ざっくり解説 時々深掘り

全銀ネット障害は「OSアップデートでアプリを直したら銀行間振り込みが数日止まりました」だった

全銀ネットについて「COBOLとメインフレームはもう限界だろう」というようなことを書いた。

今回全銀ネットのエラーの内容がわかったのだが実はそんな難しい問題ではなかったようだ。32ビットOSを64ビットOSに移行するにあたってプログラムを書き直したら「容量不足」が起きてプログラムが止まってしまったようだ。要するにWindowsXPで動いていたものをWindows11に変えたらメモリが足りなくてアプリが止まりましたという程度の話だったようだ。実際にはアプリが止まった訳ではなく中の大切なデータがぐちゃぐちゃになったそうだ。

ちなみに作業を手がけているのはNTTデータだった。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」でおそらくたいして注目されるような話でもないと思うのだが、前回の情報には不確かな点も多かったので最新の情報にアップデートしておきたい。

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最初にこの話を知ったのは共同通信の記事がきっかけだった。おそらく余りコンピュータに詳しくない人が書いたのだろう。リレーコンピュータの作業が単にプログラム更改ではなくOS更改だったことはわかる。だが、この容量がハードディスクの容量なのかメモリなのかがわからない。共同通信はたいしてこの点については気にしておらず従って地方紙などにはこれがそのまま再配信されている。日本のマスコミがコンピュータに強くないことがわかるし、読者も余り気にしないのかもしれない。つまりこの内容だと再発防止できるのかがよくわからない。

障害は、10日午前に発生した。一部の自治体で児童手当が届かないなど計506万件の取引に影響が出た。関係者によると、7~9日の3連休に実施した中継コンピューターの更新に伴って、機器の基本ソフト(OS)が32ビットから64ビットに変更されたが、必要な容量が確保できない取引が発生したとみられる。

さすがに日経新聞は「これでは不十分」と気がついたようだ。容量(メモリー)と書き添えている。こうなると全銀協の人が「容量がなんのことか」わかっていないままベンダーの書いた原稿を読んだ可能性は残る。この点は非常に心もとない。

OSが保守期限を迎え古いアプリが動かなくなるということはスマホでもパソコンでもよくある。メインフレームベンダーもいつまでも古いOSのお守りはしていられないだろう。

ここから3つのことがわかる。

一つは日本のITベンダーがこの程度の作業もまともにこなせないという点である。ちなみにベンダーはNTTデータである。この調子でオープンソースに移行しても大丈夫なんだろうかという気がする。次に全銀協も一部のマスコミも「機械」に疎く理由がよくわからないということがわかる。単に「動かないどうしよう」と慌てているだけで次の同じことが起こるのかもう問題が克服されそうなのかがわからない。最後に古いプログラムを戻せなかった理由もわかった。すでにOSを入れ替えてしまっているのだから古いプログラムはもう動かなくなっている。だから夜通しかけて新しいプログラムを作るしかなかったということになる。

不具合は月曜日に見つかり夜通し修正作業をしていたようだが翌日も動かなかった。実際に作業をした人たちは生きた心地がしなかっただろう。週末には年金支給日も控えていた。

すでに問題が解決していることから多くの人たちはそもそも原因には興味がないのではないかと思う。一方で原因に興味がある人は「この程度の情報では満足できない」だろう。例によって一部無料の日経Xtechにお世話になることにする。

関係者によると、RCのメモリー不足に起因し、金融機関名などを格納したインデックステーブルに不正な値が紛れ込んだという。

 全銀ネットは復旧に向けて、「内国為替制度運営費の金額を0円にセットした」(全銀ネット)形の簡素化したパッチをNTTデータと開発し、2023年10月11日夜から12日未明にかけて不具合が発生したRCに適用した。これが奏功し、12日午前8時30分から、他行宛ての振り込みが正常化した。

要約すると次のようになる。

複雑化した内国為替制度運営費(銀行間振込の手数料のこと)のテーブルを処理するだけのメモリが確保されていなかった。そのためテーブルがぐちゃぐちゃになった。そこで全ての手数料を0円にしたパッチを当てたところなんとか動いたのでかろうじて復旧することができた。

動いてよかったねという気はするのだが「結果オーライ」だったのかと考えると複雑な気持ちになる。

問題が極めて多いリレーコンピュータだがあまりにも数が多いため数年かけて複数回に分けて更新作業を行うことになっている。全銀協は新しいAPI型の第8世代システムを導入する予定だがすべての金融機関がこれに追随することはできないのでリレーコンピューターはしばらく残り続けることになる。

仮に今回の件がコード間違いであれば「原因がわかったから次に問題は起こらない」ことになるだろう。だが、復旧策を見ているとどうも「きちんとした原因がわかっていない」かNTTデータのプログラマたちが新しい64ビットOSに慣れていない可能性が高そうだ。

となると「数年かけてリプレイスする」のは仕方ないなと思えるし「次回以降も同じようなことが起きるのかもしれないなあ」と感じる。だがコンピュータに詳しい人は「今時32ビットOSだったのか」とか「数年先まで動き続けるのか」と感じるかもしれない。

こうした問題が起きると普通の国では「銀行とは違った業態を作って個人間送金をやろう」という発想が生まれるはずだ。

だが金融庁はおそらく非銀行系の個人間送金などは認めないのではないかと思う。護送船団方式で古くて複雑な仕組みを温存することで、国内に新しい産業が生まれず、割高の銀交換手数料を払い、なおかつ一度不具合が起きると数日にわたって国中が大騒ぎになるという状態が放置されている。問題そのものは政府の落ち度ではないのだがやはり背景を探ってゆくと政府の無策にも原因があると言わざるを得ない。

金融庁は再発防止策を含む報告を求めることにしているが今後は不具合が多発することを見越して代替手段となる新しいFintech企業の開業を許可すべきだろう。

全銀協もマスコミもよく内容が理解できていないのだからこの調子では「ベンダーが大丈夫ですと言っていますから多分大丈夫です」というような曖昧な報告が上げられ、金融庁も「ああそうなのか」で終わってしまうのかもしれない。

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Comments

“全銀ネット障害は「OSアップデートでアプリを直したら銀行間振り込みが数日止まりました」だった” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    OS更改の場合はプログラム更改の場合と比べて、実施出来るテストが限られてしまうのでしょうかね。それとも、メモリ不足になるほどの負荷テストが実施出来なかったのか。

    1. これまで32ビットOSに慣れてきた人は大体感覚で「これくらいのメモリが必要なんだろうなあ」などをわかるものなのかもしれないですね。OSが変わるとそのあたりの肌感覚も変わる。

      クロステックは「関係者に聞いて」事情を知ったわけですから、全銀協や報告を受ける金融庁にはこの辺りの機微は伝わらないんだろうなあと思いました。つまり、今後も同じような問題が起きるのか、あるいは次への学びになるのかはよくわからないですよね。

      コメントありがとうございました。

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