ネタニヤフ首相とトランプ大統領に関するエントリーでは「アメリカの国際的信用が破壊されつつある」と書いた。しかしトランプ政権が破壊しているのは国際的信用だけではない。アメリカの知的資産も破壊活動が進んでいる。連邦から教育省をなくし州に戻す計画が始まっている。
Quoraのコメント欄によると連邦政府の科学関連活動がかなり止まっているそうだ。NASAの予算にも影響が出ているという。すべての国家予算を「国威発揚」のために政治利用するために民主党系の政策を「狂った左翼の狂った政策」として廃止しようとしている。
ただ、あまりにも数が多すぎるために「とりあえず全部止めてしまえ」ということになったようだ。Gizmodeの記事を読むと「レッドパージ(共産主義者狩り)」ならぬ「意識高い系狩り(WOKE Purge)」の様相を呈しているようだ。
この「パージ」の次のターゲットは教育省だ。トランプ政権は連邦教育省は狂った左翼が狂った考え方を押し付けるための装置だとみなしており「州が独自に教育の主体になるべきだ」と考えている。確かに教育を州が担うか連邦が担うかは政治的テーマなのだろが「とりあえず理解できないなら全部止めてしまえ」というのがトランプ流だ。
従来、教育省の解体は議会の支持が得られないと言われることが多い。しかし2年後に改選を控える議員たち(上院にも下院にもいる)はトランプ氏の民意に反発するとトランプ支持者からターゲットにされかねないと怯えている。中には声高に教育省解体を推進する議員もいるため今後の議会動向に注目が集まる。
USAIDはすでに混乱状態にある。世界各国で食料配布も医療支援も止まってしまった。全世界のUSAID職員が休職扱いになりアメリカ合衆国に呼び戻されている。
被援助国は「アメリカ合衆国の支援は当てにならない」と考えるようになり中国にとってはプラスに働くだろう。日米同盟さえ維持できればあとはどうなっても構わないと考える日本人の気が付かないところでアメリカの国際的信用は順調に破壊されつつある。知らぬが仏なのかもしれない。
国連人権理事会から離脱するほかユネスコからの撤退も検討している。
トランプ氏と支持者は「人道支援を通じてアメリカが高い道徳基準を満たし国際的な地位を維持する」という複雑な考え方は理解できない。自分たちが理解できないのだから当然「何か隠れた狙いがあるのだろう」と考える。そこで陰謀論が登場し「国家の私物化を狙う人たちが意識高い系プログラムを使ってアメリカを操っているのだ」と考える。
この考え方は「自分たちの税金は自分たちのために使われるべき」と考えるアメリカ国民に支持される可能性が高いという。こうした考え方に反抗する人はマスク氏によって「反乱分子」とみなされパージされてしまうのだ。
マスク氏の権限を巡ってはかなり悲惨な状況が起きているようだ。倫理委員会の審査を迂回するためにマスク氏が率いるDOGEの権限は(文書上は)かなり制限されている。ところが実際には与えられた以上の権限が付与されているようである。マスク氏がトランプ氏に「お墨付き」が得られれば大統領権限で大抵のことが出来てしまう。財務省は「マスク氏チームの2名を受け入れたのは確かだが閲覧権限しかない」と言っているが民主党は「実態を調査すべきだ」と反発している。
- マスク氏DOGE、米連邦機関介入はどこまで許されるか-QuickTake(Bloomberg)
- 米財務省がマスク氏チームの2人受け入れ、情報アクセス持つ-関係者(Bloomberg)
- マスク氏チームに「閲覧のみ可能」アクセス権-米財務省の決済データ(Bloomberg)
- マスク氏の財務省決済システムへのアクセス、調査を要請 米民主党議員(AFP)
トランプ大統領は国際的「ディール」に強い多幸感を得ており現在は「史上最も愚かな貿易戦争」などと言われる中国との関税戦争に夢中になっている。当然政府内で何が起きているかには大した関心は持っていないだろう。
トランプ大統領は本来ならば情報を精査し「正しい」決断を下す必要がある。特に国際政治においては各国の動向を詳しく知る必要があるだろう。しかしながら陰謀論の世界ではCIAはディープステートの手先ということになっている。この批判を迂回するためにCIAはいち早く早期退職を提案した。トランプ大統領の指令に恭順の意を示すことで批判を避けようとしているのかもしれない。
CIAは「早期退職は限られた人たちが対象である」としてアメリカの諜報網が盤石であると主張しているが、実際のエージェントたちがどんな判断をするかはよくわからない。
すでにFBIが混乱状態に陥っている。議会襲撃事件の捜査に対する報復が始まっており5,000人の身柄が司法省に引き渡されている。一部の職員は「自分たちの粛清とその後の支持者たちによる報復」を恐れているのだろう。アンケートの内容を公開しないように訴訟を起こした。この記事の中でも「パージ」という言葉が使われている。
これを横目で見ているCIAの職員たちが「政府の命令に従って後で身の安全が脅かされては困る」と考えても何ら不思議ではない。
すでにトランプ大統領はネタニヤフ首相に耳元で心地の良いことを言われ「ガザを所有する」と宣言してしまった。おそらくその場では天才的なアイディアだと感じたのだろう。一旦主張するとあとに引けなくなるのがトランプ大統領でありネタニヤフ首相はそのことがよくわかっている。
CIAの弱体化が予想される中「日本の再軍備は危険」と訴えるギャバード元下院議員が国家情報長官に指名されることが確実視されている。
すでに陰謀論に「汚染」された情報を取り入れる可能性があるトランプ大統領は今後ますます偏った情報をもとに意思決定を下すことになるものと考えられる。日米同盟の行方も「その直前にトランプ氏が何を聞いたか」により左右されることになるだろうが、次第にアメリカ依存の国家安全保障政策は行き詰まりを見せることになりそうだ。