8,600人と考え議論する、変化する国際情勢と日本の行方

iPhoneの中でSiriがこっそりあなたを盗み聞き

Xで投稿をシェア

今週のアメリカの株価は一貫して不機嫌な状態だったが金曜日のアメリカの株価はハイテク株を中心に若干反発した。USスチール株はバイデン大統領の決定に失望し売られている。

ハイテク株が持ち直すなかでもApple社の株価は冴えなかった。これまでは全体の株価が沈むとApple株への逃避が起こりむしろApple株だけ上がるという傾向もあったので「何があったのだろうか」と不思議だったのだがSiriに対する集団訴訟が行われておりApple社が和解提案をまとめたことがわかったそうだ。

製造業だけでなくハイテク製造業までもある種の限界に到達していることがわかる象徴的な和解だったと言えるかもしれない。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






2024年末はトランプトレードに期待が集まり株価は上昇傾向だったが、トランプ政権の政策が伝わるようになると金利が上昇を始める。金利上昇・インフレの予想が強まると割高とされるアメリカの株価にもネガティブな影響が出た。だが締めの金曜日には売られすぎた株価を買い戻す動きもあり若干の反発になった。

USスチールはその例外だった。バイデン大統領が最終的に買収提案に反対を表明した。Quoraで「日本が蔑視されている」と説明したところ反発する書き込みがいくつか見られた。極めて政治的な(思惑含みの)決定だというのだ。

バイデン氏の決定は、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長にとって大きな勝利だ。マッコール氏は計画発表当初から一貫して批判的で、この騒動の初期段階でバイデン氏からの支持を獲得することに成功した。買収を支持していた組合員の多くが、マッコール氏ら労組執行部による計画反対姿勢をどう受け止めるかは問題として残る。

バイデン米大統領のUSスチール買収阻止、新たな疑問が多数浮上(Bloomberg)

コメントの指摘は2点ある。1つは労働組合が反対しているというより労働組合幹部が反対しているというもの。もう一つはマッコール会長が日本製鉄のライバルだったアメリカの競合他社に肩入れしているというものだ。USスチールと日本製鉄が合併すると競合社には不利になる。逆に買収提案が破綻すればUSスチールが自滅するかもっと安値で買い叩けるチャンスがでてくる。

競合のクリーブランド・クリフスはネガティブキャンペーンを繰り広げておりUSスチールが非難する騒ぎも起きていた。

労働組合員・非組合員と労働組合幹部・民主党の間には分断がある。過去にもトラックドライバーの組合はバイデン・ハリスを支持していたがドライバー(組合員も非組合員も)トランプ支持者が多かったなどと聞いたことがある。こうした分断は今回トランプ氏の大統領再選に寄与しているといえる。

いずれにせよ今回の買収提案拒否は労働組合の勝利ではあるが割高な鉄製品を買わされることになるアメリカ市民や雇用を失いかねない労働者にとっては敗北なのかもしれない。

アメリカの政治闘争に巻き込まれた代償は大きかった。日本製鉄が買収を諦めてしまうと違約金を支払う義務が発生するそうだ。大統領の決定は免責理由にはならないという。

買収が実現しない場合、日本製鉄はUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払うことが合意に含まれていた。政府によって取引が阻止されたにもかかわらず、支払いは依然として必要。

バイデン米大統領のUSスチール買収阻止、新たな疑問が多数浮上(Bloomberg)

ドイツのフォルクスワーゲンの事例や、経産省が主導するホンダ・日産の合併計画などを引き合いに出し「製造業依存は危険だ」「先進国の製造業は転換点にある」とまとめたくなる。

そんななか、Siriが顧客の声を盗み聞きしていたという疑惑が浮上している。先日のABCニュースの紹介で引用したREUTERSの記事を再引用する。会話の内容を反映した広告が表示されユーザーがぎょっとしたという内容。最初の違和感はふとしたものだったようだがここからよく集団訴訟に持ち込んだなと感心させられる。一人ひとりの違和感は小さなものだったかもしれないが訴えをまとめたことでAppleに主張を認めさせたことになる。

Two plaintiffs said their mentions of Air Jordan sneakers and Olive Garden restaurants triggered ads for those products. Another said he got ads for a brand name surgical treatment after discussing it, he thought privately, with his doctor.

