傲慢なトランプ大統領にいじめられたかいわいそうなウクライナのゼレンスキー大統領はヨーロッパでは暖かく迎えられました。
あまり興味がない人はだいたいこんな話として理解すればいいと思う。
それでは少し「食い足りない」という人のために欧米のポリティコの記事を中心にまとめてみた。ヨーロッパはNATO崩壊を防ぐための時間稼ぎを始めたようだ。
まずはスターマー首相のコメントから。停戦交渉の過程はスローペースになると言っている。ウクライナの犠牲を今すぐ止めたければ「アメリカ抜きで」交渉を始めるべきだと感じるがそうなってはいない。
“I’m not criticizing anyone here, but rather than move at the pace of … every single country in Europe, which in the end would be quite a slow pace, I do think we’ve probably got to get to a coalition of the willing now,” Starmer said.
Starmer and Macron to work on Ukraine peace as leaders meet for London summit(POLITICO)
スターマー首相はゼレンスキー大統領を迎え入れて全面的な支援を約束した。そして追加の支援を申し出ている。ところがこの支援は融資であり原資はロシアの凍結資産だ。
他の西側諸国(日本は入っておらず、ヨーロッパとアメリカ以外のアングロ・サクソンの国々)がウクライナへの支援を表明したが、具体的な行動はまだ起こしていない。
このニュースだけを見るとヨーロッパが自己犠牲を払ってウクライナを助けてくれるかもしれないと感じる。だが実際にはそうなっていない。つまり言っていることとやっていることには相違がある。
アメリカ合衆国は西側から浮いた存在になっておりゼレンスキー大統領の謝罪なしには支援には復帰しない意向。そればかりか減税のためのコストカットを必要とするトランプ大統領は今回の一件を支援引き上げに利用しかねない情勢だ。
停戦交渉の主体は有志連合となる。イギリス・フランス・ウクライナが加わることは確実視されている。ドイツは選挙が終わったばかりで政権ができていない。スターマー首相は「その他1国か2国」が参加する見通しが高いと言っているが、それがどの国を指しているのかははっきりしていない。
報道を注意深く読むと有志連合交渉にはアメリカ合衆国の当事者たちが加わっているようだ。アメリカの国内にも「ヨーロッパサイド」にとどまりたいという人たちがいることがわかる。アメリカの事情については別途整理するのだが、伝統的共和党・共和党タカ派の人たちは表立って活動するのが難しくなりつつある。
有志連合については「参加国が多すぎると意思決定のプロセスが遅くなる」と言っている。
首脳らが強調したのは、コンセンサス重視の欧州連合(EU)より速いペースでの行動と、軍事力の強い外部国を取り込む必要性だ。スターマー首相は防衛予算の国内総生産(GDP)比率を、現在の2.3%から2.5%に引き上げると公約している。ブレグジット(EU離脱)後の欧州でリーダーシップを取り戻したい考えだ。
欧州首脳が英国で緊急会合、ウクライナ支援「有志連合」結成試みる(Bloomberg)
EUを敵視し内部から統制を破壊しようとしているリーダーがいるため、イギリスは全員参加にしたくない。また、そもそもイギリスはEUの加盟国ではない。自分たちのコントロールでEUの外に枠組みを作りたいという野心も見え隠れする。実はイギリスもブリテン・ファーストなのだ。
アメリカを離反させないためにスローペースになっても構わないといいEUの内部にいる一部の人達を参加させたくないためスローペースは困ると言っている。スターマー首相の発言は矛盾しており「支援の枠組み」づくりは難航するであろうと想像するのは難しくない。
いずれにせよ、今回の一連の流れを「ウクライナ支援」と考えると話がわからなくなる。
マクロン大統領はアメリカ合衆国が集団自衛の枠組みから外れつつあるのだから防衛のために支出を増やすべきだと言っている。主題は「ヨーロッパ防衛」でありウクライナ支援ではない。
ウクライナ支援の取り組みにはアメリカの存在が欠かせないがトランプ大統領の一連の発言を見ていると「おそらくもうアメリカでは無理なんだろう」という理解が広がっていることがわかる。アメリカの事情は別途整理したい。
ヨーロッパがアメリカ抜きでウクライナ支援に乗り出してロシアに負けてしまうとおそらく取り返しのつかない大惨事となる。このため前線にはウクライナを差し出しなんとか頑張ってもらいたい。その間にヨーロッパは自分たちで防衛の枠組みを組み直そうとしている。
ロシアによるウクライナ侵攻は戦後に構築されたヨーロッパと北太平洋地域の国際協力の枠組みを変えるために積極的に利用されているということがわかる。特にEU離脱により影響力を失いつつあるイギリスには失地回復のチャンスになる。
ロシアは今回の件で大喜びしている。中には「ロシアはトランプ大統領を協力者として育ててきた」とする人もいるが、仮にそうであればロシアは表立って露骨に喜ばないはずだ。欧米の協力体制に亀裂が走ったことを単に喜んでいるという印象がある。
ただしロシアが一方的な加害者であるという見方もまた正しくはない。ヨーロッパ側がロシアをEUから排除したという経緯がある。トルコも同じような境遇に置かれているがNATOに椅子を持っておりロシアとは状況が異なる。
自分たちを「高いスタンダードを持った選ばれた存在である」と考えるヨーロッパの高慢さの暗い影がロシアだという見方もできる。
ウクライナはこうした複雑な国際情勢に翻弄され国家滅亡の危機に晒され3年以上も孤独な戦いを続けている。