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イタリアで英語を使ったら1400万円の罰金を取られるかもしれない

日本では早くから英語教育をした方がいいのではないかという議論がある。政府の政策にも英語由来のものが多い。だがイタリアでは真逆の動きが出ている。国民が英語などの外国語を使用すると罰金を取られるようになるかもしれない。対象を政府職員ではなく「国民」にしているのが特徴だ。日本ではあまり知られていないが、CNNが伝えている。

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ある下院議員が提出した法案がニュースになった。

外国語を使用した国民に10万ユーロ以下の罰金を科すという内容だ。首相が支持を表明しているがまだ審議は始まっていない。おそらく「ヨーロッパ各国で右傾化が進んでいる」代表例として取り上げられたのであろう。

法案は断片的にしか伝わってきていない。中には「正しいイタリア語」を規定する委員会の設置などまともな条項もある。日本語やフランス語など国語ナショナリズムの強い国では一般的に行われている政策だ。イタリアは地域の集合体だった時代が長くこうした委員会はなかったようである。もっとも「どの地域のイタリア語を正しいとするのか」については議論が起きそうな気がする。

だが、懸念すべき項目も入っている。まず、罰金の最高額がかなり高額だ。

さらに、職場の第一言語はイタリア語でなければならないという条文は国際企業がイタリアにヨーロッパ支店や本店を置く上での障害になりそうだ。楽天のように「英語公用語化」などを推進すると法律違反ということになってしまうからだ。イタリア語が第一言語ということになればおそらく翻訳コストはかなりのものになる。EU域内の移動は自由なのだからこうした縛りのない国に支社や本社を置いた方がいい。

CBSはもう少し違った側面から伝えている。提案したのは右派系の議員のファビオ・ランペリ氏であって政府ではないという。ファビオ・ランペリ氏は長くイタリアの同胞の議長を務め下院の副議長に選出されているという党内の実力者だ。選挙の顔は女性になったが「イタリアの同胞」は実質的にはこのような人たちに支えられているのだろう。法案は特に英語を使いたがる人たちを「アングロマニア」として敵視している。

外国(特に英語)の敵視と巨額の罰金によりイタリア人の思考を管理しようという政策は批判される可能性が高い。特にイタリアの独裁者ムッソリーニに結び付けられる「イタリアの同胞」だがこうした政策を提案されれば警戒心を抱く人は多いものと思われる。

だが、この政策を直ちに「右派的」と断じることはできない。フランスでも同じようなことは行われているからだ。

中央集権の強かったフランスでは「フランス語」以外の言語はないことになっており、スペイン語に近い言語を話す人たちの言語は「方言」扱いになっている。また英語の浸食をカタログ化して「正しいフランス語」に置き換える動きもあるそうである。国を纏めるために言語を人工的に統一してきた歴史がある。

フランスでは1990年代にフランス語保護の運動が盛り上がり、憲法に言語規定が設けられた他トゥボーン文化大臣の元でトゥボーン法と呼ばれる法律が導入された。実はこれが今問題を引き起こしているそうだ。

フランスではポピュラーミュージックにも英語が多いそうだがフランス語の曲を一定数流すことを法律で義務付けている。例えていうなら、MTVなど英語の曲を中心に流す放送局に「日本語の曲を流せ」と命じるようなものだ。音楽配信プラットフォームにはそのような規制はなく好きな音楽だけを聞ける。だから当然お客はそちらに流れる。経営危機を感じたラジオ局は「なんとかしてほしい」と政府に請願している。

法律でフランス語を国民に押し付けることはできる。だが、当然ながら国民の趣味嗜好をコントロールすることはできない。結局国民は政府規制の強い「放送」を見捨ててしまうのだ。日本語の歌謡を制限したり厳しい放送コードを設けた韓国もケーブルテレビに人が流れた。つまり、国家は法律を作って放送局を規制することはできても、外国語そのものを禁止することはできないのだ。

現在提案されている法律案はフランスに比べ罰金の額が大きいことが問題視されているようである。イタリアの伝統を守りたい人たちの危機感の現れなのだろうが、罰金で国民の趣味嗜好を懲罰するようなやり方はおそらくイタリアでも批判の対象になるだろう。

ただ日本の政府のことを考えると、少しはイタリアを見習ってもいいのかもしれないと思うことがある。日本政府の政策にはさまざまな英語由来の略語が溢れている。中身を見てみるときちんと内容が議論されたとは言えないものが多く、中身のなさをなんとなく「難しそうな英語」で埋めているだけという印象だ。

実は日本でも政府に対して「法律はわかりやすい日本語で書くこと」というような規制を課すべきなのかもしれない。

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