いよいよアメリカで中間選挙が始まった。結果は日本の朝になってから出てくる。ロイターでは9時ごろから速報を始めますと言うお知らせが出ていた。今回の注目ポイントはすでに別の記事にまとめた。ここは少し視点を変えてアメリカの選挙CMとSNS事情についてみてゆきたい。
BBCが二つの記事をまとめている。
徐々に言論空間が加熱していることもありアメリカ人はこの状況に慣れてしまっているようだ。ところが同じ英語圏でもイギリス人は少し冷静に物事を見ている。BBCは選挙CMを見ていて「やたらに銃を使った表現が多いな」と気がついたようだ。一方で民主党側は「女性の権利が脅かされている」などと言う表現が多いそうだ。
何らかの理由でアメリカ人は「自分達の自由が脅かされている」と感じているようである。あるいは経済的な不安定さなのかもしれない。とにかく共和党側は自由を守るためには拳銃が必要なのだと主張しそのようなテレビCMを流す。
こうした表現が辛いと言う理由でテレビを見なくなる人もいるかもしれない。あるいは既にテレビは見ていないと言う人もいるだろう。ではSNSはどうなっているのか。これもBBCが実験をしている。SNSに5つの有権者のアカウントを作り(要はなりすましである)どんな情報に晒されるのかを試してみたそうだ。
- ラリー: 武器の所有権を保障する合衆国憲法修正第2条を支持する。つまり政治的な「共和党支持者」だ。
- ブリトニー: 金持ちに反感を抱き中絶にも反対。トランプ氏の支持者。難しい政治の話題がわからないためポピュリズムに晒されやすい人を念頭に設計されている。
- ガブリエラ: ヒスパニックで経済危機の話題に敏感だが政治にはあまり関心がない。
- マイケル: 民主党寄りのリベラル。
- エマ: 少数者(LGBTQIや人種問題)保護に注目している進歩主義者。
これらの傾向はピューリサーチのデータをもとに「設計」されているそうである。アメリカ人の全てが政治に関心を持っているわけではない。また、理性的に情報を取れる人もいれば単に流される人もいる。これは共和党支持者でも民主党支持者でも同じことが言える。
結果的にアルゴリズムによってこの傾向が増幅されそれぞれが見せられる投稿や広告は違ったものになってゆく。特にトランプ支持者のブリトニーは暴力的な広告に晒されることが増えたそうである。つまり「危機感に煽られやすい人」が不安になるような情報が自動的に増幅されてゆくのだ。
特にTwitterは政治問題にあまり関心がない層の人たちにも極端な内容の投稿をお奨めするようになっていった。イーロン・マスク氏は共和党支持を公言する経営者でなおかつTwitterのモデレーションを緩やかにすると言っている。BBCは特に「ブリトニー」が今後さらに極端な言動に晒されるのではないかと懸念している。
このことからアメリカの少なくとも一部の有権者が危機感をCMで刺激されたあとでSNSによって信念が強化される言論空間に置かれている。危機感を煽られた後で解決策を提示されるのだから「洗脳」と同じような状況に置かれていることになる。
もちろん全てのアメリカ人が「ブリトニー」と言うわけではないのだが、AIによって自動化されたお奨め機能の攻撃がブリトニーに向かっているのは確かである。つまり「洗脳」しているのは一人の人間ではなくAIだということになる。テレビと違ってネット情報はターゲティングが可能だ。このターゲティングが生み出したのが「エコーチェンバー」である。誰か一人が始めたわけではないのだから誰か一人の力で止めることもできない。
当然こうなると「中間選挙は盗まれた」と言う主張をする人が増えてくる。選挙は盗まれていると信じ込んだ人がペロシ邸に押し入った事件が記憶に新しい。容疑者は例外中の例外なのだろうが、おそらく「ブリトニー」は増えているのではないかと思う。
今回もすでに「選挙は盗まれた」と言う情報が蔓延しているようだ。このためホワイトハウスは「選挙が盗まれたという具体的な脅威はない」とわざわざ噂を打ち消している。
議会襲撃事件から始まってペロシ邸襲撃事件までアメリカの政治は潜在的な暴力の懸念にさらされてきた。今や43%もの人が投票所での暴力を懸念している。原因がどこにあるのかはよくわからないのだが、あるいはAIというプログラムによって自動的にそうなっているだけなのかもしれない。