ざっくり解説 時々深掘り

資源制約と放漫な金融 アメリカが悪性インフレに陥りつつある理由

  • 日本はスタグフレーションに陥っていると考えられるがアメリカも実は悪性インフレの入り口にいるようだ
  • 資源制約で物価水準が引き上がるとサービス産業がそれに追随するという構造があるという
  • この構造はどこか1970年代に似ている
  • トランプ氏の公約を見る限りこの構造的インフレは定着する
  • この構造を理解できれば、おそらく日本も同じ状況に陥りつつあると気がつくだろう
  • こちらは岸田政権が人工的に作り出している

ロイターが「コラム:米有権者、インフレ鈍化でも物価高巡る不満消えない訳」というコラムを出している。内容は極めて簡単だ。アメリカは悪性のインフレに陥りつつあると指摘している。

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ロイターの記事はまず物価を財とサービスに分けている。

財は供給制約を受けやすい。ポストパンデミックで資源価格が上がり(ロシアやベネズエラの独裁者はこれに救われている)中国からの切り離しで供給網が混乱している。

人々は切り上がった物価水準に不満を感じるようになる。日本と違いアメリカでは財の価格高騰にサービス産業が追いつこうとする。

だが、全ての労働者がこれについて行けるわけではない。結果的にコストプッシュが先行し後から賃上げが追いかけるという悪性インフレが実現する。

記事は次のように表現する。

サービス業が製造業に対する出遅れを埋めようと努めると同時に、賃金上昇率がインフレ率に追い付いていない労働者がそれを取り戻そうと努める

ここで安易に利下げに踏み切るとこのインフレに資金が供給されることになる。

供給上の制約は解消されず金融緩和が起きると1970年代の悪性インフレの時代が再現される。1970年代にはニクソンショックにより金兌換が停止された結果「信用」が無制限に膨らんだ。さらに、原油価格が高騰して資源由来の供給制約があった。

構造は極めて単純だが人々は問題を構造によって理解しない。

アメリカの場合、移民問題が最も大きな政治課題とされる。実際に問題がないわけではないがフェンスを超えてアメリカに侵入してくる移民というニュース映像が誇張されている。

トランプ氏はこの目に見える問題を誇張し反バイデンキャンペーンに利用している。

経済の構造問題は一部の金融当局者には「極めて単純な問題」なのだろうが目に見えないために理解されにくい。従って解決されることなく温存されてしまう。

一般にアメリカでは悪性インフレを止めたのはFRBのボルカー議長だったと言われている。だが、ボルカー氏が亡くなった時に「本当にそれは正しかったのだろうか?」という論評が出ていた。

この記事は悪性インフレが止まったのは原油価格が落ち着いたからなのではないかと指摘している。つまり本当の問題は資源由来の供給制約だったわけだ。

この問題が極めて複雑に感じられるのは構造が目に見えないからなのだろうが、スタグフレーションは供給制約と金融緩和によって起きるということさえ理解すれば理解そのものはそれほど難しくない。


となるとトランプ氏の政策はおそらくアメリカに悪性インフレを定着させることになるだろう。つまり自らの首を絞めることになるはずだが支援者はそのことに気がつかないかもしれない。

  • 中国やメキシコに高い関税をかけると供給制約から財の物価が上がる
  • FRB議長に圧力をかけて金利が引き下げられると金融緩和になる
  • 富裕層減税をすると中間層が追いつこうとして労働コストが上がる

ところで、この問題を日本に当てはめるとどうなるだろうか。

  • アメリカではエネルギー価格の高騰とサプライチェーンの混乱が財の価格を引き上げている可能性が高いく日本とも共通する
  • 日本にはこれに加えて少子高齢化(つまり労働力の不足)という別の供給問題が存在する
  • これまでは下請け事業者や労働者たちへの分配を制限することでこの問題をなんとか誤魔化してきたが、岸田総理がこの障壁を破壊した
  • また社会保障費が増大するので現役労働者はそれをカバーする必要がある
  • 日銀はマイナス金利からは脱却したものの金融緩和政策は続けるものと見られており財政の問題は持続することになる

アメリカと日本では構造上に多少の違いはあるものの実は似通った状況が揃っているという結論を得ることができる。

あとはこれをスタグフレーションと呼ぶか悪性インフレと呼ぶかの違いということになる。蛇足ではあるが岸田政権はそのような経済認識を持っておらず従ってこの問題への打開策も持っていない。

また国会議員たちも目の前にある構造問題を理解する意欲を持たない。SNSに張り付いておりまとまって何かを考える時間を持てないのであろう。

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ここで「株価が上がっているから大丈夫だ」と思いたい人もいるだろう。実はアルゼンチンやトルコのように通貨の価値が下がっている国でもなぜ株価だけは上がり続けているという現象がある。株価は企業業績の指標なのだが、場合によっては弱い通貨の指標になる場合があるのだ。


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