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アメリカ・トランプ次期政権の「意識高い系追放運動」は日本にどのような影響を与えるか

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次期トランプ政権の人事の概要が出てきた。これを概観する中で一つの傾向が見えてきた。反意識高い系・反知性がイデオロギー化しているようだ。

Bloombergが次のように書いている。閣僚指名にあたっては「反ウォーク」が極めて重要なのだ。では反ウォークとはなんだろう?

しかし実際には、次期政権が直面する最も緊急の政策課題への一体的アプローチというよりも忠誠心、「反ウォーク(社会的問題意識)」の感性、テレビで役割を演じる能力をトランプ氏が重視している様子がうかがえる。

トランプ氏、ルビオ氏ら外交防衛の骨格固まる-忠誠心や見た目重視か(Bloomberg)
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人間には「食べたい」とか「セックスしたい」とか様々な欲求がある。だが、眼の前にいる人に襲いかかり押し倒したらどうなるだろうかということも考える。つまり理性で欲求を抑えている。

アメリカ合衆国は不思議な国である。

稼ぎがあればそれを消費する。また家や株などの資産価値が上がるとクレジットスコアが上がりその分もまた消費してしまう。つまり「欲求に極めて忠実」な人たちが多く住んでいる。

「欲求」はイノベーションも生み出す。誰かが「車が勝手に運転してくれればラクできるだろうなあ」と考える。すると日本人はまず「安全性はどうか」などさまざまなやらない理由を考える。一方のアメリカ人はまず「Why Not」と言う。思いついたらやってみればいいじゃないと考えるのだ。

この2つの理由からアメリカの経済は極めて好調だ。欲望は経済を発展させる。

しかしながらこの欲求に極めて忠実な姿勢は近年様々な抑圧にさらされていた。まずコロナ禍があり社会活動が制限された。新型コロナウィルスのために「欲求」が制限された。次にインフレが起きて買いたいものが買えなくなった。

バイデン政権はコロナ対策を通じてアメリカ人の抑圧者とみなされた。それなりのインフレ対応は行ったが現実的に暮らしは悪化していった。ところが民主党は「アメリカ人の理性」に働きかけた。バイデン大統領と民主党の人たちは「我慢することが長期的な利益につながる」というが一体いつまで我慢すればいいのだ?というわけだ。ハリス氏はここに「一軍女子の女子会」的な雰囲気を持ち込み欲望を抑え込まれているアメリカ人の反感を買った。

トランプ氏のメッセージは一貫していた。「みんなやりたいことをやればいい」「我慢してもいいことはない」とアメリカの一般市民に呼びかけ続けていた。そして小声で「私もやりたいことをやらせてもらう」と言っている。

恐怖に怯えるなら銃を持って敵を撃ち殺せばいいし、移民が怖いなら聖書に基づく再教育をすればいい。また女性の社会進出が憎いのなら女性の産まない権利を縛り付けて家庭に閉じ込めておけばいい。

つまり「欲求の理性による抑制」を「抑圧」と言い換えた。

ただこれだけでは理論は完成しない。そもそも理性主義者は「中長期的な利益があるから理性的な行いが欲望に優先すべきだ」と考えているだけで誰かを支配したいわけではない。これを「我々アメリカ人の敵が支配を目論んで抑圧している」と言い換えたのが陰謀論だ。陰謀論はアメリカ人の中に潜んでいる被害者意識に具体的な形を与えるための装置だ。

トランプ氏は自身も性的スキャンダルを抱えていてニューヨーク州では有罪評決も受けている。このため司法当局を「理性的な抑圧者」と考える傾向がある。ゲイツ氏もセックス・スキャンダルを抱えており2021年には2019年から離婚協議を行っていたと伝わる。またヘグセス氏も過去に性的暴行容疑があったが事件化しなかった等と言われているそうだ。

だがこれも「アメリカ人は欲望に忠実であればあるほどよい」という新しいイデオロギーのもとでは是認されることになるだろう。据え膳食わぬは男の恥というわけだ。

当ブログでは「反知性主義」という用語を使ってきたが、この用語はIQ差別ではないかという批判を受けることがある。果たしてそうだろうか。

例えば事実上不倫を認めた玉木雄一郎氏などは東京大学を卒業している。地元を守る奥さんも玉木氏の不倫相手のことを知っていたとされる。しかも奥さんの目を盗んで東京で羽根を伸ばしていたわけではなく地元でも堂々と密会をしていたようだ。倫理よりも欲求を優先させる人でなければこんな事はできないが理性より欲望を優先させるべきだという反知性的な考え方は高いIQを持っている人にも起こり得る。

このように反知性・反WOKEの実情は「欲望優先主義」となりIQは関係がない。これが他人の感情や利益などは無視して強い人がやりたいように振る舞うという一種のイデオロギーに昇華しつつあるのがトランプ政権だ。

ここから日本には2つの影響があることがわかる。

戦後GHQに支配された日本人は「強者が持ち込んだイデオロギーを採用した」ことで経済的に繁栄したという認識を持っている。つまり民主主義を「強さ」で理解している。このためアメリカの価値観が「欲望優先主義」に変わると影響を受ける日本人が多数出てくることになるだろうと予想される。他人の権利を顧みずに「やりたいようにやるべき」と考える人達が増えてゆくだろう。つまり日本も反人権化する。

また日米同盟に依存する人たちはアメリカ合衆国が欲望優先主義を掲げている以上日本もそのように振る舞うべきだと考えるようになるはずだ。現在「日米同盟の長期的効用」を解き「日米同盟は長い目で見ればアメリカの役に立っている」ということを訴えるべきと考える人がいる。この考えは無惨に打ち砕かれることになる。

あなたのためを思って言っているのですよ

というメッセージを欲望優先主義者は嫌う。自分たちの欲しいものは自分たちで手に入れるという流儀だ。

ではこれをハックするためにはどのような手段を用いるべきか。欲望優先主義者は長期的な視野を持たず「眼の前にある損得」を短期的に判断したうえでやりたいようにやる傾向がある。一貫した視点は持たないので様々な情報が入ってきても常に上書きされる。

第一期トランプ政権のブリーフィングでは飽きやすいトランプ氏に合わせて実質的なことはほとんど何も話し合われていなかったと言われている。

Xではフォーリン・ポリシーの記事を紹介したある人は「最後のブリーファー(説明者)が最も大切」と書いていると紹介していた。興味がない話題は聞き流しており常に最新の情報に上書きされているということになる。

こういう人を理解するのは難しくないだろう。我々の周囲にもたくさんいる。

1日中スマホでXを眺めており「印象に残った記事」を薄らぼんやりと覚えているだけという人は多い。つまり、仮に日本が日米同盟に依存し続けたいならば「X中毒になっている人たちに接するように日米外交を展開すべきだ」ということになる。

スーザン・ワイルズ首席補佐官は「誰がトランプ氏に会うか」をコントロールする権限を要求したと言われている。トランプ氏に最後に意見を吹き込む人を制限したいのかもしれない。

いずれにせよ中長期的なことをあれこれ懸念してちょっとした変化にもためらいを感じる日本人にとっては最も好ましくない人がアメリカの大統領になったということになる。

当然トランプ次期大統領の日本に対する要求は一貫性を欠くものになるだろうから、それを日本国民と少数与党化した議会で「説明する」ことはますます難しくなるはずだ。

外交と安全保障に関する内容はことの性質上お話できません」という国会答弁はますます増えてゆくのかも知れないがアメリカで起きていることはほぼタイムラグなしに日本にも入ってくる。

そのうちに政府は何も把握できていないことは公然の秘密になるだろう。

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