フジテレビ港社長の会見が波紋を広げている。フジテレビからはナショナルスポンサーが雪崩を打つように広告を引き揚げている。共同通信社は「フジ、CM差し替え50社超 日産や花王、急拡大」と伝えている。
フジテレビの何がいけなかったのかを知る手がかりがTBSにある。TBSは朝の情報番組で役員待遇の安住紳一郎アナウンサーが「これから話し合いが行われる」と発表。その後中居正広氏の番組の差し止めや社内調査などが行われることが夕方のニュースまでに発表された。
一般企業でいうと各番組は「お店」のようなものである。いわば顧客接点だ。結果的に顧客接点も総動員し総合的な対策を取った企業のほうが今回の事案にうまく対応できている。
フジテレビに関する週刊誌などの報道を総合するとフジテレビの実力者の存在が浮かび上がる。この方は現在相談役をされているようだが「かつての栄光」を取り戻すことをミッションに掲げており当時の牽引役だった港さんを社長に抜擢したのだという。港さんが高齢なのは偶然ではなく「当時の栄光」を知っているスター選手だったからということになる。
会社としてのビジョンが作れず属人的なスキルに依存する中小企業型の企業再生策は昭和には珍しくなかった。だがこの体質はCMからの撤退・差し止めを通じて全社的な経営危機につながっている。
TBSの対応方針はこれとは大きく異なる。現場接点を持つ「役員待遇」のアナウンサーも経営に対して一定の発言権を持っている。メインキャスターは社会的な影響を持つこともできるが。安住さんは属人的なカリスマ性で会社を引っ張るわけではなく「現場を交えた話し合い」によって対応が決まる。ビジョナリー型リーダーが牽引する会社ではなく日本的な合議制の企業だが、今回の危機対策ではこれが一定程度の効果を示した。
結果的に中居正広さんが司会をやっていた長寿番組は即時終了が決まり夕方のニュースまでには社内調査の実施も決まった。このあとNスタでも定型的なメッセージが出されたが、現場アナウンサーたちの指摘も反映されたものになったようだ。
アナウンサーは単にニュースを読むだけだが近年のアナウンサーたちは「キャスター」としての役割も期待されている。つまりニュースの内容を理解したうえで読み個人的な見解も述べることが求められている。TBSは話し合いから発表まで半日を要したが結果的に無理のない見解が述べられるような準備を整えることができた。
一方でフジテレビはパニックに落ちっている。そのパニックぶりがよく分かる表現がある。「声をつまらせながら」とか「涙ながらに」だ。
昨日は真面目な人柄と仕事に対する情熱で知られる酒主アナウンサーの涙がニュースになっていた。
確かにスポンサー離れは深刻なのだが「報道機関」としてのフジテレビも危機に陥っている。風間解説委員は「BBCのジャニーズ問題の総括を行っていた時に執行部はこの問題を把握していたのか」と指摘している。
一部ではフジテレビ報道こそがこの問題を取材すべきだという声もある。
そもそもフジテレビ報道は「テレビカメラの前では話ができない」と嫌がる取材先に「そこをなんとか」とお願いしている立場だ。今回の記者会見は社長と広報部が「問題を沈静化」を図るために狭い範囲で近視眼的に決定したと考えられる。結果的にフジテレビ報道の信頼性が大きく損なわれることになりそうだ。
SNSが発達した現代において企業が「炎上案件」を抱えることは珍しくない。中には理不尽なものもあり単に平謝りすればいいというものでもないのだろう。
問題はその後の対応だった。フジテレビはこの問題を社長周辺で食い止めようとしたがTBSは顧客接点も交えた集まりを持ち企業全体として危機を乗り切ろうとしている。
このアプローチの違いが対応のスピードに現れており、将来の企業価値にも大きな影響を与える。
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