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日本の銀行間振込を2日間混乱させたのは誰か 待たれるNTTデータの釈明と情報公開

全銀ネットが会見を行った。今回は報道ではなく記者会見の様子を見た。2時間50分近くの会見だったがTBSなどいくつかの媒体が配信しYouTubeに記録が残っている。このエントリーでは前回、前々回の記録について情報をアップデートした上で、最後にNTTデータの責任問題について考えたい。

記者たちはあえて「疑惑の追及」のようなことはやっていなかったが、どうもNTTデータが情報開示に後ろ向きのようである。全銀協も独立した第三者委員会の設置は考えていないようなので、本来ならば国がきちんと入って介入する必要がありそうだ。今後「中央銀行の発行するデジタル通貨」などFintechの重要性は増してゆくのだから問題があるならばこの時点で清算しておくべきだ。

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最初のエントリーで「メインフレームとCOBOLはオワコンだ」と書いた。のちに出てきた情報で「メモリの問題だったようだ」という報道をお伝えした。だが今回の会見を見るかぎり、これらの憶測は間違っていたようだ。

今回の更改でリレーコンピュータは物理サーバーから仮想サーバーに置き換えられた。経費節減などの狙いがあったものとされている。全銀ネットは情報を開示しなかったが使用言語がJavaとC言語であると説明したためメインフレームではなくUnixであるということも記者たちには大体わかっている。誰でもわかる明白なことが明言できないというのがまず最初の「疑惑」ポイントになる。全銀協側に何か言えない事情があるのだろう。

会見は長すぎるのでITメディアの記事をご紹介する。「原因はわからない」となっており振り出しに戻ると言った感じである。原因がわからないから復旧時期もわからず現在も代替運用になっている。つまりシステム更改に失敗したままなのだ。

17シリーズから23シリーズに置き換えたのが原因だが理由は特定できていない。話を聞いている記者たちは2群に分かれてゆく「不勉強な」と自分で告白している記者たちは誰かに言われた通りに「事前の有事対応計画(BCP)」に違反していたのではないかということをしつこく聞きたがってきた。事前に社内でそのようなレクチャーを受けてきたのだろう。全銀ネットは東京と大阪にサーバーがありどちらから止まってもどちらかが動くことになっている。今回同時に入れ替えたことでバックアップが働かなかった。共同通信はこれを記事にしている。

だが、一部の記者たちは次第に問題がどこにあったのかがわかってきたようだ。質問がだんだんと具体的になってゆく。

最初は仮想サーバーやOSが問題だと見られていたがそもそも「振込手数料テーブルが読み込みの時点で壊れていた」ことがわかった。不可逆ポイントは土曜日のお昼だったそうだがその時点では発見されていなかった不具合が準備段階で生じていたことになる。日経クロステックは「メモリ説」を唱えていた手前「新しい事実が見つかった!」という見出しにしている。

テーブルは起動時(未明か早朝だそうだ)に読み込まれる。起動は毎日行われるのだが、この日は当然23シリーズの最初の起動だった。仮にデータが最初から壊れていたのならそれが元でエラーを吐いてCPUを圧迫しメモリ不足で止まることは考えられる。

だがここでおかしなことが起こる。細かなことを聞けば聞くほど全銀協の人たちの歯切れが悪くなってゆくのだ。これについて探偵のように問い詰めた記者がいる。最終的に全銀協の人たちは「詳細設計はNTTデータのものなので開示を受けていない」と認めていた。だから原因がわからず、復旧時期の見込みも経たない。NHKはこれを踏まえて「NTTデータと原因を究明している」と書いている。

現在は振込手数料がゼロという前提で不具合のある振込手数料設定アプリを迂回し後でトランザクションから振込手数料を再計算するという計画になっている。つまり原因が特定できておらず従って復旧の見込みが立っていない。次のシステム更改は2024年1月だがそれまでに原因究明や復旧が間に合うかどうかもわからない。1月までに原因が掴めなければ更改スケジュールに遅れが生じることになるだろう。金融庁への説明も「原因はよくわかりませんでした」ということになる。

