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「アリゾナは侵略されている」と主張の女性版トランプが州知事選で最後の粘りを見せる

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アメリカの中間選挙についてはすでにさまざまな報道が出ている。事前に予想されていたほどの混乱は起こらず、共和党が大勝するレッドウェーブ・レッドツナミもなさそうだという評価になりつつあるようだ。そんな中、注目を集めていたのが「トランプ・チルドレン」と呼ばれる候補者たちだ。アリゾナ州知事戦では「アリゾナは攻撃されている」と主張し続けてきた候補がまだ残っている。レディ・トランプ(女性版トランプ)という異名のあるカリ・レイク氏だ。

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アリゾナ州の知事選挙に立候補していたカリ・レイク氏は自分が当選すれば「憲法第1章第10節」を根拠に「アリゾナが侵略されている」という宣言を出すと主張していると、CNNが伝えている。「幸運にもこの候補は当選しなかった」と書きたかったところなのだが、意外に健闘していてまだ決着がついていない。開票が慎重に行われていることもあり現在はほぼ50%の僅差で残っている。

アメリカ合衆国憲法は州の独自外交を制限しているが急事態だけは例外だ。一般にはこの緊急事態は戦争などの行為を指すのだがカリ・レイク氏はこれを拡大解釈し不法移民や治安の悪化などでアリゾナは侵略されていると宣言すると息巻いているのだ。危機感を煽り政治リテラシのない人たちを巻き込む手法はまさにトランプ的である。

先日はBBCの報道をもとに「政治に関心はあるがあまりリテラシーのない」ブリトニーと呼ばれるアカウントが偽情報に晒されてゆく様子を観察した。この記事を見たときには「そんなこともあるのかな」程度のリアリティしかなかった、実際にはこうしたブリトニーたちが選挙結果に大きな影響を与えることがよくわかる。ブリトニーたちはトランプ氏の極端な言動に不安を募らせてゆきカリ・レイク氏のような極端な行動を支持するようになる。

レイク氏は「フェイクニュースメディアはもう終わりだ。もう誰もあなたたちの言うことを聞かない」や「不法入国を阻止し、(麻薬)カルテルを追及して、彼らをテロリストとして扱うつもり」などいう過激な主張を繰り返し女性版トランプ(レディ・トランプ)と言われている。 もともとニュースキャスターであり巧みな話術で女性や若者に支持されてきたところなどは同じ女性ニュースキャスター出身の小池百合子東京都知事と似ているがその主張は小池氏よりもかなり過激である。アメリカ人が潜在的に抱えている不安をうまく炙り出したのだろう。

FOX系の地元局で働いていたレイク氏は「今はトランプ氏の主張が受ける」と考えたようだ。トランプ氏にインタビューしたのをきっかけにトランプの熱心な信奉者になってしまった。NHKがカリ・レイク氏の経歴をまとめている。

レイク氏を支持しているのは既存のマスコミを信じない人たちだ。メディアは力を失っているとメディア攻撃を繰り返して人気を集めていった。既存メディアに依存しなくてもメッセージが伝えられるのはアメリカではテレビ離れが始まっていてFacebook、Instagram、YouTubeなどのSNSから選挙情報を集める人が増えている。テレビと違って「いいね」などを押すとたくさんの仲間に囲まれているような気分になるのかもしれない。

トランプ・チルドレンというと単に乱暴な発言を繰り返すだけな人という印象があるのだが、現在のトランプ・チルドレンはこのようにSNSを活用して若者やテレビの影響を受けない人たちに浸透しているようだ。

最終的にカリ・レイク氏がアリゾナ州知事になるかはわからない。だが、アリゾナ州では今回も選挙システムが故障するという問題が起きている。前回もフェニックスのあるマリコパ郡で選挙結果は盗まれているという騒ぎが起きていた。おそらく郊外では極端な主張が受け入れられても都心部ではやや冷静な声が勝ち最終的に民主党が議席や知事職を維持するという状況が続いているものと思われる。郊外の開票で「勝てる」と思っていたのに土壇場で逆転されたとなればそう考える人が出てきてもおかしくはない。

カリ・レイク氏が当選すれば「前回の再調査をする」とか「次回に向けて選挙制度を見直す」などと言い出しかねない。もちろん負ければ「今回の選挙は盗まれた」と主張するだろう。CNNはKari Lake raises unfounded doubts about election results in Arizona governor race that’s too early to callという記事を出している。unfoundedは根拠のないという意味なので「証拠は示さずに選挙結果に疑いがあったと提示している」ということになる。

今回の中間選挙ではどちらも勝たなかった。つまりどちらにとってもなんとなく不満の残る結果になっている。「2024年は文句なしにトランプ氏でゆこう」ということにはならず、逆に「トランプ氏では勝てそうにない」という空気も生まれそうにない。こうなるとトランプ陣営やサポーターたちは過激な言動をさらに過激化させることになるだろう。

アメリカ中間選挙の開票は続いており、今後の動向が注目される。

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