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習近平中国の単純な外交戦略にバイデン政権が勝てないのはなぜか

日本から見るとかなり奇妙な動きに見えるかもしれない。習近平国家主席の外交が次々に成果をだしている。イランとサウジアラビアを結びつけロシアとの和平交渉に乗り出した。

背景にあるのはバイデン政権になってから目立つアメリカの不在ぶりである。軍事では勝って外交で負けていると言った印象なのだ。バイデン政権も外交をやっているのだがどちらかと言えば選挙キャンペーンといった色彩のものばかりだ。

では習近平国家主席のやり方が巧妙なのかということになる。冷静に見ると中国もロシアも単に自分達がやられたことをやり返しているだけである。つまりそれほど巧妙な戦術があるわけではない。にもかかわらず一定の成果を上げてしまっているのはなぜか。

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国土防衛をアメリカに依存する日本の立場からすると歯痒さを感じる。

まず、バイデン大統領のやり方を見てみよう。バイデン大統領は敵を設定し味方をまとめるというやり方を好む。これは「絶対正義」と「悪」が併立している状況では効果的な戦略だ。日本は「絶対正義」の側に立ちこの恩恵を享受してきた。

習近平国家主席はこの構造ををうまく利用している。つまり一方的に「悪」と認定された人たちを訪問してその代弁者としての役割を果たしている。このため相手の攻撃が全て自分達の得点になるという有利な状況が生まれている。

サウジアラビアの皇太子はジャーナリスト殺害を通じてバイデン氏から「敵認定」されていた。バイデン氏はサウジアラビアの皇太子を攻撃することによって自分こそが民主主義の救世主であると印象付けようとしていたのである。

イランはアメリカ支配を嫌いイスラム革命を起こしたという経緯から長い間「敵認定」されていた。アメリカ国内に反革命派のイラン人がいる。加えて資産を革命勢力に奪われてしまったアメリカ経済界もイラン革命を嫌っているため、バイデン氏だけでなく歴代のアメリカ政権や議会には反イラン派が多い。

イランとサウジアラビアは同じイスラム教徒と言っても民族や宗派が異なるが、首脳同士の往来も計画されているようである。イランは「サウジアラビア国王から大統領に対して招待状をもらった」と主張している。

実は今回の国交回復には温度差がある。イランは国際社会から孤立していないと見せたいが、サウジアラビアは引き続きイランを潜在的な脅威と見做している。そもそもイランは絶対王政を否定する「革命」の立場だ。

中東調査会は「中国は世界平和に貢献している」という和平者としての名誉を中国にプレゼントしたのだろうという見方をしている。極めてアジア的な複雑さがある。結果的にアメリカは傍観者としてこの事態を見ているしかなかったが、アメリカの存在なくして中国が「調停者」としての栄誉を得ることもできなかったということになる。つまり今回の外交政策をプレゼントしたのはバイデン政権なのである。

さらに中国はロシアにも目をつけた。「敵認定」という意味ではこれほど使い勝手のよい国もない。

24年にプーチン大統領が出馬すればおそらくプーチンが勝つだろうと言っていることからプーチン大統領に味方していることは明らかである。だがロシアに味方するとは言わず「和平交渉だ」と言っている。

ICCという国際的枠組みがプーチン大統領を戦争犯罪で逮捕状を出すとロシアはICCの検察官を起訴すると主張している。またICCに代わる国際的な仕組みを作るとも主張する。このようにロシアの行動原理は欧米が主導する国際的協調路線の枠組みにことごとく反抗するという極めて単純なものである。当然、中国とロシアの間にも温度差はある。

繰り返しになるが、ロシアの存在は中国には非常に都合がいい。経済的にはライバルになり得ないが「鉄砲玉」としての利用価値がある。「まあまあその辺にしといてやれや」と言えるからである。

中国のやり方は極めて単純だ。中国が世界の平和を乱しているとアメリカが宣伝する。それに対して「アメリカと同盟国こそが平和を乱している」と言い返すだけである。

アメリカ合衆国側は今のところこの戦略に対応できていない。アメリカは、カダフィ・リビアやフセイン・イラクを「独裁国家」と名指してきた。そして「国際的な正義は我々の側にある」としてこれらの国を追い込み軍事的に制圧するというやり方をとってきた。つまり多数派のために軍事力を行使してあげるというのがアメリカの成功法則だったわけだ。単純な割に効果が高かったためにアメリカは今の所これに代わる戦略が打ち出せていない。

アメリカよりも中国の方が内部闘争の仕組みが複雑でありその複雑さが習近平国家主席の優位性の原因となっている。習近平国家主席は国内では全ての政敵を平定してしまった。つまり、結果的に独裁者となってしまったため、中国国内ではこの微妙なバランスは今後崩れてゆくだろう。だが崩壊には時間がかかる。

バイデン政権は国内でも同様な問題に晒されている。これまでバイデン政権が敵認定してきた人たちがバイデン政権こそがアメリカを滅ぼすとしてバイデン政権を攻撃している。中には富裕層、中間所得層、成長から取り残されたヨーロッパ系アメリカ人など多様な人たちがいる。民主党が攻撃しなければ団結しなかったかもしれない人たちだ。さらに言えばトランプ氏は刑事事件で起訴される可能性がある。民主党の苛烈な共和党攻撃がなければおそらくトランプ氏が候補者として生き残ることは難しいだろう。

非常に皮肉なことなのだが、実はアメリカの存在がなければこうした異質な帝国はそれぞれがバラバラに自分達の利益を追求していた可能性が高いのではないかと思う。これはサウジアラビアとイランの関係を見ても明らかであり、中国とロシアの関係を見ても明らかだ。

少なくとも現状は「アメリカ」への敵意がこうした異質な帝国を結びつけており、奇妙な擬似同盟が作られている。「敵を作り出して味方をまとめる」という方法が成り立たなくなりつつあるのである。習近平国家主席が勝っているというよりはかつての成功体験から抜け出せていないバイデン政権の外交政策が負けているということなのだろうと思う。

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