岸田総理がキーウを電撃訪問した。訪問に特筆すべきものはなかったのだが、気になる点があった。誰もが予想した「電撃訪問」でありリスクに見合うだけのインパクトがなかった割に事前に警備の手薄なチャーター機であることまで知られていた。つまりインパクトはなくリスクばかりが高かった。そこで「これは誰のせいなのだろうか?」と考えてみた。
官僚・政権間に相互不信が高まっている。おそらく、今後も不確かなメディアリークが増えるだろうと思う。政府を組織し機能させるのが総理大臣の役割だと考えると「岸田総理が自ら危険を作っている」という結論になってしまう。
今回の訪問で岸田総理が戦っているのは専制主義ではなく同調圧力なのだということがよくわかった。G7の中で自分だけがキーウ詣(もうで)できてないことに焦っていたのだろう。野党側もこれがわかっており「国会の報告は事後でも良い」という空気が醸成されている。政府・議会全体に同調圧力由来の焦りがあるのだ。
だがセキュリティ上は大きな問題があった。日本テレビ(YouTube)がポーランドで岸田総理の姿を確認した。かなり目立つ車列だったようである。プライベートジェットであったということまで知られており本当に何もなくてよかったと感じた。
では、事前に報道した記者たちが悪かったのか?ということになる。考えてみたい。
事前にスケジュール変更があり今回の行動はすでに予想されていたようだ。またキーウ詣をする場合のルートもあらかじめ想定されていた。つまり、これは単なる総理大臣の隠密行動ごっこだった。
にもかかわらず大騒ぎになったのは事前リークを恐れて外務省側に情報を伝えていなかったからである。外務省の担当者が情報を把握できなくなった時点で問題が大きくなることは誰にでも予想できた。それでも強行せざるを得なかった岸田総理の焦りが滲む。さらに「自分達は置いてゆかれた」と感じた記者たちは一斉にリスクを評価せず「岸田総理電撃訪問」を伝えた。つまりこれも同調圧力由来の情報拡散だったわけだ。
同調圧力は合理性を吹き飛ばす。
この時点で総理大臣が狙われていてもおかしくなかった。すでに各国の首脳がこの経路を使っているのだから推測は容易だっただろう。みんなと同じ出なければ安心できないということは相手か行動が読まれやすいということを意味する。
行動する側は「みんなと同じでなければ安心できない」という焦りからくる同調圧力に支配されており、伝える側も「みんなが知っていることを自分だけ知らなかったらどうしよう」という不信からくる同調圧力がある。焦りと不信感がないまぜになり総理大臣の警備が手薄になる時間が生まれた。
にもかかわらず自民党の一部からは「政府の情報漏洩防止体制」が問題視されているようである。単に政府・政権の行動が稚拙なだけなのだがメディア統制の話にすり替えられても困るのだが、構造解析が苦手でアジェンダセッティングができない今の自民党らしい指摘だとは感じた。さらに言えば、日本は単に協力者としての地位しか期待されていない。つまりそもそも外国は日本を信頼していないのだから失われる価値もない。
官僚とメディアの不信感からくる同調圧力は今後も政権を危険に晒すだろう。
今回、話が大きくなったのはおそらく外務省に事前に通達が行っていなかったからだろう。少なくとも担当者は事前に知らされていなかったようである。総理周辺からはこれまでもリーク情報が量産されている。岸田総理が官僚機構に対して疑心暗鬼に陥っていても不思議ではない。
日本の官僚組織は大きくなりすぎた。さらに官僚組織に疑いを持つ安倍総理時代に関係がさらに拗れたのだろう。高市大臣の件を見てもわかるように「政権を面白くないと思っている官僚がいる」疑惑もある。
だが、結果的にはTBSが伝えるようにインド随行記者団はかなり慌てたようだ。これが問題を大きくした。
おそらく今後日本の政治報道はさらに混乱するだろう。政府が官僚組織を信じていないので官僚には曖昧な情報しか渡さない。不安に思った官僚たちはメディアリークを使って情報を集めようとするはずだ。
メディア操作はたやすい。「あれみんな知っているのにあなたは知らないの?」と言えばいい。焦った記者たちは同調圧力から政府に質問をする。本来はそれほど急ぎの話ではないかもしれないのだがそれでもとにかく話を聞きたい。他社が自分達より早く情報を掴む可能性があるからだ。
その過程で政府からは情報が出てくる。つまり、不信感を背景として官僚や与党関係者がメディアを使った不確かなリーク合戦を実施する動機が生まれてしまう。情報が不確かな環境ではよく起こることだ。
しかし、この過程で関係者の思惑を離れて話が制御不能になるケースも出てくるはずである。結果的に不信感と同調圧力を背景にしたリーク合戦は日本政府と日本を危険に晒す可能性がある。
BBCは日本の総理大臣が戦後体制になってから戦地を訪れるのは初めてだと指摘している。親ウクライナの姿勢の強いメディアなので「習近平国家主席の訪問にプレッシャーになったことだろう」と好意的に評価している。かなりの犠牲とリスクを覚悟で訪問している。是非そうあって欲しいものだと思う。
Comments
“岸田総理キーウ「電撃訪問」が直前リーク 岸田総理を危険に晒したのは誰なのか” への1件のコメント
岸田首相キーウ訪問暴露問題は、日本の官僚の不信感だけの問題ではない、メディア報道の稚拙さが目立ち、岸田首相キーウ訪問事前漏洩でウクライナのゼレンスキー氏との会談場所が特定され危険にさらすことに繋がるとは考えが至らなかったのだろうか、または左翼メディアがロシアに利する情報提供なのか。
日本の官僚は、この一例でもって日本を危険にさらしている事を自覚し官僚機構全体の機密漏洩問題に対して善処するべきではないか。