トランプ政権が在日米軍強化見直しを検討しているらしいという記事が相次いで出た。CNNを引用したもの。とはいえアメリカ合衆国が何を考えているのか、あるいは日本政府がどのように行動するのかについては何も書かれていない。
「どうしよう」と不安になって結局何もしないといういつもの日本的な対応だ。意思決定に何も影響を与えないのならば単なる情報ゴミということになる。
時事通信は次のように書いているが、事実かどうかを確認するつもりも特になさそうだ。また石破政権に聞いても「仮定の質問にはお答えしかねる」と回答されるのが関の山だろう。
米CNNテレビは19日、トランプ政権が進める政府機関縮小の一環として、国防総省が在日米軍の強化計画の中止を検討していると報じた。事実であれば、自衛隊と米軍の連携にも影響が生じそうだ。
在日米軍強化の中止検討 トランプ政権、連携に影響も―報道(時事通信)
日本のメディアを読んでも不安になるだけなので原文を読んでみた。CNNの原文は「高級軍人の削減」となっている。つまり米軍のリストラの話である。宛先はDOGE(イーロン・マスク氏)などだ。トランプ大統領のマスス氏重用姿勢に逆らうと大変なことになるので「デメリットが多いですよ」と説得するための材料である。
再編の過程ではNATOの指揮官の放棄という提案も行われているが、在日米軍も地域本社から支店に格下げになる可能性がある。ポイントになっているのは政治的リスクと太平洋での米軍のプレゼンス低下が分けられているということ。つまり日本がアメリカから離れて独自に軍拡を始める可能性や日米同盟に対する信頼のゆらぎなどは独立した事象として語られている。
Another option to cut costs is to stop the planned expansion of US Forces Japan, the document says. That could save about $1.1 billion in personnel and command and control upgrades, it notes, but could also create “political risk” for the US in Japan and reduce the scope of command and control in the Pacific.
Pentagon weighs major cuts to top of US military(CNN)
単なるリストラ策と考えることもできるが、それ以上の意味を見出すことは容易い。
トランプ政権は「単一行政理論」という理論を信奉している。民から選ばれた大統領がその他の権限を統一するという理論である。この表れとして裁判所とトランプ大統領の間には深刻な摩擦が生じている。トランプ大統領は地方判事ごときが民から選ばれた至高の存在である大統領を邪魔するなどあってはならないことと考えており裁判官の罷免を要求している。これに刺激される形で支持者たちは裁判官を暴力的に恫喝しているそうだ。
同じように中間管理職が多い軍隊も「大統領の命令に抵抗する」存在とみなされる。そのため中間管理職を排除し大統領権限の元に軍隊を統括すれば民意が反映しやすくなるであろうという見込みがあるのだろう。
加えてDOGEはその背景に「テクノクラシー」という考え方があるのではないかと指摘されている。もともとのテクノクラシーはビューロクラシー(官僚依存)を開くと考えアメリカは合理的な思考を持った「テクノクラート(技術官僚)」によって統治されるべきだと考えていたようだが、現代ではAI化すれば効率化が図れるというような思想に代替されつつある。
この一つの現われとしてDEI(多様化政策)の追放(パージ)があった。国防総省のウェブサイトからはマイノリティが映り込んだ写真を含む記事が多く削除された。硫黄島に上陸した米軍が星条旗を掲げる写真もネイティブアメリカンが映り込んでいたという理由で削除されている。
これはすべてコンピュータ処理によるものだったそうで「検索キーワード」で一括で検索し削除してしまったことがわかっている。現在、様々な方面からの批判を受けて一部のドキュメントが回復している。
A DOD official told ABC News that the Robinson webpage, among other content recently removed from Pentagon websites, was “mistakenly removed” due to the search terms used to scrub DEI terms from platforms.
DOD says it ‘mistakenly removed’ Jackie Robinson, other content from website amid DEI purge(ABC News)
トランプ大統領はとにかく頭ごなしに説教されることを嫌う。このためまずは指示に従ってみて大混乱を起こし「やっぱりちょっとおかしなことになりましたね」ともとに戻すという受動攻撃的な手法が取られていると評価できる。
いずれにせよ、こうした混乱のなかで石破総理らが「在日米軍基地の役割を丁寧に説明」したところでなんの意味も持たない。そもそも石破総理は自民党内部からの倒閣圧力にさらされていて予算の年度内成立すら危うい状況だ。誰かが軽い気持ちでマスコミにリークした商品券問題は石破総理にだけ火をつけたかったのだろうが今や岸田・菅総理にも着火し「自民党全体の体質の問題だ」などと大騒ぎになっている。
ここまで状況が整理できたらあとは「では実際にトランプ大統領は最高司令官としてどの程度優秀なのか」を見てゆけばいいことになる。
なぜ日本のメディアがこのような分析を加えないのかはよくわからない。そもそも問題解決には興味がないのかもしれないし単に忙しすぎるのかもしれない。当ブログが「ジャーナリズム」に熟達しているとはとても思わないが、少なくとも「文献研究」くらいはきちんとやってほしいものだと感じる。