ざっくり解説 時々深掘り

アメリカ合衆国では犯罪者でも大統領になれるのか?

トランプ前大統領の裁判が始まる。「前代未聞」と言われることが多いのだが、一つ分かったことがある。アメリカでは犯罪者でも票さえ獲得できれば理論的には大統領になれるということである。裁判と大統領選挙が並行するという事態も想定されているそうだ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






今回の裁判で争われるケースは34件の重罪であると報道されている。アメリカでは軽犯罪と重罪が区分されており重罪はfelonyと呼ばれる。口止めは犯罪にならないのだが選挙費用を転用すると連邦選挙資金法違反になる。さらにそれを隠蔽するために事業記録を改竄したことで重罪ということになった。ただ、この34件は1つの口止め事件に関連する会計操作を細かく分けたものである。つまり「話を大きく見せている」のも確かだ。

さらに、トランプ氏が何かやっているのだろうということは、在任中から広く知られていた。にもかかわらず大統領在職者は裁かないという慣例があり捜査が進展していなかったという事情がある。

にもかかわらず「なぜ今裁判が始まったのか」については疑問が残る。

今回立件したブラッグ検事はトランプ氏をホワイトカラーの代表であると誘導している。ホワイトカラーたちはありとあらゆる法律を悪用し自分の利益を不当に守ろうとしていると印象付けたい。

ニューヨーク・マンハッタン地区検察のアルヴィン・ブラッグ検事は、前大統領の起訴について、「この事件は、多くのホワイトカラー事件と同様に、疑惑に満ちている」、「誰かが自分の利益を守るために何度も何度もうそをつき、私たち全員に適用される法律から逃れようとしているという、疑惑に満ちている」と述べた。

多くの日本人には、なぜホワイトカラー?」と感じられるのではないか。特にホワイトカラーが「正社員」だと理解される日本人には違和感が残る表現だ。

そもそもアメリカのDAと呼ばれる地区検事は選挙で決まる。ブラッグ検事は2021年にアフリカ系のアメリカ人として史上初めてDAになっている。この上「史上初めて大統領経験者を刑事訴追した男」として歴史に刻まれることになった。ブラッグ氏がDAとして選ばれ続けるためには成果を上げ続けなければならない。ホワイトカラー犯罪と公職者の汚職の規制強化は彼にとっては政治的な公約である。

こうした事情があるため、共和党の支持者たちは今回の件を「司法の政治利用だ」と見なす傾向が強いようだ。そして、それは被害妄想ではない。

なぜ、ブラッグ検事はエスタブリッシュメント(日本語で言うところの「上級国民」)をターゲットにするようになったのか。

ブラッグ検事は犯罪の多いハーレム地区で育った。アフリカ系が警官に二級国民扱いされる傾向が強い地域である。上級国民たちは自分達に都合のいいルールを作り下級市民に押し付けていると言う被害者意識があるのだろう。これに対抗するためにはどうするべきか。法律を勉強して法律を味方にすればいい。つまり彼にとって法律はアフリカ系を守るための道具であり武器なのである。

BBCによるとブラッグ検事は軽微な犯罪は大目にみるべきだと主張し発言の撤回を求められた過去があるそうだ。歴史的な格差や人種差別問題を「ホワイトカラーとブルーカラーの対立」に置き換えたと理解すると構造が分かりやすい。

ただし構図は相対的なものだ。

一方のトランプ氏も同じような主張して同じような人たちを惹きつけている。トランプ氏に言わせれば民主党はトランプ氏を魔女狩りしようとしている。彼が犯した唯一の犯罪は「この国を破壊しようとする者たちから、懸命にこの国を守ってきたことだ」とトランプ氏は主張している。

ここではトランプ氏が一般庶民の代表であるという位置付けになっており、民主党が「上級国民」のために一般庶民を虐めているという構造になっている。つまり実はトランプ氏とブラッグ検事は同じ構造を背景に法律を武器としてお互いを叩き合っているということになる。

政治ももちろん武器になる。トランプ氏は議会共和党に対して「司法省とFBIの予算を削減させるべきだ」と主張した。「正気に戻るまで」と言っていることから明らかに起訴されたことに対する報復だが身を守るためには正当化される。

日本の法律は絶対視されることが多い。一方でアメリカの政治は道具だとみなされている。道具なのだから武器として使うことができるというわけだ。司法の武器化などと言う言い方をされる。

極めて興味深いことなのだが、一旦、法律が武器化されてしまうとここから抜け出すことは非常に難しい。銃犯罪が多発しているにも関わらず人々は銃を手放すことができない。「常に武装していないと生き残れない」という気持ちを持っている人が多いのだろう。これと同じ構造だ。

「武器化」が進むと、平常心が失われ倫理は相対化する。そして、最終的には「犯罪者や容疑者でも大統領になれるのか」と言うことが議論されることになる。そして、おそらくその答えは「犯罪者や容疑者でも大統領になれる」のようだ。合衆国憲法には犯罪者や容疑者は大統領になれないという規定はないなどと議論されている。つまり民意がどの構図を取るかによって、何が正義かが変わってきてしまうのである。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

“アメリカ合衆国では犯罪者でも大統領になれるのか?” への1件のコメント

  1. 辻英利のアバター
    辻英利

    連邦選挙資金法違反は連邦法であり、管轄は司法省或いは連邦の選挙管理委員会です。以前にその選挙管理委員会がトランプの行為は違反とは判断しない事で決着していた筈です。これが違反であるなら重罪になりますが、該当する組織が無罪とした案件を地方検察官が検挙出来るのでしょうか?
    事業記録の改竄があったとしてもそれは軽犯罪で時効2年を経過済みです。重罪を隠す為と言われていますが、地方検察官の所管するどの犯罪か不明です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です