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「中国が我々を試している」とバイデン大統領が失言

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バイデン大統領が「中国が我々を試している」という認識を示した。ああそうなんだろうなとは思うのだが、メディアによっては失言扱いされている。

これについて考えてゆくと試されているのは、実はアメリカと同盟国の関係なのだということがわかる。つまり、テストする主体よりもテストされるもののほうが重要なのだ。

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原文表現は「testing us」だったそうだ。Challengeで(挑戦・挑発)はなくTestなので「いろいろなことを試し出方を伺っている」という認識なのだろう。時事通信はロイターを引用しているがロイターの原文は確認できなかった。時事通信は失言とはしておらず「ホワイトハウスの説明と異なる」という書き方になっている。

一方のAFPは次のように伝える。「オフレコのつもり」の発言が拾われ米中関係に影響が出る可能性があるとしている。他にガーディアンドイチェ・ベレの英語版でも発言が確認できる。

バイデン氏は自身の地元で開催された会議で、オフレコのつもりで「中国は地域全域で攻撃的な行動を続け、われわれを試している」と、日豪印の首脳を前に発言。中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は「国内の経済課題」に注力する一方で、「自国の利益を積極的に追求するために外交的余地を稼ごうとしている」と私見を述べた。

バイデン氏、中国が「われわれ試している」 クアッド会議でオフレコ発言拾われる(AFP)

第二次世界大戦で被害を受けなかったアメリカ合衆国はヨーロッパや日本の経済成長を援助し大きな経済・安全保障ブロックを作ることに成功した。その後東西冷戦が始まったためソ連と中国の脅威を喧伝していればよかった。しかし、ソ連が崩壊し中国が一部資本主義を導入すると、アメリカが世界展開する理由はなくなってしまう。ロシアのウクライナ侵攻がある前はNATO不要論さえ出ていた。

このためアメリカのプレゼンス確保を願う人達は「何らかの脅威を喧伝しながら実際の紛争は避ける」という形で同盟を強化せざるを得ない状況に追い込まれている。クワッドの「中国を念頭に置きつつも決して名前は出さない」という作戦もその戦略に従っている。

しかし一方でアメリカ合衆国は中国との対立を激化させたくない事情も抱えている。ロシア・ウクライナ、イラン、イスラエル・パレスチナの紛争が激化している。ここで新たに中国・台湾問題を抱えるわけには行かない。過去の物語を維持しつつもバランスを取り対立は激化させたくない。

バイデン大統領の「失言」を高齢によるものと考えることもできるのだが、別の事情も透けて見える。バイデン氏にとって安全保障は中核課題ではないかもしれない。

今、共和党員のトランプ離れが加速している。安全保障や外交に携わってきた共和党系の人たちがわざわざ書簡を出しハリス支持を表明した。背景はかなり複雑だが穏健な共和党員やアメリカの外交的プレゼンスの維持を求める有権者たちがこの動きについてくることを期待しているのだろう。

と同時に今の共和党がエスタブリッシュメントの期待に沿わず「大衆化」していることがわかる。エスタブリッシュメントの見方では「ポピュリズムに侵されている」ことになるが、大衆は「所詮自分たちの課題ではない」と考えているかもしれない。

プロジェクト2025と言う高官置き換え計画も進行している。彼らにとってはジョブセキリュティの確保という考え方もできる。いわば権益確保運動でもあるのだ。

退役軍人たちは別のことに起こっている。トランプ氏は「適者生存論者」で戦争で負傷した人たちを蔑視する傾向がある。退役軍人たちはこれが我慢できない。このため退役軍人たちはハリス氏への指示を明確にしている。

大統領選挙に勝つためにはこうした人々の要望を外交戦略に混ぜ込む必要があるが「所詮他人の要望」である。失言がやまないところを見ると「真剣に考えるべき課題」とはみなしていない可能性もある。

