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トランプ大統領が「ガザの所有」を宣言

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トランプ大統領が「ガザの所有」を宣言した。国際法違反になる可能性が高くアラブは強硬に反対している。しかしトランプ大統領は反発されればされるほど自説にこだわる傾向がある。

この背後でほくそ笑んでいるのがネタニヤフ首相だ。彼の目が輝いているときはたいてい悪いことを考えている。アメリカの国際的地位は低下するだろうが、ネタニヤフ首相はトランプ大統領を風よけ二利用できる。

ネタニヤフ首相はもっともトランプ大統領とうまく付き合っている首脳と言えるだろう。石破総理もこれを見習うべきとは思うがおそらく彼には出来ない芸当だろう。第一に英語力が追いついていない。

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最初にこのニュースを見た感想は「は?」だった。この勢いで記事を書いても感情的でつまらないものになるだけなのでQuoraに「はあ?ですよね」というコメントを書いて気持ちを落ち着かせつつ一晩寝かせることにした。

非常に面白かったのがトランプ大統領とネタニヤフ首相の会見だった。トランプ大統領は大して面白いことは言っていないが、ネタニヤフ首相の目がキラキラと輝いているのがわかるだろう。ネタニヤフ首相の英語力を見ていただくために原語のYouTube動画を紹介する。原稿を読むだけではなくパフォーマンス(観客に向けた演技)ができる人なのだ。

ネタニヤフ首相は「聖書」を持ち出すことでユダヤ教徒とキリスト教徒の関心が共通であるとの認識を示す。さらに、バイデン時代には遅々として進まなかったディールがトランプ大統領時代になって再び前進を始めイランの核兵器開発の野望は潰えつつあるとしている。

これによりトランプ大統領が自分たちにとっての救世主であるとの印象を植え付けるのに成功した。

さらに、トランプ氏は枠にとらわれない新しいアイディアを生み出す天才と持ち上げたうえで、彼の斬新なアイディアに当惑する人も出てくるかもしれないとしている。

この二段階目が非常に重要だ。

国際世論は「二国共存」が前提になっているがネタニヤフ首相はこれを認めたくない。しかしそれを覆すと国際法違反の批判を受けることになる。この役割をすべてトランプ大統領に押し付けている。しかし表向きは「誰もが思いつかなかったアイディアで世間を驚かせるトランプ氏」と位置づける。気を良くしたトランプ大統領は「国際世論からの反発はこれまでの枠組みにとらわれた人たちの取るに足らない批判だ」と考えるようになるだろう。

洗脳終了である。

トランプ大統領のアイディアは反発されるというより呆れられている。

また、ガザ地区から不発弾を撤去し、がれきを取り除きいったん更地にしてから、「中東のリヴィエラ」として経済的に再開発することで「本当の仕事」ができると述べた。リヴィエラは、フランスからイタリアにまたがる地中海沿岸地域の呼称で、リゾート地として有名。

アメリカがガザ地区を「引き取る」とトランプ氏が発言、ネタニヤフ氏との会談後(BBC)

BBCは「トランプ大統領の構想を実現するためにはガザ地区の住人を強制的に移住させるほかない」としている。これは国際法で禁止されているため国際法違反になる。しかしネタニヤフ首相が耳元で「あまりにも斬新すぎるアイディアで理解できる人がいないのだろう」とささやき続ければトランプ大統領はこのアイディアに執着するようになるだろう。

様々な報道を見ると「ネタニヤフ首相は賛否を明らかにしていない」そうだ。ネタニヤフ首相はとにかくガザ地区を無力化できれば良く国際世論を敵に回そうとは考えていないようだ。

トランプ氏にも独特のバランス感覚がある。イーロン・マスク氏が「影の大統領」と言われるようになると「役割は限定的で自分の決済がなければ独自で判断することはできない」と強調した。また、AIに関する構想にはマスク氏を関与させていない。

今回は一旦ネタニヤフ首相に引っ張られる形で「イランに最大限のプレッシャーを与える」と宣言した。しかしおそらくあとになって別のインプットを得たのだろう。発言を修正している。

トランプ米大統領は5日、イランの「平和的な成長と繁栄」を可能にする新たな核合意に関して直ちに取り組みを開始する用意があると述べた。イランに対する姿勢を軟化させている格好だ。

トランプ氏、イランの「繁栄」認める新たな核合意に意欲-姿勢軟化か(Bloomberg)

アラブは今回の構想に激しく反発している。また中国とは貿易戦争が始まっており米中首脳会談の日程はまだ決まっていない。こうなるとアラブは中国の介入を期待することになるだろう。

ヨーロッパとの間にも関税戦争の可能性がある。デンマークに対してはグリーンランドを譲るように領土的圧力もかかっている。対カナダ関税は30日間の猶予期間に入ったがカナダ人の対米感情も悪化している。

トランプ大統領はトランプ大統領なりに「賢く」立ち回っているつもりになっている。頭の中は忙しく回転しておりそれなりに強い多幸感を得ているはずだ。しかしながらすでに視野狭窄を起こしネタニヤフ首相の手のひらで踊らされている。トランプ大統領は自分が何を犠牲にしているかが見えなくなっていると言って良い。犠牲になっているのはアメリカ合衆国がこれまで培ってきた国際的信用だ。

アメリカ合衆国の国際的地位の低下は日米同盟にとってはかなりの脅威になる。しかしながらテレビのニュースを見てもアメリカの動向についてまとまった報道番組などは作られていない。石破総理がこの問題についてなにかができるわけでもないのだから「日本人は知らないほうが幸せ」のかもしれない。

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