今やアメリカ合衆国の民主主義は世界にとってのリスクとなった。
トランプ大統領の今回の関税発表は1930年代に喩えられることが多い。アメリカ発の経済恐慌が世界に連鎖し最終的に第二次世界大戦に向かったという時代だ。
この教訓を踏まえると「アメリカ合衆国というリスク」を切り離す方法について具体的に考え始めなければならないということがわかる。リスクを避けるためにはショックを吸収する装置を作るか防火壁を作ることが有効だ。少なくとも理論的にはそうなる。
第一次世界大戦の結果、アメリカ合衆国は空前の経済ブームに沸き立つ。ブームが過熱した結果起きたのが1929年の大恐慌である。当時の金融市場は今よりも脆弱で世界中の国が経済不況に落ちいった。この過程で各国は保護主義に陥りブロック経済を作った。このブロックごとの衝突が引き起こしたのが第二次世界大戦である。日本はこの過程でABCD包囲網に囲い込まれている。どの国とも協力できず自前で共栄圏を作ろうとした結果として囲い込まれてしまった。
この教訓を活かすならば、世界経済はアメリカというリスクを安全に切り離し、アメリカ以外の世界で協力しつつ(つまりブロック経済化を防ぎ)安定的なシステムを構築しなければならないということになる。特に資源に恵まれない日本はアメリカ以外の国との協力関係を急いで再構築しなければならない。
これについて書いたところ「基軸通貨国であり豊富な知財を持つアメリカ合衆国をシステムから切り離すことなど不可能である」というコメントが付いた。確かにその通りかもしれない。
これを踏まえるならばおそらく解は次のようなものになるだろう。
アメリカ合衆国の民主主義は今やリスクとなった。
そのリスクを地震や火災と同様なものと捉えるならば世界が協力し(つまり保護主義に陥らず)
- ショックを吸収する耐震装置のようなものを作る
- 防火壁のようなものを作り一時的にアメリカを遮断する
装置づくりが必要となる。
また日本については
アメリカ合衆国から完全に切り離されることは不可能にしても
代替となる協力関係の維持が重要
と言えるだろう。
理論的には極めて単純だが「では、具体的にどうするのか?」という問題が残ることとなるだろう。
いち早くリスク回避に動いているのが中国だ。中国は今回のアメリカ合衆国の動きをむしろチャンスと捉えている。すでにアメリカ合衆国主導の切り離しが進んでいたため影響が少ない。今回の関税問題ではカードがない東南アジアやアフリカがかなりの被害を受けるものと考えられている。これらの国は中国に依存せざるを得なくなるだろう。
問題はEU/イギリスと韓国がどのような動きに出るかである。すでにヨーロッパでは中国との関係を再構築すべきだという意見はあるものの一定の警戒心も残っているそうだ。
韓国は安全保障をアメリカに依存しつつ今回の関税問題ではターゲットにされているという被害者意識がある。60日以内に大統領選挙が行われるため動向に注目が集まる。
では日本はどうするのだろうか。
石破総理はアメリカ合衆国とは対決しない姿勢を示している。しかしながら単独での意思決定を避けて野党党首に「お伺い」を立てることにした。今のところ野党党首からも国内経済対策を求める声しか出てきておらず自民党の内部からも石破総理を引きずりおろす動きは出ていない。言葉では「国難」と言っているが実際の対策は参議院選挙対策に過ぎない。意識の切り替えが十分に進んでいないのだ。
引用は控えるが「今後ますます円安が進むであろう」というYouTube動画を見つけた。関税問題を解決するために日本は何かしらを差し出す必要がありどれも円売りに向かうという主張だった。これを引用しないのは識者の間に今後の為替相場についてのまとまったコンセンサスが出ていないからなのだが「貿易黒字を支えているのは自動車産業だけ」であり「それをアメリカに差し出さざるを得ない」のは確かである。
かといってそれに代わる産業が出てくる兆しもない。さらに景気対策として財政出動を行えばこれも円売りの材料となるだろう。
結局、日本は意思決定しないままでズルズルとアメリカ合衆国経済に抱きつき周辺国をまとめにかかっている中国にも擦り寄らざるを得ないという事態に陥る可能性が極めて高いのではないかと、かなり悲観的な気持ちになっている。
日本人は合理的判断よりも「好き嫌い」を優先してしまう傾向がある。危機意識が高まれば高まるほど合理的な判断ができなくなってしまう。今でも「中共ごときと協力するなど言語道断」という意見はよく耳にする。王騎外務大臣の姿勢はかなり剛腕で強硬なのだが「中国に力でねじ伏せられている」という事実を認めたがらない人も大勢いるため、眼の前の情勢変化に対応できないという人も多そうだ。
ここでふと「日本はそれなりにニクソンショックもプラザ合意も乗り越えてきたではないか」と考えた。どれも日本の交易条件を大きく変えたが「この世の終わり」にはならず「収まるところ」に収まっている。
これまでの2事例ではアメリカ合衆国は「落とし所」を作ってから方針返還を行っている。しかし、今回の事例では「貿易赤字はすべて外国のせいだ」としている。
つまりこのまま混乱の道連れになりたくなければ自分たちが気に入るアイディアをもってこいと商売相手を恫喝しているのである。トランプ大統領の目と耳に入ってくる情報が極めて限定的で偏ったことになりつつあることを考え合わせるとやはりいささか暗い気持ちにならざるを得ない。情報は偏っており論理構成はデタラメになっている。意思決定を先延ばしにすればするほど日本は得意な産業も奪われたうえにアメリカの道連れで国際的地位を低下させてゆくだけになってしまう。
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