ざっくり解説 時々深掘り

フランスとヨーロッパが中国に接近し「西側」の結束が揺らぐ

Xで投稿をシェア

今週の国際政治の主役は中国だった。フランスとEUの首脳が中国を訪問しウクライナ問題に中国が積極的に関与することを求めた。一方で台湾の蔡英文総統はカリフォルニアでマッカーシー下院議長と面会した。米中関係はかなり冷え込んでいて、中国はホワイトハウスからの電話を断り続けているという。このままゆけば和平の枠組みからアメリカが排除されるというようなことも起きかねない状況だ。日本はどのような選択をとるべきなのか。優先順位を決めた上での意思決定が求められるが、まずは現状を知るところから始めたい。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






マクロン大統領とフォンデアライエン欧州委員長が中国を訪問している。おそらく目的は経済連携強化だがウクライナ問題についても協議した。フォンデアライエン欧州委員長は「デカップリング政策は取らない」と明言しており、アメリカの外交姿勢との違いが際立った。

人民日報は中国と欧州の結束は強まったとして満足げである。

イランとサウジアラビアの外相もわざわざ北京を訪れて歴史的な会合を行った。

一方で台湾の蔡英文総統はアメリカ大陸を歴訪中だ。カリフォルニアでケビン・マッカーシー下院議長と面会した。中国はこの動きに苛立っており「修好の動きがあれば人民解放軍を出動させる」というような事態に発展している。ホワイトハウスは中国に電話でアプローチしているが対話ができない状況が続いているようだ。BBCが伝えている。

親米・反米/親中・反中で物事を見ている人にとっては当惑する動きかもしれないが、まとめると次のようなことが起きている。

  • アメリカではこれまで主役だったヨーロッパ系の人たちの地位が相対的に低下しアジア系への感情が悪化している。
  • これを政治的に利用したい民主党・共和党はこれを「反中国政府」に向けたい。
  • 国内事情を背景に双方とも台湾を支援していると表明したい。まずは民主党の下院議長が台湾を訪れた。下院を奪還した共和党の議長も総統との面会を熱望していた。
  • この動きが中国政府を苛立たせる。
  • 一方でカップリングの動きはヨーロッパ経済も悪化させている。フランスでは年金改革に対する反対運動が盛り上がっているが、背景にあるのはおそらく経済の悪化である。
  • そこで、ヨーロッパは中国との関係を修復したい。
  • そのためには、中国の望むものを与えてもいいと思っている。それがアメリカに代わる「和平の立役者」という地位である。
  • 中国を排除しようとしたせいで、アメリカは和平の枠組みでは傍観者に追いやられる可能性が出てきた。

構図としては非常に単純だ。だが、おそらくNHKなどの報道を中心に見ている人たちは「西側」という大きな枠組みがあり結束しているという漠然とした印象を持っているだろう。この枠組みにひきつけて「親中と反中のどっちがトクなのか」などを考えるとたちまち状況がわからなくなる。つまり、実は枠組みが大きく変わりつつあるのである。

日本政府ははこの動きに追従できていない。このままでは何も決められないままアメリカと一緒に世界の潮流から取り残される恐れがある。

とりあえず「アメリカについていれば安心だ」という気持ちが強く情報がアップデートできてない。また安倍派などの中国強行路線の人たちに配慮しつつ「アジアともバランス良く付き合って経済的利益を追求すべきだ」という宏池会などにも配慮している。このため対応がどっちつかずになりがちだ。結局のところ日本の外交は派閥の連合体である自民党の限界によって選択肢を制限されているのである。

林芳正外務大臣の訪中は国内では「スパイ」問題で協議に行ったのだと宣伝されたが、中国では外務大臣がわざわざやってきて「中国切り離しには加担しないと誓った」と宣伝された。どっちつかずの対応なのでスパイ容疑で拘束された日本人を解放することもできず中国の宣伝にも利用されるという状態になっている。

もう一つ重要なのが日本の防衛政策に与える影響だ。メンツを非常に気にする中国は台湾を「平和理に統合した」と見せたい。総統経験者の馬英九氏の訪中もその宣伝の一環と考えられる。中国外交の特徴は「表面上は落ち着いたトーンで大物だということを見せたがる」という点にある。おそらく軍事的に台湾をねじ伏せるというロシアのようなやり方は彼らにとっては負けなのだ。

ところが日本はアメリカの考える「台湾有事」シナリオに乗せられてミサイル増強を決めた。おそらく増税を伴う。

ところが議論が進むうちに「アメリカからミサイルさえ買えば日本は安心なのだ」という単純化された議論が見られるようになった。

現実からは取り残され経済成長に充てるべきだった資金を別の目的で使うことになってしまいそうである。さらに今後行われる防衛増税はおそらく軍事的・戦略的には意味がない。中国は外交と軍事を組み合わせて行動している。だから軍事力だけ強化しても意味がない。

もちろん、このブログのエントリーを見て「中国とどう付き合うべきか」を今すぐ決めろなどというつもりはないのだが、少なくとも情勢の変化には目を向けるべきだろう。事態は刻々と変化している。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで