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怒りを抑えられない豊田真由子議員について思うこと

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豊田真由子さんという聞きなれない議員が自民党を離党したそうだ。秘書を罵倒する声がニュースで<報道>されていた。

ちょうど説明責任について書いていたのだが、マスコミは豊田議員は説明責任を果たすべきだとしていて、強い違和感を覚えた。多分マスコミの人を含めて「怒りが抑えられない人」を身近に見た経験がないのだろうと思う。

世の中には怒りが抑えられない人が存在する。こうした人たちは表面的には正常な社会生活を送っており、遂行能力も高いことから「優秀な人」とみなされることも多い。だが、遂行能力の高さとは「身の丈に合わない頑張りを常に強いられている」ということでもある。常に誰かから評価されていなければならないと感じているのだろう。そのストレスのはけ口が「身内」に向かうのだ。

自分で何かをやる場合それをいちいち自分に説明する必要はない。自分で考えていることはすべてわかっているからである。他人の場合は言葉で説明する必要があるのだが、怒りが抑えられない人はそれがわからない。自分の秘書があたかも麻痺した手のように見えて苛立ちを持ってしまうのだろう。

豊田議員の場合(たまたまなのだろうが)秘書が宛名を間違えたことを問題にしている。それを「殴られた」と感じていることから、痛みとして処理していることがわかる。

間違った宛名の入った案内状を支持者が受け取る。その支持者は豊田議員のことを「ちゃんとしていない」と思い軽蔑するだろう。それを考えるだけで殴られたのと同じ痛みを覚える。だから秘書に報復して、同じ痛みを覚えさせなければならないと感じる。そのためには娘を事故死させるのがよいだろう、という理屈だ。

学習には2つのルートがある。一つは褒められて嬉しいというルートで、これは報酬系が関係している。もう一つは殴られると痛いというルートだ。

ここで重要なのは、怒りと痛みが同じ場所で処理されているという点である。あのテープだけを聞くと、全く辻褄が合っていないめちゃくちゃな発言のように聞こえるが、実は「脳が現象をどう捉えるか」という意味では辻褄は合っている。骨が折れているのに選挙活動をしたということなのだが、骨折の痛みよりも、相手を失望させて感じる痛みの方が強かったのかもしれないとすら思える。多分豊田議員ほ褒められて嬉しいから議員活動を頑張っているのではなく、叩かれると痛いから議員活動を頑張らざるをえなかったのではないだろうか。

細かく見ると痛みや怒りは脳の原初的な部分で処理され、それを抑制する働きは脳の新しい部位にある。脳科学では「大脳辺縁系で生じそれを前頭葉で抑える」と説明される。説明ができるのは脳の新しい部位なので、多分本人にはそれはわからないだろう。抑えられなくなっているのがもともとの問題なのか、強いストレスにさらされて起きたことなのかはわからない。

仮に豊田さんが優秀な人だったと仮定すると党は組織として彼女をサポートするべきだった。逆に、最初から問題行動が多かったとすれば、そもそも強いストレスのかかる国会議員として不適格だったということになる。つまり、自民党は豊田議員に対して責任があるので、党を辞めさせれば済むという問題ではないはずである。

さらにマスコミの対応もひどかった。家庭内暴力も同じようなメカニズムで起きているはずで、本人が気をつければ済むのなら家庭を崩壊させ、子供を死に追いやるほどのひどい事件は起きないはずだ。マスコミは日常的にドメスティックバイオレンスや子供の虐待などを報道しているのに、そのメカニズムは気にしていないのだろう。「自己責任社会」の根深さと罪深さを感じさせる。虐待された子供やひどいパワハラを受けた部下などにれだけ深刻な問題が起きるかということを全く理解していないのだろう。

日本の精神医療への偏見もある。「あの人は頭がおかしい」と言われるのを恐れて、心理カウンセリングに行かない人も多いだろう。さらに的確なカウンセラーに巡り会えたとしても、費用がかさむかもしれない。日本の場合、投薬に重きが置かれており、問診ではあまり診療報酬がもらえないという事情もある。費用がかさむのを恐れて、民間のカウンセラーを探すことになるのだが、かなり人格の根本に関わる秘密を共有するので、宗教に勧誘されたり、高いものを売りつけられたりということもあり得るだろう。つまり、風邪をひいたから内科にかかるようには、心理カウンセリングは受けられない。

この問題が重要なのは、会社が個人を守ってくれなくなり、前頭葉の働きが弱まった高齢者がますます増えてくるからだ。アンガーマネージメントは社会問題なのだが、そういう認識がなく「本人が我慢すればいいんですよ」という自己責任にすり替えられてしまう。

つまり、実は単なるスキャンダルに見えるのだが、組織が個人をどう支えて行くかということや、医療のあり方とい極めて政治的な問題が含まれているということになる。

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