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岸田政権の「サラリーマン増税」にいまさら戸惑う人々

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今朝書いた記事をアップしてTwitterを見たところ「サラリーマン増税」という言葉が飛び交っていた。zakzak(夕刊フジ)の記事がフィーチャーされたようだ。「何を今更驚いているのだろう」と思った。全く新しいことはない。ここでこれまでの流れをざっとおさらいをしておこう。岸田総理は一貫してサラリーマンをターゲットにしてきた。具体的には日本型終身雇用に守られた人たちがターゲットになっている。

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政府の税制調査会の答申は6月末に出ている。増税議論を避けるべきではないという内容である。既にこれについては記事を一本書いた。記事の中では読売、産経、朝日新聞の社説を紹介した。

もう一度おさらいする。読売、産経、朝日新聞は高齢者が主に読んでいる。彼らは少子化で医療・福祉財源が先細ることを心配していて「消費税増税なども含めて積極的に議論すべきだ」と政府税調の方針を応援している。現在税収が好調だからといってこれからもそれが続くとは限らないという議論だ。

日本はシルバー民主主義なので小選挙区制度の元ではこれが「民意」ということになる。多数決で少数の意見が排除される仕組みだ。

一方で岸田総理が今の終身雇用制度を破壊しようとしている点についても紹介した。岸田政権は労働者が終始雇用で正社員の地位にしがみついているために日本が成長しないと考えている。企業もいらない人材を放出したいのだが彼らにはスキルがない。そこで国が援助してスキルをつけてもらって出て行ってもらおうとしている。これをリスキリングと言っているが要するに余剰人員対策である。

さらに「退職金増税」が検討されている。これまで長く勤めた人の退職金は税制上優遇されていた。これをなくそうというのだ。

起業と言ってもいきなり大きな会社は作れない。おそらく企業を出た人はフリーランスや零細企業を形成することになる。こうした人たちからも確実に税金を取りたいと考える自民党・公明党政権ははインボイス制度を準備している。終身雇用の傘から脱却して「自力で」成長産業を模索してほしいがその間もきっちり税金だけは納めなさいよというわけだ。

リスキリングして企業から余剰人員を追い出し、個人事業主になってもきちんと税金を支払ってほしい。大きくいうとそのような流れである。

こうしたことは粛々と継続的に行われておりきちんと報道もされている。そして読売、産経、朝日などのメディアも「増税」を応援する世論を作っている。現役世代にきっちり稼いでもらい「仕送り」を受け取り続けたい。繰り返しになるがシルバー民主主義の元ではこれが支持されている。

安倍政権時代が長かったために、自民党は「改革派政党」で「積極財政派」で中間層増税には抑制的だというイメージを強く持っている人が多いのかもしれない。一方で立憲民主党のような福祉型のリベラル政党は「増税につながるのではないか」と危惧する人が多いのではないかと思う。つまり日本では保守政党こそが改革派でリベラル政党こそが「守旧的」だというこじれた認識があった。

日本の政府批判言論が安倍政権下で抑制されてきた主な原因の一つはこれだろう。つまりうっかりとリベラルに載って政権批判に加担するとかえって負担が増えてしまうのではないかという漠然とした恐れがあるのだ。野田政権は実際に消費税増税を提案しているという「事実」も忘れ難い。

だが、実際にはこの構図は大きく代わっている。菅政権を経て誕生した岸田政権は宏池会系の政権である。つまり自民党は投票なしで疑似政権交代をした。安倍晋三氏がいなくなった清和会はいまだに後継者争いをしていているのだから、自民党がかつてのラインに戻ってくる可能性はあまり高くない。

「リベラルに加担するとかえってむしり取られる」という構造も徐々に変わりつつある。それが維新の躍進である。維新には改革職はあってもリベラル色はないので「増税回避」の人たちにとっては応援しやすい政党になっている。

このようにかつての自民・民主という対立構造はかなり変質しているのだが、肝心の有権者がこの流れについて行っていない。

いずれににせよ、マイナ健康保険のつまづきにより岸田政権は政権支持率が低く抑えられている。

マイナ保険証に関しては「高すぎる医療機器導入」の問題がある。これについて書くと「政府から支援を受けているから問題はない」という反論がつく。だが、実際には税金なので政府は「今でも機能している健康保険証を取り上げた」上にその改修費用を国民に負担させようとしているということは忘れ去られている。日本には「天引き」という言葉がある。税金は天に召されたお金なので、政府援助も空から降ってくるという印象がある。

健康保険証の問題は国民が合理的に判断すれば良い。政府のDX化で全体の政府運営の費用が抑えられればそれは良い投資だが、テスト費用が膨らんだり機器の買い替えが必要になるならばそれは悪い投資である。今の健康保険証には確かに不正受給という問題はある。だが、全ては費用対効果の問題である。「解決策の方が問題より高くついた」では改革の意味がない。きちんと決算を説明した上で仮に失敗したなら総括の上で政治家が責任を取るべきではないだろうか。

だたもはやこうした各論はマイナカード問題ではあまり意味を持たくなりつつある。とにかく反対だという「空気」が生まれており感情的な反発が生まれている。

内閣支持、続落30.8% 不支持が3カ月ぶり上回る―時事世論調査(時事)

自民党の税調は関係者会議(インナーと呼ばれる内輪で大体議論が決まってしまう)増税の先送りを決めた。これが政府の「事実上の先送り」になる。

防衛増税に遅れ、税収上振れ背景に 自民税調(日経)

おそらく今回のような反発はこれからも続くだろうが岸田政権の元では思い切った改革は難しくなったと言って良い。岸田政調会長の時代から岸田文雄さんの下での議論は迷走することになっている。今や岸田文雄さんは政調会長ではなく総理大臣なので誰も混乱した議論は収束させられない。

馬場代表は今回の騒ぎを「無限増税」と呼び「カツを入れましょう!!」とはしゃぎぎみだ。かつて代表を務めた橋下徹氏も「まず旧文通費用と政治資金にも課税しろ!」と息巻いている。

維新にとってはパチンコで言う「フィーバー状態」だ。これが長く続けば多くのサラリーマン票が維新に流れることになる。あとは岸田総理がこれをどう火消しできるのか、あるいは岸田さんに代わって収拾できる人がいるのかという点が問題になる。時事通信の世論調査によると岸田政権の支持率は低迷しているがまだまだ自民党の支持率は影響を受けていない。

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