イスラエルの内閣がガザ和平案を承認し当初の目標通りに19日までに停戦が実施されることになった。日本の報道のヘッドラインだけを見ると「一件落着」のように思えるのだがどうやらそうではなかったようだ。
この議論はきわめて「面白い」。掘り下げてみると「民主主義は戦争をもたらす」という結論が得られるからだ。だが、起きていることは重大で多くの人命が失われておりガザの人々の未来は閉ざされたままである。
今後42日間の停戦が行われ人質の一部が解放される。その後に戦争が再開されるかはイスラエルの内政次第といった流動的な状況だ。
バイデン大統領のさよなら演説に合わせて発表されたガザ和平案は土壇場でイスラエルの妨害にあった。しかし徐々に「トランプ次期大統領の強い働きかけ」があったということがわかってきている。
結果的にネタニヤフ首相は予定通りに安全保障関係閣僚の承認を取り付けた。内閣承認は遅れるかもしれないといわれていたが、これも「特急審査」となり24対8で承認が決まったという。
我々は結論だけをヘッドラインで見ているので「何だ結局プロレスだったのか」などと感じてしまう。だが、実際にモニターしていたメディアは「6時間経っても結論が出ないぞ」とかなりやきもきしていたようだった。APとAXIOSの報道を総合すると。最後まで極右閣僚たちは猛反対していたそうである。
AXIOSによると、スモトリッチ財務大臣は「42日後に戦争が再開されると確約をもらった」と主張しており、ベン・グビル国家安全保障大臣は「イスラエルが戦争に復帰すれば連立内閣に復帰する」と表明する。
独裁者のように見えるネタニヤフ首相だが実は国内の複雑なバランスの上に立っていることがわかる。今後、ネタニヤフ首相に協力してもいいという野党が出てくれば極右閣僚は用済みになるかもしれないが、出てこなければ様々な理由をつけて戦争に復帰する可能性がある。
ところが今度は「自分の再選が平和の実現に寄与した」と主張するトランプ次期大統領とぶつかることになる。トランプ次期大統領がどのような働きかけをしたのかはわかっていないのだが、武力行使もいとわず何をしでかすかわからないという大統領だからこそイスラエルに強力に働きかけることができたのだとも言える。皮肉なことにトランプ氏が帝国主義的な野心をむき出しにしたことで平和が実現したことになる。
アメリカ合衆国は「民主主義の理念を世界に広げるミッション」を与えられ神に祝福された国であるという自己認識を持っている。しかし、実際には暴力装置であるという理由でアメリカを尊敬しているという国もあるということだ。
アメリカが帝国主義的な野心を前に押し出すと「話し合いによって問題を解決したい」と考える成熟した西側諸国とぶつかる可能性がある。例えばカナダでは「トランプ次期大統領がカナダを51番目の州にするのではないか」という問題が語られている。多くは「めくらまし=陽動作戦」と見ているようだが4年間継続的に一つのメッセージが送られればカナダ人のアメリカ合衆国に対する視線は冷ややかになってゆくだろう。
イスラエルは民主主義国家であるからこそ国内の極右に引きずられて戦争がやめられなくなった。アメリカ合衆国もユダヤマネーを自分たちの陣営に惹き付けておく必要があり本来は関わる必要がなかった戦争に「準当事国」として引き込まれている。これもアメリカ合衆国が「民主主義国家である」からこそ起きていることである。
第二次世界大戦の惨禍を経験した日本人は「民主主義こそが平和をもたらす」と考える。少なくとも学校ではそう教わるのだが、実際にはそうはなっていない。民主主義の結果として戦争が起きており「帝国主義的な野心」がそれを押さえているという皮肉な状態だ。
我々が歴史的に極めて特異で例外的な状態に置かれているからこそそうなっているのか、あるいは人類というのはそういうものなのかはわからない。
BBCは「この停戦が長続きするか」には疑問を持っているようだが、少なくもと42日間の停戦が行われることは確実だと見ているようだ。ここで改めて戦争被害についてまとめているが、おそらく政治的な駆け引きがなければ犠牲になる必要がなかった人たちが多く含まれている。
1年3ヶ月の間に4万6000人以上のパレスチナ人が殺害されたとしているが、彼らは単なる統計上の数字ではない。それぞれに名前がある。
「彼らすべてに人生があった」といいたいところだが、生まれたばかりの状態で病院が襲われ亡くなってしまった乳児もいるとも聞いている。おそらく妊婦も殺されていることを考えると名前がつけられカウントされる前に亡くなった命もあるのだろう。いたたまれないことである。
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