安倍首相とプーチン大統領の共同会見を見ていて違和感を感じたことがあった。最初の違和感はロシアの最初の質問者がシリア情勢について聞いたこと。これはロシアは日本にはたいして興味がないということを示しているのだろうと思った。と、同時にロシア人が持っている大国意識を感じた。シリアはロシアの利権地域であり、それを守ることはロシア人にとってかなり重要だったのだろう。同じことはクリミア半島やウクライナにも言える。この地域にヨーロッパが進出することが許せないのだろうことが想像出来る。
次に面白かったのはプーチン大統領に対する最後の質問だ。通訳者がまずいためなのか、早口で何を言っているのかわからなかった。後で探してみたのだが、声明は見つかっただけでこの質問に対する答えを探すことはできなかった。うっすらとした記憶なのだが、沖縄を返還しないよという恫喝があったということを指摘していた。
調べてみると「ダレスの恫喝」という出来事があったそうだ。日本が南クリルのソ連への帰属を認めてしまうなら、沖縄をそのままアメリカが占領することも正当化されるだろうという主張のことだそうだ。ダレスの意図がはっきりしなかったので、様々な憶測を呼んでいる。曰く、アメリカは二頭返還論を認めなかったので日本の選択が狭まったとか、逆にそんなのはデマだという議論があるそうだ。
いずれにせよ、アメリカは南西諸島の主権を認めた上で基地利権を獲得したことになる。利権を確保しただけでなく基地の維持費用を日本に出させている。さらにアメリカは同盟関係まで結ばせて日本を経済圏として確保している。一方、日本利権に出遅れたソ連とその後継国であるロシアは「日本利権から締め出されている」ことになる。
これをイーブンにするためには、南西諸島からアメリカが出て行かなければならない。つまり、利権をさらに戻せば、交渉してやっても良いということになるだろう。日本は絶対に飲めない条件なのだが、それでも構わない。日本は北方領土に固執しているからいくらでも利益を提供してくれるからである。日本はATMのように機能するのだ。
日本人はなぜプーチン大統領の指摘を無視したのか。これについて考えてしまうと、日本が敗戦国でありアメリカに利権を提供しているという苦い事実に直面せざるをえなくなってしまうからだろう。代わりに日本は自発的に協力して力強いパートナーとして機能していると思い込みたいのだ。
大国が存続するためには各地に利権を持っていなければならないというのもある意味は物語だし、敵国からパートナーに昇格したというのも物語だ。どちらの世界に生きるのかは受け手次第なのだが、日本も利権を確保するために海外に軍隊を送る国になってしまったのだから、意識を変える必要があるのではないだろうか。それは「取るか取られるか」という世界への入り口でもあるのだが。