クワッドが民主党の中心課題であればいいのだが、おそらく次にハリス政権ができたとしても主導するのは共和党系の人々だ。彼らは超党派的にアメリカのプレゼンスを確保しておきたい。つまり、クアッドが民主党の(もっと正確に言えばハリス氏の)中心課題であるかどうかでバイデン大統領のこの発言の重みが全く違うものになってしまう。

バイデン氏は、政治的状況に関係なくクアッドは存続すると強調。「挑戦は突き付けられるだろうが、クアッドが存在する限り世界は変わる」と、日豪印首脳に語った。

バイデン氏、中国が「われわれ試している」 クアッド会議でオフレコ発言拾われる(AFP)

時事通信は次のような書き方をしている。

日米豪印首脳は、インド太平洋地域で違法漁船を監視する「海洋状況把握(MDA)」の取り組みを来年以降も強化することなどで合意。念頭にあるのは南シナ海で危険な行動を繰り返す中国だが、「2025年に」という文言に国際協調を軽視するトランプ氏が返り咲くことも想定し、クアッド連携の「制度化」を進めておく思惑がにじむ。

バイデン外交、実績アピール ちらつくトランプ氏の影―クアッド首脳会議(時事通信)

あくまでも「トランプ氏の台頭を意識して」首脳たちが「制度化」を望んでいるということになっている。つまり、クアッドはそもそも首脳たちの個人的な取り決めに過ぎないということだ。バイデン大統領の主張も虚しく日本の安全保障の議論はアメリカの政治情勢に大きく影響を受けてしまい日本からはこれをコントロールできない。

制度化議論を一歩進めて「NATO化(つまり条約を作り専門の機関を設置する)」という提案をしている石破茂のような自民党候補者もいる。しかし石破氏はいくつかの障壁に直面するだろう。

第一にNATOは第二次世界大戦後の特殊な状況が作り出した特殊な枠組みである。アメリカでさえ「一度失われてしまえば同じようなものは作れない」事がわかっている。防衛をアメリカ一国に依存する日本政府が一からこの様な仕組みを作るのはおそらく不可能だろう。

次にアメリカでは同盟主義が支援されなくなっている。トランプ氏が台頭し共和党の一部が民主党に鞍替えしていることからもその危機感は本物と行って良い。だが民主党がこれを自分たちの中核的課題と考えているとの確証も得られない。

ただし日本人が熱烈にアジア版NATOを望むなら話は変わってくる。

では日本人はどうしたいのか。

日本人は二極化している。まず大多数の人たちは「負担増は避けたい」が「自分たちだけで中国に退治するのは不安だ」と考える。今うまく行っているのだからわざわざ変える必要はないというわけだ。日米同盟で十分ではないか、わざわざ新しい機関など必要ないと彼らは考えるだろう。

一方で声の大きい人達もいる。だが、彼らが政治に期待するのはエンタテイメントだ。ジャンプを読むような爽快感を政治ニュースから得たい。彼らが期待しているのは高市早苗氏や河野太郎氏のような「歌舞伎型政治家」がガツンと上から目線で中国や韓国を叱りつけてくれる絵だ。難しいことは考えたくないが毎週毎週同じ様な物語が展開されることを期待し期待通りのストーリーが読めなければネットに不満をぶちまける。

今日はたまたま時事通信が自民党各候補者の安全保障に対する議論をまとめていた。石破氏や高市氏のように日本の安全保障を中核問題に据えている人もいるが、多くは「日米同盟の存続」を暗黙の前提条件にし自分の推し進める政策の宣伝材料に使っていると言う印象である。

時事通信は「アピール合戦」と厳しく評価している。いずれにせよこの中から次の総裁と総理が決まり代替提案もない中で国民の審判にかけられることになる。

自民党総裁選(27日投開票)で、9候補は外交・安全保障分野の独自色発揮に力を入れている。アジア地域での集団安保体制の構築や、非核三原則の見直しなど、現行の政府方針からの大幅転換を伴う内容も目立つが、実現性は不透明。総裁選に限った「アピール合戦」の思惑が透ける

外交・安保、独自色競う アジア版NATO、非核三原則見直し―自民総裁選

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