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外交的に孤立するアメリカ合衆国 ウクライナ支援を巡って

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アメリカ合衆国がウクライナ支援を巡って外交的に孤立しつつある。伝統的な共和党の人たちやタカ派と呼ばれる人たちはなんとか西側陣営に踏みとどマロウとしているのだが、表立って行動することが出来ずにいる。

アメリカ合衆国はヨーロッパと価値観を共有できる国ではなくなりつつあるが、背景にあるのは立ち遅れたアメリカ人たちの復讐心のようだ。

つまりトランプ大統領一人が暴走していると考えると今目の前で起きている動きが見えなくなる。

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英仏は「主体的にウクライナ停戦計画を作る」と言っておらずアメリカの当局と交渉しているという。これが何を意味するか、また「良いことなのか悪いことなのか」は人によって様々な意見があることだろう。

おそらくはアメリカ政府の中にもヨーロッパとの関係を維持したいと考える人たちがいるはずだ。しかし前回お伝えしたように共和党タカ派の人たちはMAGAの監視対象になっており身動きが取れない。

この代表格がバンス副大統領だ。

彼は立ち遅れた地域の破綻した家庭に育った。戦争に従軍し「エスタブリッシュメントに利用されている」と感じるようになる。彼の言動には「いつかあいつらをギャフンと言わせてやりたい」という気持ちが見え隠れする。

トランプ政権は乱暴な振る舞いで周りを混乱させ続けているが、あれは意図してやっていることだ。乱暴に振る舞えば振る舞うほど支配者が誰なのかをはっきり内外に示すことができる。

ヨーロッパは自分たちが排除したロシアと戦っている。同じようにアメリカには両岸の繁栄から取り残された人たちがいてエスタブリッシュメントに対する復讐を始めている。信仰局や英語の公用語化などの全体主義的な動きが広がっているのはそのためだ。英語の公用語化は大統領令まで終わったところだそうだ。今後具体的な動きが出てくるだろう。

彼らは自分たちを蔑んできた進歩派(彼らに言わせればお高く止まった意識高い系)を反キリスト教的と決めつけて迫害しようとしている。バンス副大統領のルサンチマンに満ちたミュンヘンでのスピーチもゼレンスキー大統領に対する冷たい対応もその復讐計画の一旦。

ロシアは単にこれを利用してアメリカとヨーロッパを揺さぶっているに過ぎない。

ギャバード国家情報長官の発言もエスカレートしている。ゼレンスキー大統領は自分たちの勝利にこだわるわがままな存在で世界(つまりアメリカ合衆国のこと)を第三次世界大戦や核戦争に巻き込もうとしていると声高に叫んでいる。

“President Zelenskyy has different aims in mind,” she said. “He has said that he wants to end this war, but he will only accept an end apparently that leads to what he views as Ukraine’s victory even if it comes at an incredibly high cost of potentially World War III or even a nuclear war.”

Peace is not Zelenskyy’s priority, Tulsi Gabbard says(Politico)

ギャバード氏はシリアのアサド前大統領やプーチン大統領に共感していると言われるいわくつきの人物で共和党の中からも懸念の声がある。彼女の言動とトランプ大統領の言動がシンクロしているのは偶然ではない。毎日国際情勢を説明するのは彼女の役割なのだからトランプ大統領は彼女が作り出した情報バブルの中にいる。

では単にトランプ大統領とその取り巻きたちが暴走しているだけなのか。

もちろんそうではない。時事通信社が「ドナルド皇帝万歳! トランプ支持者の間で切望される非米国的思想」という記事を出している。AFPの紹介記事だ。

支持者たちはトランプ大統領を救世主のようにあつかっている。ここに我が国の衰退という言葉が多用されている。しかし考えてみればアメリカ合衆国の経済は一人勝ち状態であり経済はむしろ過熱傾向にある。

おそらく彼らは発展する両岸地域(主に民主党の地域)に取り残された人々なのだろう。経済的に劣位に立たされているばかりか「高邁な思想=多様性」を理解できないバカな人々だと軽蔑されてきた。しかし数としては優位だったため多数決では勝利することが出来た。彼らは民主主義における勝利者であってこれまで自分たちを馬鹿にしてきたお高く止まった意識高い系を排除できると考えている。

彼がが現在敵視しているのはアメリカ合衆国憲法だ。3選禁止の規定がある。現実的に考えてアメリカ合衆国憲法の改定はほぼ不可能なので「だったら無効化すればいいじゃないか」という議論が行われているそうだ。

「トランプ氏を一度副大統領候補として選挙戦を行い、そのまま大統領が辞任すればいいのではないか」というアイディアが真顔で話し合われているという。それはプーチン大統領の手口を真似たものである。

トランプ氏は先週、トゥルース・ソーシャルに「国を救う者はいかなる法律にも違反しない」と書いた。

ドナルド皇帝万歳! トランプ支持者の間で切望される非米国的思想

英語ではIf it saves the country, it’s not illegalというそうだが、これは神と民衆から選ばれた愛国者は法律(おそらく憲法も含むのだろう)を超越するという意味になる。

ヨーロッパやその他のアングロ・サクソン国では法治主義・法の支配が採用されている。大陸ヨーロッパは法治主義を採用しイギリスが法の支配の原則を採用している。日本は明治維新以降この2つの流れを部分的に採用し戦後はアメリカ占領軍が主導して作った憲法を受け入れている。

単一行政理論などは西側先進国で受け入れられるはずもない主張なのだが、民衆から選ばれた王が法律を超越し反キリスト教的企みを駆逐し経済発展から取り残された「その他のアメリカ」を再び偉大にするという考えに取り憑かれている人は少なくないのかもしれない。

彼らはローマ帝国やナポレオン帝国のような栄光がその他のアメリカに再びもたらされる日を夢見て熱に浮かされたようにトランプ氏を支えている。

おそらくルビオ国務長官をはじめ、トランプ大統領のロシアへの接近に抵抗したいという人は多いだろう。しかしながら、彼らはむしろ「その他のアメリカ人」から「恨まれ・迫害される対象」となりかねない。

彼らが表立ってヨーロッパとの間の協調姿勢を取れないのはおそらくこうした事情があるからなのではないかと思う。

さらにこうした事情を考えるとヨーロッパに排除されたロシアの被害者意識と両岸の繁栄から取り残されたその他のアメリカ人の間には共通点があることがわかる。つまり新しい同盟は偶然の産物ではないのである。

アメリカ合衆国は何もトランプ大統領の暴走で混乱しているのではない。むしろ西側の規範からの離脱を熱望している人たちも多いのである。

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