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税収は好調だか、それでも主要新聞は消費税増税を望んでいる。

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税収が好調だという記事を見つけた。ヤフコメには「税金を下げてくれ」という悲痛なコメントが並ぶ。これについて主要新聞はどのような整理をしているのだろうと思い社説を読んでみた。

実は「消費税を上げる議論を今すぐ始めるべきだ」という論調で社説を書いているところが多い。シルバー世論に支えられた新聞と現役世代が読むネットでは感覚がずれているのだろう

どちらを「世論」とみなすのかは難しいところであるが、メディアはどちらかと言えば「世代間分断」を加速する方向に進んでいるようだ。

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2022年度の税収が好調だった。Yahoo!ニュースのコメントには「税収が好調なら税金を下げてほしい」というコメントが多くみられる。では大手マスコミはこれをどう判断しどう整理しているのかということが知りたくなった。

税収が好調だったことに対する直接のレスポンスはないので「政府税調」の記事を読んでみた。実は社説には「消費税を上げろ」と指摘するものが多い。ネットの世論とは真逆である。

まず「意見の書いていない報道」をNHKで読む。NHKは「赤字国債依存を脱却するために歳出に見合った十分な税収を確保することが重要だ」というリードをとっている。また、法人税減税は効果がなかったとしている。税収が浮いた分が国内の設備投資や人への投資に向かわなかったからだ。つまりどちらかと言えば「増税」に傾いている。

朝日、読売、産経新聞の社説はこの傾向がもっと顕著だ。議論は多岐にわたるが消費税増税に前のめりという共通点がある。

朝日新聞は4年ぶりの答申であることを指摘。「十分性」の重要性を強調したのは意義深いとしている。朝日新聞は国債依存には懐疑的なようだ。

朝日新聞は「税調が指摘したのはこの程度」と不満を強調する。朝日新聞は消費税の値上げや控除の見直しも積極的に行うべきだという立場だ。さらに「金融課税強化」もやってほしいようである。

読売新聞も同じトーンだ。

政府税調は学者からなる「政治性の低い組織」であると強調した上で「将来世代に負担を残さない」徴税強化に踏み込むべきだとしている。高齢者に対する支出が増えることが予測されているのだから「それを賄うためには消費税増税が不可避だ」との見方が「高まっている」としている

ではなぜ読売新聞は消費税増税をやりたいのか。「支出の増大が見込まれる医療・福祉を支えるためには消費税増税もやむなし」と言いたいようだ。

読売新聞は消費税増税についてはかなり踏み込んでいる。岸田総理は10年は消費税は上げないといっているが「時間的余裕はない」のだから将来像を示すべきだといっている。

日本の政治言論構造がよくわかる。「税金」は現役世代が高齢世代を支えるために必要な仕送りだと認識されている。朝日新聞も読売新聞もこうした「シルバー世論」に支えられている。だから消費税を上げるべきなのではないかという論調になるのだろう。ただそれを肯定するために「将来世代に負担を先送りにするな」という建前が優先される一方で「海外では」とか「政治性の低い学者は」とか「世間では」などと権威が前面に立つ。

庶民の代表の産経新聞は違う視点を示しているのではないかと考えたのだが産経新聞も少子高齢化で支える側の人が減るのだから消費税増税なども含めて積極的に議論すべきだといっている。読者層は共通しているようだ。産経新聞は「専門家集団である政府税調がだらしない政治家に代わって増税議論を主導しなくてどうする」と煽っている。

今回、この議論を読んでみようと思ったのは時事通信の「昨年度税収、71兆円超え 3年連続で過去最高 法人、消費、所得税が軒並み増」という記事を読んだからである。Yahoo!ニュースのコメント欄には「税収が好調なのであれば減税をやってほしい」というような声が多くみられる。このためヤフコメだけをみていると「世論は減税を希望しているのだ」と思いたくなる。だが新聞の社説はそうではない。むしろ逆に「消費税を上げろ」という社が多い。政府税調に悪者になってもらってもっと増税議論をしろと煽っているのだ。

どちらも将来不安が背景にあるが、政府はどちらの声も払拭できていない。

共同通信に「子ども世帯数が初の1千万割れ 「老老介護」は過去最高の63%」という短い記事がある。老老介護で社会から切り離される家庭が増えている。頼りになるのは公的なサポートだけだが「少子化で財源が先細る」と解釈して不安を感じるのだろう。不安が背景にあるとすればお金はいくらあっても足りないと感じるはずだ。一般的にはおとなしいと言われる日本人だが危機感が背景にあるとかなり好戦的になる。

一方で現役世代は「終身雇用いじめ」に直面している。政府は大枠で終身雇用を否定しつつ、細かな補助金でそれを誤魔化そうとしている。既に退職金問題が議論されているが、今度は「給与所得控除」に目をつけたようだ。TBSが伝えている。

本来ならばこうした議論を整理するのはマスコミの役割である。だから政府税調の答申が出た時に「マスコミがどう整理するのか」が重要だと思った。だが実際に大手新聞を見ると「高齢者は将来が不安だからもっと取り立てるべき」というメッセージだけが全面に押し出されている。

政府は有権者の不安に応えられずマスメディアも議論を整理しない。このため、世代間闘争を煽る記事も出始めている。

例えばデイリー新潮は「自民党は高齢者に支えらた政党だ!」と批判する記事を出している。高齢者政党なので財源が捻出できないため「現役世代を対立させてパイの奪い合いをさせている」というのである。

健全な民主主義においてマスメディアは議論を喚起し問題を整理する役割を担っている。だが実情を見ているとむしろ分断を加速しているように見える。お互いの意見を聞いてまとめるという機能が失われているためだろう。

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