いよいよトランプ大統領がアメリカの47代大統領に就任した。Xのタイムラインには「ほぼ絶叫」に近い反応が溢れており実際に演説の内容を聞いてみる気にはなれなかった。
「素晴らしいアメリカが戻ってくる」という宣言と同時に強制追放に怯える移民たちのニュースが入ってきている。ナチス・ドイツがでてきた当時の高揚感とユダヤ人迫害に似た印象だ。ただし、アメリカ合衆国は世界で一番経済が強い国であり戦後賠償に疲弊していた当時のドイツとは異なる。
経済的には心配されていた関税の発動はなかった。株価の不安材料がなくなったことで日銀の利上げの障害は取り除かれた。一部では強いドルに期待する声があったそうだが貿易戦争がひとまず回避されたことでドルの価格は落ちているという。
トランプ大統領は初日だけは独裁者になると宣言し100の大統領令に署名すると言われていた。ただ過去にはフランクリン・D・ルーズベルト大統領が通算で3721(年平均307)の大統領令を出しているそうだ。近年稀に見る多さだが歴代最多にはならないかもしれない。
時事通信は「領土拡大を目指す」と速報で伝えていた。力による現状変更に反対するというアメリカ合衆国が長年維持してきたドクトリンが破棄された瞬間だった。
最も大きなものは「米墨国境の緊急事態宣言」ということになっている。米墨国境に軍隊を派遣する意向を示している。ただし選挙期間に主張していた大規模な移送(ディポーテーション)は現実には行えないため象徴的な都市を選んで追放を行うのではないかと言われている。ABCニュースはシカゴが選ばれるのではないかとしていたが、APも「シカゴとその他の街」で追放に怯え家族離散を覚悟した移民たちについて伝えている。アンドキュメンテッドと呼ばれていた人たちはイリーガルエイリアンと呼ばれることになり迫害の対象となる。少数者を迫害し多数派を惹きつける手法は多くの独裁政権に好まれている。
- トランプ氏の大規模送還計画、移民にとっての意味合いとは-QuickTake(Bloomberg)
- Immigrants in Chicago and other US cities brace for expected Trump deportation arrests(AP)
国務長官の直属のスタッフの追放など大統領令が乱発されている。ラマスワミ氏は政府効率化省から撤退したがオハイオ州知事選に出る意向だそうだ。結果的にイーロン・マスク省になりそうだ。
インフレ抑制策は物価高対策とエネルギー対策に分解されたが具体策は示さなかった。政府予算が拡大することがわかっておりこれがインフレ要因になる。具体策を示さずに議会と政府高官に対応を丸投げすることで結果責任を取らないつもりなのだろう。
もう一つのニュースは大型関税の導入見送りだ。経済的な混乱がなかったことでアメリカの株価はやや復調している。市場に一定の警戒があったことがわかる。波乱要因がなくなったことで日銀の利上げの阻害要因が取り除かれた。
意外だったのは貿易戦争はアメリカに有利であるという市場の予測だった。関税が導入されないことでドルが下落したそうだ。
市場では、貿易戦争となればドルにとってプラスとの見方が出ていた。米国よりも他国の経済に打撃を与える可能性が高く、外国製品に対する米国の需要を下押しし、資金の逃避先としてドルの妙味が高まるとの見立てからだ。米国株式先物も値上がりした。
トランプ氏、初日の対中関税発動を見送りへ-対話に軸足転換か(Bloomberg)
バイデン政権が推進していた多様性に対する取り組みは軒並み潰されそうだ。またパリ協定からの離脱も宣言された。気象変動など「左翼のでっち上げ」という認識なのだろう。
我々の知っているアメリカ合衆国が音を立てて崩れているがトランプ支持者たちは「勝利の多幸感」に酔いしれている。領土拡張主義・傷ついた大衆と演説上手のリーダーがもたらす多幸感・少数の迫害という組わせはまるで世界史の授業で習った第二次世界大戦直前の状況に非常によく似ている。
だが冷静になって考えてみると現在のアメリカ合衆国は世界で最も経済的に豊かな国である。一体彼らが何に負けて何を取り戻そうとしているのかがさっぱりわからない。
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