ここで疑問が生じる。なぜNTTデータは情報を開示しないのか。これも記者たちはなんとなく察しがついているようである。次世代システムの仕様策定が進んでいる。現在RFPを公開してベンダーを募っているというのである。

記者たちは誰も何も言わなかったがおそらく可能性は二つある。1つはNTTデータ側が仕事がよそに流れるのを警戒して細かいプログラム仕様を開示したがらないというものだ。これまで培ってきた経験はNTTデータにとっては強みになる。もう1つ考えられるのはNTTデータが情報を開示してしまうと実は新しいスキームを使った情報処理に不慣れだということがバレてしまうという可能性である。詳細設計にはベンダーの実力が表れる。だがこれを全銀協に聞いても仕方ない。そしてそもそもNTTデータは会見の席にはいない。

会見の中でなぜシステムを一度止めてフォールバックしなかったのか?という質問が出てくる。どのサーバーがどこに接続されているのかの情報も「テーブル」に入っているようだ。テーブルを更新するためにはそれを全部止めなければならないのだという。壊れた手数料データもテーブルになっていてシステム起動時に読み込まれていた。毎回起動時に作り直すようだ。これを更新するためには一度システムを止めて処理をやり直す必要があるそうだ。システムを作ったことがない人は「ああそんなものか」と思ったかもしれない。

全銀ネットはこれまで50年もの間コアタイムに停止して「お客様にご迷惑をおかけした」経験がなかった。このため全銀ネット側にはシステムを止めるという決断は難しかったのだろう。だが、そもそも外にデータベースを作って必要な時に読み込むのではなく固定的なテーブルを読ませるやり方は「いかにもメインフレーム的だ」と考えた記者は多かったのではないかと思う。ベンダーだったNTTデータが「いかにもメインフレーム的な」やり方でUnixを動かしているとするならば、詳細設計を公開した時点で(あるいは説明に使った時点で)ああ、この程度なのかと思われてしまう可能性がある。

記者の一人が「NTTデータ依存」について質問していた。全銀協はシステムをコアと周辺に分けて周辺にはGoogleなど他のベンダーを参加させても良いなどと発言している。アジャイル部分を他に回すことでNTTデータ依存という批判をかわそうとしているように聞こえた。つまりNTTデータに引き続きコアを任せたいのだろう。これまでの経験や知見を共有していて「痒いところに手が届く」ベンダーを残しておきたい気持ちはわかる。一方で果たして全銀協がまともにRFPを書けているのかも気になるところだ。大体のことだけを書いておいてNTTデータに「おまかせ」になっている可能性は決して低くないように思われる。

仮にこれが小さなミスであればそこまで「疑惑」などと大袈裟に騒ぐべきではないのかもしれない。だが1週間以上経ってもまだ原因もわからず根本的な解決も行われていない。これがあと数年は続くということを考えると「本当にNTTデータで大丈夫なんですか」という疑問は国が介入した上できちんと検証したほうが良いのではないかと思う。

だが、おそらく金融庁の人たちに「NTTデータは本当に次世代型のコンピュータをまともに扱えるのか」を検証できるとも考えにくい。そのような周辺事情を考えると、銀行に代わる新しい個人決済の仕組みなどを民間手動で整えてゆくような規制緩和をやった方が手っ取り早い気がする。もちろん金融庁はそれも好ましいとは考えないだろう。だが、やはり純粋に国益を考えるならばその方が有益なのではないかと思う。

現在中央銀行がデジタル通貨を発行するというような計画が持ち上がっている。国際競争力の維持や通貨の優位性確保のためには避けて通れない課題である。NTTデータや他の日本のベンダーも政治家や官僚に働きかけを強めぜひこれらのシステムに参加したいと考えるだろう。デジタル赤字と呼ばれる外貨流出を防ぐためにもNTTデータには頑張ってもらう必要がある。国産ベンダーの競争力維持はいわば国益に関わる問題である。将来のためにも今ある疑念を払拭し足りない点があれば謙虚に専門家の指摘を受け入れるべきだ。

今回のようなことが続けば「本当に国産ベンダーに依存しても大丈夫なのだろうか」という疑念が膨らみかねない。これを払拭できるか、今後のベンダーの対応が待たれる。

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