵を潰してしまっては何にもならない。

このため、社会保障や国防の費用負担増を求めるのは間違っているという結論が得られる。重要なテーマではあるが、優先順位をつけて状況が落ち着いてから改めて議論すべきだ。

韓国は大統領と議会という二元代表制なので議会選挙が政権交代につながることはない。また国民の政治参加意欲が強く政権交代そのものが起きやすい。一方日本では選挙の結果が思わぬ政権交代につながる可能性があり急激な変化を望まない国民が不本意ながら今の政権を支え続ける可能性も捨てきれない。

もう一つの大きな違いが利上げである。アメリカ経済は向上的にスクラップアンドビルドを繰り返しているため利上についてゆけない企業は潰れてしまう。韓国も通貨防衛意識が高いため中央銀行は利上げを行なっている。

だが日本では長年低金利状態が温存されておりそれに伴って本来なら潰れてもおかしくないゾンビ企業が温存されてきた。耐えきれなくなって利上げということになればこれまで生き残ってきたゾンビ企業が一斉に潰れてしまうことになるがこのままの状態が続くと生産性のない企業にやる気のある従業員が張り付くという状態が温存される。つまり何かを選んで順番に処理してゆく必要がある。だが、政権与党は「もしかしたら何も選ばなくてもなんとかなるのではないか」と考えているようだ。

物価上昇対策なき賃金上昇はそのまま膨らみつづける社会福祉に吸収される可能性が高い。現役世代は働くモチベーションを失い生産性の向上は望めないであろう。だがこれも政府の賃上げ要請(おそらくは副作用がある)がうまく行った場合の話の楽観的なシナリオに過ぎない。仮に賃上げが行われなければ社会負担増だけが膨らみ続けやがて現役世代のやる気を押し潰してしまう可能性がある。

特にやる気がある人たちは生産性の低い企業に貼り付けられた上に高い負担を背負わされることになる。このままでは最前線で最初に潰れてしまうことになるのかもしれない。

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