Apple to pay $95 million to settle Siri privacy lawsuit(REUTERS)

REUTERSの記事では「Apple社は否定した」と書かれていたが読売新聞の記事では「精度向上のために利用した」と認めているそうだ。ただ広告会社に情報が渡っていたとすると全く別の話になる。Apple社も裁判を通じて情報がどこに漏れていたのかが白日のもとにさらされるくらいなら多額の和解金を支払ってでも事を終わらせたかったのかもしれない。なおアメリカのユーザーは20ドルを受け取る権利があると書かれており、日本のユーザーは対象外とわかる。

2024年12月31日付でカリフォルニア州の連邦地裁に提出された書面によると、14年9月~24年12月にシリに対応した「iPhone(アイフォーン)」などの端末を所有・購入した米国在住の利用者が和解の対象。同地裁が和解案を承認すれば端末1台当たり最大20ドル(約3100円)の和解金を受け取れる。

アップルがSiri利用者の会話を無断録音…集団訴訟で和解金150億円の支払い合意(読売新聞)

音声解析に置いてSiriの性能はAlexaやOK Googleよりも劣っていると感じる人は多いだろう。精度を向上させるためにはできるだけ多くのサンプルを集めなければならない。この訴訟は2019年頃から提起されていたようだが2024年には生成AIブームが起き「サンプル集め」需要はますます高まっている。

GAFAはおそらく様々な情報を貪欲に欲している。つまりApple以外にも「会話やメールのテキストを盗み見ている」会社がないとも言い切れない。AIブームの限界はサンプル数の限界だ。

今回の騒ぎをきっかけにプライバシーに敏感な若者がApple離れを加速させたとしても何ら不思議ではない。裁判にならないということは「グレーな疑い」がそのまま残るということを意味している。

ただしプライバシー侵害になりかねないデータ集収を行っている会社は何もAppleだけではない。ラスベガスの事件においてテスラ社は捜査当局に大量のデータを提供している。これを通してテスラ社が実に多くのユーザー情報を把握し第三者に提供できる形で保持しているということがわかった。

脱製造業を目指すアメリカのハイテク産業が厳しい競争を勝ち抜くためにはできるだけ多くのユーザーデータを収集・機械処理し「情報化」する必要がある。今回のAppleの事例はこの競争が過激化しているということを示唆している。

政治的にも不安定な状況が生まれつつある。

新しい改選議員が集まった下院で議長選挙が行われた。共和党では7名が棄権・3名が造反していたが、何らかの取引が行われた結果トランプ次期大統領も介入し2名が造反を取り下げた。結果的にジョンソン議長の続投が決まったが、おそらくジョンソン氏に政治的自由度はない。ただし解任動議発議には9名が必要ということになったようだ。

時事通信は下院の一部メンバーの矛盾した要求を書いている。

ただ、共和党下院の保守強硬派の中心メンバーらは声明で、ジョンソン氏の手腕を疑問視しつつも「トランプ氏への確固たる支持のため賛成した」と強調。ジョンソン氏に対し、歳出削減で合意しないまま、連邦政府の借り入れを増やさないといった要求を突き付けた。

米下院共和党、債務巡り火種 強硬派、議長に歳出削減要求(時事通信)

要するに自分たちのお気に入りのプログラムを残したままで借金も増やすなと言っている。これを実現するためには有権者たちの益にはなっているが議員たちの利権にならないプログラムを廃止するしかないということになる。

アメリカの製造業・IT製造業が曲がり角を迎えるなか政治的にも矛盾した要求が突きつけられておりジョンソン議長は「これをなんとかしろ」と迫られている。トランプ次期大統領も騒ぎを拡大するばかりで全体をまとめようとする兆候はない。

こうした混乱が続けば状況打開のために日本にも過剰な要求が突きつけられることになるだろう。今回のUSスチールの件だけを見ても「そんな無茶苦茶な」と言う気がするがトランプ政権ではもっと過激な要求が突きつけられるようになるのかもしれない。日本は高い経常利益を誇る国だが、その源泉は海外への投資である。アメリカにある日本の投資資産に被害が及べばおそらく日本企業も大きな影響を受けることになるだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで