以前にアメリカの金融政策の急速な転換がTwitter社のリストラの原因になっているのではないかと書いた。より具体的な記事を見つけたので読んでみた。おとぎ話風に要約すると「金のガチョウを手に入れたはいいが餌代がもったいないので半分に切ってしまった」と言う話のようだ。ただ餌代をケチるのには理由がある。実は多額の借金を背負っているのだ。
イーロン・マスク氏はTwitter社の人材の半数を解雇した。これが激震となりいくつかの広告主が手を引き始めている。だがマスク氏にはマスク氏なりの事情があったようだ。日経新聞とBloombergが同じ題材で記事を書いている。
日経新聞のコラムは「銀行団は金融市場で起きた環境激変の前にマスク氏への融資を誓約した。誓約内容は環境が激変する前に合意された」と書いている。FRBが急速な金融引き締めを行う前に話を決めたのだがその後FRBの政策がガラッと変わってしまい慌てているということになる。Bloombergはモルガン・スタンレーなどの銀行団が借金を引き受けていると書いている。今後はその借金を「売りに出さなければならない」そうだ。
株式は資本主義の最も偉大な発明品の一つである。航海に乗り出す船乗り(ベンチャー)が宝を持ち帰れなくても投資家に殺されずに済む。ところが代わりに株主は色々と意見を言ってくる。自分のお金が戻ってくるか心配だからだ。マスク氏はおそらく「あれこれと説明するのが嫌」でローンファイナンス(つまり借金)を選んだのではないかと思う。自分の好きなようにやりたいのだろうしこれまでもある程度その手法で成功してきた。この手法だと貸し手が意見を言うことはないが借金が返せなかったり利息が払えなくなるかのうせいがある。そうなると最悪はTwitterを抱えたままで「ゲームオーバー」だ。
オーナーシップが株主からイーロン・マスク氏に移ったというわけではなく、実は銀行に移っただけだった。そして、銀行はいつまでも借金を抱えるつもりはなく証券にして売り出そうとしていたのだ。ところがFRBが方向性を変えて資金が市場から蒸発し始めた。いったんは考え直そうとしたようだが既にディールを結んでしまったために撤退できなくなったと言うのが真相のようである。
資金が借金で賄われているので当然利息が発生する。Twitter社を急速に黒字化させなければこの金利負担をマスク氏が背負うことになる。返済が滞ったり利息が支払えなくなれば借り手は貸し手に対して責任を取らなければならない。
こうした切迫した状況でマスク氏が必死になるのは理解ができる。経営者としては究極のリスクを抱えたままで「企業改革」に取り組むことになった。自ら過酷な状況に身を置いて常に限界を試し続けているともいえる。
いずれにせよm将来収益を見込んで金の卵をたくさん産みそうなガチョウを買った。だが餌代がものすごくかかる。そこでマスク氏はガチョウを半分にすれば餌代も半分になると考えたのだろう。ところが切った半分の中には将来マスク氏の構想を実現するのに欠かせない人材も含まれていた。そこでマスク氏は慌ててのその人材を呼び戻そうとしているようだ。解雇通知を送ったが「間違えて送った」と復職を求めるそうである。ガチョウはふらふらと彷徨っているが一応サービスとしては機能し続けている。
日本では広報部門が切られたと言う話がある。実質的にマスク氏が広告塔の役割を果たしておりマスク氏のビジョンが機体を引っ張ると言う戦略なので広報部門はいらないということなのかもしれない。現在もマスク氏は壮大なビジョンをTweetし続けているようだ。実際にはマスク氏の反社会的なリストラが反発を呼び「逆宣伝」になっている。おそらく銀行団は頭を抱えているだろう。引き受けたローンが手放せなくなる。
マスク氏は何がTwitterの魅力になっていたのかについてはまだ気がついていないようだ。政治的に中立であるために安心して広告出稿ができる媒体だったのだがマスク氏は共和党への投票を呼びかけている。おそらく民主党寄りの企業はTwitterには出稿しなくなるのではないかと思う。極端な政治言論が横行すればかつて日本にあった「例の巨大掲示板」のような状況に陥りかねない。
このTwitterの買収話は政治にはあまり関係ないように思えるのだが、実は政治が生み出した金融政策の変更が政治言論プラットフォームに動揺を与えていることがわかる。政治言論プラットフォームが動揺すればさらに政治言論は二極化し問題解決が難しくなる。民主主義の維持と言う観点からは極めて重大な問題が起きている。
アメリカの中間選挙が始まったが政治言論空間的にはかなり危険な状態での選挙になりそうだ。これについては別途投稿を起こしたい。