ポーランドで総選挙が行われた。法と正義(PiS)は第一党を確保したが支持は伸び悩んだ。また極右系の政党も伸びなかった。代わりに左派系の政党市民連立(PO)の支持が伸びており「政権交代か」と言われている。まずは与党PiS中心の組閣が行われるがうまくゆかなかった場合には左派系の政党POを中心にした連立交渉が行われる。実際に新しい内閣ができるのはしばらく先になりそうだ。
なおこの記事は最終的な結果が出る前の情報をもとに書いているがその後に結果が出ている。
- ポーランド総選挙、右派与党が過半数割れの見通し=出口調査(BBC)
- ポーランド総選挙、野党勢が過半数 政権交代も=出口調査(Reuters)
- ポーランド総選挙、政権交代の可能性(CNN)
ポーランドで15日に総選挙が行われた。出口調査の結果としてPiS(法と正義)が36.8%が得票し、野党連合「市民連立」が31.6%を獲得する見通しになっている。市民連立は「中道」あるいは「リベラル」などと表現される。CNNは「市民ラットフォーム(PO)」などと訳しており媒体により表現とラベルが異なる。
PiSは主に農民票を代表しておりわかりやすい「ポーランドファースト」が特徴だ。カトリックの伝統を前面に打ち出しEUの法律よりもポーランドの法律の方が優先するなどとと主張している。このためウクライナの戦争の前にはEUとさまざまな軋轢があり補助金停止が起きている。一部の補助金は今でも支出中止となっており政権交代すれば「再開のための交渉が行われるだろう」と期待されている。
一方でポーランドの西側はドイツなどとの関わりが強くどちらかといえばEUとうまくやってゆきたいという人たちが多いようだ。過去の選挙結果を見ると東西でグラデーションになっており島のようにワルシャワが浮いているという状態になっている。
EUによる社会変革に対応できなかった人たちの支持で政権を維持してきたPiSだが2020年ごろから支持率がじわりと落ちていた。逆に野党の支持がじわじわと増えておりコロナ対策とその後のインフレなどの経済混乱により政権からの離反が始まっていたことがわかる。とはいえ野党が全面的に勝つという展開にはならずどっちつかずの結果となった。
政治に対して冷めた見方をする人が多い日本とは違い、明確な対立軸があるポーランドの投票率はかなり高かったようだ。投票率は72.9%もあり政権交代をかけた重要な選挙だったことがわかる。ワルシャワではPiSに対する抗議デモも起きている。野党は100万人を動員したと言っている。一部でPiSに対する反感が高まっていたということは確かなようだ。
EUは今回の結果を歓迎している。「ポーランドファースト」を前面に押し出したPiSが弱体化すればEUとしては付き合いやすくなる。PiSはウクライナ侵攻に懐疑的な「コンフェデラツィア(連盟)」に引っ張られて「もうウクライナには支援はしない」と主張しNATOをざわつかせた。だが、コンフェデラツィアの支持が伸びなかった。これもNATOにとっては安心材料だろう。
BBCは次のように論評する。
BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は、ポーランドはハンガリーと共にEUの「悪い子」と見られていると説明。ポーランドについては、国内で女性の権利や司法の独立性、報道の自由を侵害していることから、EU補助金を保留されているほか、移民や気候変動の面でEUの政策に逆行していると述べた。
では、ポーランドでは過激な右派政権が嫌われて親EUの機運が高まっているのだろうか。
BBCによれば野党のトゥスク氏はEUとの関係改善を目指している。法と正義(PiS)の司法改革によって凍結されていた復興基金の支払い停止を解除するのが狙いだ。
経済が良い時の政治は左派リベラルに傾くが、経済が悪くなり取り残された人が増えると「右傾化する」というのはどこの国にでも見られる現象である。さらに右傾化が進みすぎると国際的な援助が得られなくなり一時的に左派への揺り戻しが起きるのも珍しくない。ポーランドもそのようなパスを進んでいる可能性がある。
同じような経路で揺れている国にはイタリアやアルゼンチンなどがある。イタリアは一時的に中道化したが国際社会の支援がまとまるとまた右傾化してしまった。アルゼンチンもIMFなどに対して借金の整理をした途端に左傾化している。いっけん「右と左」のように思えるのだが、実際には庶民にわかりやすい政党が選ばれているだけなので左右というラベルはあまり当てにならない。民族主義が前面に出ると右と言われ、社会主義的なばらまきが注目されると左ということになる。
結果が僅差だったため「連立交渉には数ヶ月かかるのではないか」と言われているそうだ。PiSもPOも15日に勝利宣言をしようとしたが結局組閣が終わるまではどちらが政権を獲得できるかはわからない。結局勝利宣言はなしということになった。まずは法と正義(PiS)主導で連立への模索が始まり、これが不調ということになって初めてPO側が連立交渉を始めることになる。
POが政権を取ればウクライナへの支援は安定するだろうと共同通信が分析しているが、実際に政権ができるまでにはしばらく時間がかかるのかもしれない。