なぜか岸田政権の支持率が下がっている。原因の一つに「岸田政権は増税政権」という負のイメージがあるとされる。「岸田首相「増税クソメガネ」を気にして“偽装減税” その裏で進む「15兆円のステルス増税」」という記事をNewsポストセブンが出している。今回はこれをきっかけになぜ国民が政策に期待しなくなったのかを考えてゆく。調べているうちに意外な事実にぶち当たった。実は予算の多くが国庫に返納されているらしい。そもそも使われていないのだから効果を実感することなどできなくて当たり前だ。政策が間違っているというようなことではない。要は見せ金なのだ。「なんだそんなことか」と思った。
インフレになり額面が増えると所得税が増える。日本の所得税は累進課税になっていて高額所得者ほど多く税金を支払うことになっている。だが、課税テーブルは変わらないので額面が増えただけで税率が増える人が出てくる。さらに今まで100円だったものが110円になるとそれだけ消費税が増える。これは所得税増税に比べるとわかりやすい。さらにこれに加えて社会保障費の負担も膨らむ。これをあわせてNewsポストセブンは「15兆円のステルス増税だ」と表現している。
もちろん国民生活がそれ以上に向上していれば政府の税収が増えてもなんの問題もない。問題は生活水準が上がらないという点にある。今のインフレはコストプッシュ型の悪いインフレなので、生活水準は上がらないのに支出と支払う税金が額面で増えるという状況が生まれている。実質賃金は17ヶ月連続で下がっており統計でも裏付けられている。
それでは実質賃金が上がらないのはどうしてなのだろうか。日経ビジネスの解説記事を見つけた。誰でも同じような疑問を持つんだろうなと感じる。生活実感が苦しくなったというのは確かなのだが、Newsポストセブンの記事は根本的に間違っている。国民生活を苦しくしているのは円安・低成長・少子化による「インフレ税」なのだ。
政府は国民に副業を奨励している。企業に賃金アップを働きかけることができていないからだ。もちろん格調高い日経ビジネスはそんな書き方はしていないが、江戸時代の幕府が農民に「雨の日には家で黙って縄をなえ」と言っているような感じだ。つまりもっと働いて年貢を納めろと言っている。政府は成長性の高い産業や生産性の高い産業に労働者を移そうともしているがうまくいっていない。そもそもそんな産業が見つからない上に、労働者が足りないのは医療介護、運輸サービス、建築などの成長性が見込めない産業ばかりだ。
さらにエネルギー価格と食料価格が上がっている。消費税を3%上げたのと同じ支出になっているそうだ。全国平均で見ると7%ほどの支出増になっているという。インフレと言ってもモノやサービスなどが売れるようになって生じた「良いインフレ」ではないので賃金上昇には結びつきにくいが、国民の「負担実感」は増えてゆく。
日本はアメリカのような経済成長型のインフレになっていない。少子化で市場は縮小し成長する産業も見つからないため、政府には「国民を徐々に困窮に慣れさせてゆく」という選択肢しかない。これを政府は「激変緩和措置」と言っている。
日経ビジネスの記事はそれでもきれいに「新型コロナやウクライナ問題による景気の悪化に対し、政府や業界団体、企業が有効な対策を講じることができるか、今後の動きに要注目だ」とまとめようとしている。余りネガティブなことは書きたくないのだろう。
だが、実はこれこそが最も大きな問題のようだ。対策費の使い残しが問題になっている。つまりそもそも使われていないのだから効果が出るはずはない。
2020年度は34兆円が余り、2021年度には30兆円が余っているという。マスコミが伝えない不都合な真実という感じでもなくNHKや時事通信も都度報道して使い残しを問題視している。使い残しがなければそもそも国債を発行する必要もなかったということになる。ちなみに2022年度は11兆円が余ったのだという。新型コロナ対策やウクライナ情勢のために積んでおいた予算が結局使われていない。そもそも使うつもりもなかったのではないかとすら疑ってしまうが、低金利だからこそこうした乱暴な予算編成がまかり通ってきたのだろう。
こんなやり方をすればすぐにバレるのではないかと思うのだが、意外とこの作戦は長続きしている。
岸田総理は低い支持率は気にしないことに決めたようだ。自民党も公明党に期待し自分達は所得税増税には踏み込まない。その対策の発表も11月まで遅れそうである。有権者は政権を支持しないだろうがかといって野党に期待し政権交代を起こすようなこともないだろう。
こうしたゆるい政治状況を背景に岸田総理はスーパーを視察し女性の補佐官に「庶民目線で頑張ります」と抱負を語らせていた。その程度のことを言っておけば国民は納得すると学んでしまっているようだ。
毎日スーパーに行っていれば「トマトが高くなったなあ」とか「コーヒーの値段がじわじわと上がっているよなあ」など日々の実感が湧くと思う、だが、たまにスーパーを視察したくらいでは細かな値動きはわからない。だがそれでも岸田総理はスーパーにゆけば「国民生活に寄り添っている」という姿勢が示せると思っているのだろう。あとは女性に政治を語らせておけば女性が安心すると思っているのだ。