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オクトーバーサプライズ イランにある核施設攻撃と全面戦争のリスク

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オクトーバーサプライズという言葉がある。大統領選挙前に予想外のことが起きて大統領選挙の行方が左右される現象だ。今年はイランにある核施設攻撃と中東戦争がオクトーバーサプライズになるのかもしれない。政権延命を図るネタニヤフ氏には戦略的合理性がある。

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NRIがオクトーバーサプライズについて解説している。

最初のオクトーバーサプライズは1980年にイランでおきたアメリカ大使館襲撃だったそうだ。ここから想起してイスラエルのレバノン侵攻(NRIはアメリカの立場から「地上作戦」と表現している)を挙げている。まあ「注意しろと言われてもなあ」という気もするが可能性としてはこういう事もありえるということなのだろう。

この記事は10月2日に書かれている。だが事態はその後に更にエスカレートしている。イスラエルによる核施設破壊が現実の選択肢として議論されるようになった。BBCは「【解説】 中東が全面戦争に近づいた1週間 イスラエルとヒズボラの紛争」の中で緊迫する中東情勢を解説している。

ではなぜこれがオクトーバーサプライズになるのか。

イランとイスラエルの間で不測の事態が起きれば間違いなく大統領選挙に影響が出る。このためバイデン政権は問題を低く見積もることになる。政権はイスラエルと緊密に連携しており「核施設と石油施設の攻撃を思いとどまらせた」と発表していた。だからこれが裏切られたとき「サプライズ」とみなされてしまう。

ここから報道がどんどん怪しくなってゆく。

ロイターは大統領が「私がイスラエルの立場なら攻撃しない」と発言したと伝える。大統領はイスラエルではないからこのステートメントは何も言っていないのと同じだ。さらにアメリカの高官も「核施設を攻撃しないという確約は得られていない」と言っている。

一方でABCは「バイデン大統領はイスラエルと協議し攻撃を思いとどまらせたと発言した」と報道し続けている。おそらくリベラル系のメディアはトランプ氏当選の可能性を考慮しリスクを低く見積もったうえで、エスカレートする中東情勢と大統領選挙を切り離そうとしているのではないかと思う。

CNN主催のテレビ討論会のあとで一気にトランプ有利の流れができたことはリベラル系メディアのトラウマになっているのではないかと思う。報道がトランプ有利の流れを作ることはできれば避けたいはずだ。

仮に抑止に成功すればいいのだが失敗したときには反発が起きるだろう。だからサプライズなのだ。

労働統計の発表でも同じ現象が起きている。アメリカの労働統計はまさに絶好調だった。8月にVIXが急上昇したのが嘘だったかのようだ。新しい仕事は順調に増えていて失業率は低く抑えられている。さらに「インフレは抑制されピークを超えた」という報道も出ている。金融市場は「アメリカの経済は好調だ」とみなし株価は更に上昇している。

ではイランの核施設攻撃はオクトーバーサプライズになるだろうか。

アメリカ人の投票行動は確かに外交問題に左右されるかもしれない。だがそのためには「アメリカ人の命が失われる」か「物価が急激に上昇するなどして生活に影響が出る」必要がある。つまり、アメリカ人は自分たちに関係がない問題はさほど関心がない。

中東で全面戦争が起きようが気にしないと言うことになる。

その意味では石油施設が攻撃された結果としてイランがホルムズ海峡を封鎖したほうが「大統領選挙へのインパクトは強い」ことになる。物価が上昇するわかりやすいトリガーになるからだ。

更に気になることがある。

トランプ氏は「イスラエルは核施設を攻撃すべきだ」と発言している。日本では次の発言が報道された。核兵器保有国イスラエルとイランの全面戦争はイスラエルの核兵器使用につながりかねない。だが、トランプ氏にとって見ればそれは「後で心配すればいい」程度の話だ。さらにアメリカ人は戦争が中東で行われている限りにおいてはさほど気にしないだろう。

トランプ氏はイランの核施設に関し、「われわれにとって最大のリスクだ」と強調。その上で、「まずは核(施設)をたたき、残りのことは後で心配すればいいと(バイデン氏は)答えるべきだった」と語った。

イラン核施設「攻撃すべき」 反対のバイデン氏批判 トランプ氏

つまりトランプ氏が大統領になればイスラエルはイランの核施設を攻撃しネタニヤフ首相の(当座の)支持率を挙げるという選択肢が作られる。そのためにはまず現在のアメリカの政権の不利になるような選択をすればいいということになる。

感情的には極めておぞましい選択だが(大勢の命が失われるので)合理的に考えるとそうなる。

内外情勢調査会において元財務官の渡辺博史国際通貨研究所理事長は次のように発言している。

渡辺氏は、両候補とも掲げる減税が「インフレをオフセット(相殺)するだけの効果があると(有権者に)評価されるか」が投票動向に影響すると説明。鈍化傾向とされるインフレが再び進めば「民主党政権に対する不満が出て、少なくとも民主党に投票しなくなる」結果、トランプ氏に有利に作用する可能性があると予想した。

「物価」が結果左右 米大統領選の行方予想―内外情勢調査会

渡辺氏の発言は「自然にそうなれば」という意味なのだろうがそれを作り出すことが出る人もいるということだ。あくまでも「可能性」の問題に過ぎず確定された事実ではないのだが……

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