斎藤元彦兵庫県知事が2回目の当選を果たした。今回の選挙で目立ったのはマスコミに対する敵意だった。出口調査の結果を見ると60代以下で斎藤元彦氏に対する支援が広がっており決して若者だけの流行ではないということがわかる。また斎藤氏は京阪神地域だけでなく山陰地域にも支持を広げており現在の県政に対する不満はかなり広く広がっているということがわかる。また普段は選挙に行かない人が選挙に行った結果投票率が14ポイントほど高かったことがわかっている。
まず個人的な予想を述べておく。斎藤氏が躍進するも僅差で稲村氏が勝つものと考えていた。まずなぜこれが外れたのかを考えなければならない。東京都の結果を考え合わせると「小池百合子氏がいなかったために石丸伸二氏が勝った」と言えるのではないか。
つまり、今回の選挙は
- 反リベラル
- 反エスタブリッシュメント
が合わさったのではないかと思う。
稲村さんは立憲民主党が支持をした。斎藤さんでは困ると考える自民党の県議の一部がこれに乗ったようだが、支持者をまとめきれなかったようだ。NHKが支持政党別の投票先を出している。「他人に優しいリベラルは困る」と言う理由の他に「女の県知事は嫌だ」と考えた人がいるのかもしれない。景気がいい時には「善い人と見られたい」と言う人が増えるが、景気が悪くなると「他人に施しをするのは真っ平だ」と考える人が増えるはずである。有権者のみならず地元の支援者たちの気持ちが後ろ向きになっている証拠だ。
し前回投票に行かなかった人たちが投票に出かけており投票率が14ポイントアップになっていた。このため普段は選挙にゆかない人たち若い人たちが多く選挙に参加したのではないかと思う。これまで既存政治に不満を持ちながらも選挙に行かなかった人がちょっと動員されるだけで選挙結果が大きく異なってしまうということだ。ただし日本の出口調査は「前回の選挙に行きましたか」とは聞かないのでどの程度の新規参入があったのかはわからない。
YTVの敗者コメントは印象に残った。「SNSに煽られた」「何が争点だったかよくわからなかった」というのが稲村陣営と清水陣営の感想のようである。ただしこれは斎藤元彦陣営の勝利ではない。斎藤陣営も今回の結果を意外なものと受け止めている。となると立花孝志氏のメッセージが広く浸透したと言える。
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テレビは「選挙告示後は選挙報道が減る」ことを敗因と分析しているようだが、Xには「マスコミはお通夜状態だ」とか「マスコミが斎藤さんをいじめた」とか「偏向報道の嘘が暴かれた」言うコメントが多数入っていた。マスコミ報道に対して潜在的に敵意が募っていたことがわかる。この状況はアメリカの大統領選挙に極めてよく似ている。この「反知性的」な状況はしばらく続くだろう。
ではなぜ兵庫県はアメリカ型になったのだろう。
栃木県知事選挙と宇都宮市長選挙が行われそれぞれ現職が勝っている。どちらも6選目なのだそうだ。地方にはまだ地縁・血縁などが残っており現職に有利な状況が残っていることがわかる。都市にはこうした地縁・血縁がなく砂状になった有権者がSNSに煽られやすいことがわかる。であれば東京都でも兵庫県と同じことが起きても良さそうな気がする。
だが東京都には大きな会社の本社が多数ある。今の日本は海外で儲けてその儲けをそのまま海外に投資する状態になっている。このためまだ「既得権益」が守られていると言ってよいのかもしれない。
いわゆる「京阪神」と呼ばれる地域の繁栄はもともと大阪が米流通の中心地だったことから生まれている。繊維などの軽工業から始まり次第に家電などの複雑な工業に発展していった。しかし、繊維工業は工程の一部が海外に流出した。また家電は台湾や韓国のメーカーに太刀打ちできなくなり産業競争力を失っている。
自動車産業が残っている愛知県の政治がそこまで不安定化していないところからも、関西が一人負けしている可能性がある。一人負けしたとしても地方のような地縁・血縁が戻るわけではない。
ただし「都市対地方」という構図だけで今回の選挙を分析できないことも確かである。22都市の市長が「稲村支持」を打ち出したにもかかわらず、稲村さんが勝った地域は尼崎市(地元)と近隣の川西市、県東部の丹波篠山市・三田市・猪名川町、県西部の養父市・宍粟市・神河町・市川町・上郡町・佐用町、山陰地方の新温泉町とごくわずかだった。斎藤さんへの支持は阪神地域を超えて広がりを持っている。