フジテレビの港浩一社長が会見を行った。しかし会見の内容がほとんどなかったために返って炎上状態になっている。
社長が調査委員会の設置を通じて問題を事実上認めてしまった上に何も説明しなかったことでスポンサーの離反が始まった。一流企業の名前が報道され始めているため「なぜあなたの会社はスポンサーを続けるのか」と社会的に非難される会社も出てくるかもしれない。
この一連の騒動で非常に興味深いと感じたことがある。記事の中で「総合的に判断して」という説明が乱発されている。日本人が問題を情緒的に判断し問題解決に興味がないことがわかる。にも関わらずSNSで「お気持ち」を表明したい人は多いため、全体としては蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている。
フジテレビの社長会見はリスクマネジメント上では最悪だった。当初全否定していたのに途中で認めてしまった。しかも具体的なアクションプランを示していないため「問題解決の意思がない」とみなされてしまっている。スポンサーが離反しても当然だ。
Quoraでもこの問題について書いたのだが「会見をやってもやらなくても結果は同じ」という冷めたコメントがついた。これはリーダーシップマネージメント概論で教材になりそうなコメントである。
リーダーシップ・マネジメントではマネージャーとリーダーを分けて考える。マネージャーはプロセスを管理する人だが、リーダーは「違いをつくる(make a difference)人」と定義されるまずビジョンを示しそのビジョンを実現するためにアクションプランを提示できる人がリーダーである。
もちろんマネージャーとリーダーのどちらが偉いということはなく「場合によって2つの帽子を使い分ける」ことが現代のマネージャーには求められるとされている。単にビジョンを示すだけで行動が管理出来なければ組織は潰れてしまうだろうし、昨日と同じことをやり続けているだけでは変化に対応できなくなる。
コメントは「怒られる」と受身形で書いている。だがリーダーは「この状況を脱却するために何をすべきなのか」を能動形で提示できなければならない。日本ではリーダーシップが重んじられず「マネージャー」が評価されやすい環境にあるといえるのかもしれない。また、そもそも「責任を取らず問題を避け続けてきた人」だけが出世できる環境がある可能性もある。自民党とフジテレビの分析では、強く「責任回避型の人が出世できる組織」の問題を感じた。
しかしながら時事通信の総括を見て「日本で行動提案型のリーダーが生まれない別の理由」を感じた。企業統治に詳しい教授という人が次のように書いている。
記者会見に出席できたのは、新聞社や通信社などでつくる「ラジオ・テレビ記者会」の加盟社限定だった。これについて八田氏は「事の重大さや世の中からどう見られているかの感度が鈍い」と述べた。
フジ対応「隠蔽体質抜けず」 中居さんトラブルで有識者(時事通信)
「ああそうなんだろうな」と考える人が多いのではないか。
この教授は極めて曖昧な「世の中」というものを前提に置いており、それを感性で読み取るべきだと言っている。企業が主体的にコントロールできるのは社会的なミッションとステークスホルダーとの関係だけである。「世の中」といっても「この程度の問題で騒ぎすぎる」と考える人も入れば「フジテレビは社会的に制裁されるべき」と考える人もいて「ひとそれぞれ」である。
教授はそれを「感性」で読み解いて「適切な反応をすべき」と言っている。世間に迎合しているだけでは優秀な人から潰されてしまうだろう。優秀なビジョナリストであればあるほど世間の常識からは乖離しているからだ。注目されていないベンチャーが結果的に生き残ることはあるだろうが、大きな組織は常に注目されている。
そもそも実際に中居正広氏とX子さんの間に何が起きたのかすらわかっていない。報道では「トラブル」と表現されているが実際には性加害だった可能性が高いので「人権問題」としてざっくりと語られている。
結果的になんだかよくわからない「人権問題」でなんとなく「みんな」が騒いでいる状態になっている。
フジテレビはおそらくなんだかよくわからないうちに騒ぎが大きくなったと考えており、なんだかよくわからないがとにかく謝っておいたほうが良さそうだと考えた。結果的に様々な考えを忙しくぐるぐると巡らせた結果「とにかく会見を開く」ということになった。だが大勢の記者が集まってしまうとなんとなく大騒ぎになりそうなので記者会主催にした。
当事者が状況を言語化できてないのだからまともに説明できるはずもない。このときに使われるのが「総合的な判断」だ。
広報は「色々と会見の方策を考えたんですけど、総合的に判断して、記者会主催の定例の社長会見ということでやらせていただきました。もちろん皆さんから色々な意見を伺っていますので、今後のあり方については色々と考えていきたいと思います」と述べた。
フジ社長会見 記者会加盟社限定の理由を説明「総合的に判断」 中居女性トラブル受け(スポニチ)
よくクレームを受ける人が「何が悪いか言ってみろ!」と詰め寄られて更に日に油を注いでしまうことがある。フジテレビはまさにその状態に陥っている。
コンプライアンス流行りなので企業も人権ガイドラインを持っているが「みんながやっているからウチも」程度の認識しかないところが多いのではないか。このため企業も実は「総合的な判断」という曖昧な説明を繰り返している。
こうした中、明治安田生命は当面、フジテレビで放映している自社のコマーシャルを差し止めると発表しました。理由について会社は「フジテレビをめぐる一連の報道内容などを総合的に勘案した」としています。
フジテレビでのCM放映 見合わせ相次ぐ トヨタや日本生命など(NHK)
この総合的な判断という言葉はジャニーズ問題の対応においても多用されていた。結局テレビ局は学びを得ることはなく同じ問題を繰り返し続けている。反省がないから同じことを繰り返すためいつまで経っても批判され続ける。
こうした総合的な判断という言葉が大好きな集団が他にもある。自民党+総合的判断で検索すると様々な記事が出てくる。支持率が低い状態が定着しているのは自民党が総括も反省もできないがゆえに変われなくなった結果なのだろう。
岸田総理は統一教会問題で更迭されていた山際氏を党の役職に復帰させるときに使っている。
岸田文雄首相は4日の衆院厚生労働委員会で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が次々と明らかになり、事実上更迭されたとされる山際大志郎前経済再生相が、自民党の新型コロナウイルス対策本部長に就任した理由について、総合的な判断と説明した。中島克仁委員(立憲民主)への答弁。
山際氏の自民党コロナ本部長就任、「総合的に判断」=岸田首相(REUTERS)
自民党の曖昧な政治とカネの問題について説明を受けた公明党の山口那津男代表(当時)のコメント。
公明党の山口代表は記者会見で「自民党が関係者の責任の所在や軽重を総合的に判断して処分を決めるということなので、その理由や内容を見届けないと評価しにくい。国民からどう評価されるかもよく見ていく必要があり、処分を見守りたい」と述べました。
自民 党紀委員会 “あさって処分の審査” 議員ら39人に通知(NHK)
ミッションを忘れた組織は問題をごまかすために「総合的な判断」を多用する。そして誤魔化しているうちに問題を認識する能力を喪失しいつまでも叩かれ続ける。そしてそれに対応する人たちも一体何を話し合っているかがわからなくなってしまうために「総合的な判断」で見守ったり距離を置いたりする。
こうして全体的に一体何を話し合っているのかわからなくなり、なんの学びもないままに騒ぎだけが広がるというのが今の日本の現状になっているようだ。日本社会全体が総合的判断シンドロームにかかっている。
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