異様な報道だった。各ワイドショーが冒頭で「中居正広氏から声明が出されました」と告知を行っていた。何か深堀りするのだろうかと思ってみていたのだが、結局この件については触れず大雪に見舞われる北海道・東北・北陸地方について扱っていた。そこにはジャニーズ問題の反省もなければ「報道が一方的だ」と批判された斎藤元彦問題に対する学びもない。
ただ「マスコミはこの問題に触れていない」ともいわれたくないのだろう。そこで冒頭で声明を紹介し「中居さんはこの問題をきちんと説明すべきですね」等とコメンテータに言わせていた。総理大臣が「政治家一人ひとりが説明責任を果たすべき」として逃げてしまうのと同じ体質がある。
ただこの問題を有耶無耶にしてはならないと考える女性アナウンサーも一定数いるようだ。
第一に「マスコミは自己反省などできないだろう」というのはニュースでもなんでもない。これまでもBBCなどの海外メディアからの圧力がなければ問題を反省してこなかった。この体質は今後も変わらないだろう。
今回の問題の背景には「独自性を出せない横並びのテレビ局」という問題がある。政治の議論で「日本では政策ベースの政党が誕生しなかった」と書いた。日本の外交政策はアメリカ合衆国が決めており、またシンクタンク機能も大蔵省(今の財務省)が持っているからだと説明した。
この他に「同調性が高い日本人」という問題がある。現在では高齢者と現役世代の間に意識の違いが生まれているがこれまで多くの日本人は同じような政策(現状維持と分配)を望んできた。このためどの政党も政策が似たようなものになりがちだったのだ。
テレビ局も同じような問題を抱えている。「均質な視聴者が似たような番組を求める」上に結局どこも同じ広告代理店・タレントエージェンシーに依存している。このため「数字を取れるタレント」の影響力が強まる。視聴率を獲得するためには数字が取れるタレントと個人的な人脈を持っている人が有利になるのだから「上納型」の利益供与があったとしても不思議ではない。
つまりフジテレビ以外の局もおそらく同じような問題を抱えており場合によっては経営陣が把握していない未知の問題が掘り起こされる可能性もある。ワイドショーがこの「地雷原」を掘り起こせないのも当たり前なのだ。
もう一つの問題が被害者女性の今後の仕事である。今回の被害者女性のX子さんが「表に出る仕事」をしている人だったのかがわかっていない。
偶然にも渡邊渚アナウンサーが雑誌「anan」のインタビューに応えることが決まっている。
彼女は何らかの事情でPTSDを患ったとされている。常識的に考えてアナウンサーの仕事が軍人(PTSDにかかることが多いが多いとされている)のような危険性を伴うことはないわけだから「おそらく人生が変わってしまうなにかがあったのだろうなあ」と言う気がする。フジテレビは背景に何があったのかを詳らかにしていないため、中居さんの問題と同一かは不明だ。
時系列から見て「関連があるのではないか」とする記事も出回っているが、仮に「同一でなかった」場合、仕事を再開させたい渡邊渚さんにとって「中居さんと関係があったのでは?」と見られることは今後の仕事に大きな支障をきたすだろう。
この被害者女性X子さんが仮に「渡邊渚さんと同じ表に出る」立場の仕事の人だった(渡邊渚さんであるという可能性は排除しない)場合、同業の女性アナウンサーたちは大きな問題に直面するだろう。
中居正広氏問題では「中居さんとのパイプを根拠に出世したい」プロデューサ氏が「女性を差し出した」と語られている。周囲にいた人たち(スタッフか共演者か)はわかっていないは「偶然にも」食事会をドタキャンする。つまりこの人は共演者やスタッフに裏切られた事になってしまう。また、経営への影響を憂慮する会社幹部や報告を受けたとされる女性管理職(この人も一部で名前が出ている)はこの問題を黙殺した。
- あなただけが黙っていれば丸く収まるのだ
周囲に対する不信感が心の傷になったとしても何ら不思議はないが、それでも「今後もこの世界で生きてゆく」ためには問題を表沙汰にしたくない。ネットでは単なる噂ということになっているが、おそらく狭い在京局のコミュニティではある程度の事情はわかっているはずだ。
TBSの日比アナウンサーのようにキャスターとしてのキャリアが確立してる人は「ノー」を言えるかもしれないが、チャンスを渇望している若手女性アナウンサーたちの立場や契約は様々だろう。
日比アナウンサーが後輩のことを考えたとき「当事者になる女性が活躍できる機会」を奪わずになおかつ彼女たちが置かれている職場環境の前近代性をどう払拭できるのかは非常に悩ましい問題と言える。
日比さんのいう「私達」が実際にこの問題をどう取り扱うのか、私達とは厳密に誰なのかはわからない。しかし「あえて立場を表明して見せる」ことで経営陣に一定のメセージを送っているのかもしれないと感じる。テレビ局の自浄作用に期待したい。