柘植芳文外務副大臣が中国側と折衝し「反日教育を見直すように」と正面から迫ったようだ。思ったよりも杜撰な反応でとてもネット右翼を納得させることはできないだろうと感じた。
やはりここは高市早苗氏に頑張ってもらうべきだったのかもしれない。
まず中国側の問題を考える。中国は経済が傾き治安が悪化している。「潤」と言われる富裕層は「政府に何を言ってもムダ」とばかりに中国を離れ治安の良い日本で師弟を教育しようとしている。中国人の本音は言動からは見えてこない。行動こそが重要だ。
またバイデン大統領主導で中国囲い込み進んでいる。バイデン大統領はオフレコの形でこれが中国囲い込みであると宣言した。
これに対抗して中国とロシアは共同でキャンペーンを行うことにしたようだ。ロシアの領空侵犯は大きく報道されているが宗谷海峡を中露の船が横断したそうである。この合同パトロールについては知らない人が多いのではないかと思う。
この様な状況で、中国政府が経済不安による治安の悪化を認め、共産党統治の中核的テーマである外国勢力排除を外国の圧力で修正することなどありえない。
ここまではなんとなく理屈で分かる。むしろ理解に苦労したのが日本人が何を求めているかだった。非常に屈折した気持ちが強い民族性で要求を言葉にして伝えるのが苦手である。しばらく保守の人たちの書き込みを見ていてわかったことがある。
それが、昭和平成に少年たちの心を掴んだ「少年ジャンプ」的な世界観である。せめて漫画の中で俺達は強いと感じたいのだろう。
河野太郎氏がかつて駐日韓国大使を呼びつけて「無礼である」と叱りつけたことがあった。上下関係に敏感で「ナメられては困る」という信条を強く持っているようである。
今回ロシアの領空侵犯で高市早苗氏がこんなコメントを出している。日本人がナメられている(から強気の態度を取らなければならない)との発言が彼らを刺激したのでは根拠のない推論をしている。だが、彼女を支持するネット右翼の人たちが「ナメられては終わり」という信条を強く持っていると高市氏が理解していると考えることもできる。だからこそもっと刺激してもっと挑発的な行動を引き出そうと言っていることになる。
「相手を挑発すると実効的な解決策は見いだせない」とか「状況がエスカレートすればもっと面倒なことが起きるのではないか」と大人たちは考える。だが、これに呼応したネット右翼は「高市氏ならもっと毅然とした対応を取ってくれるだろう」と期待するだろう。
その意味では上川陽子外務大臣の対応はネット右翼の期待に応えるものではなかった。上川氏は実効性のある対話を重んじているがネット右翼は実効性のある対話には興味がない。ヤンキー的世界観ではとっとと断交して中国から引き上げ中国人は追い出されなければならない。そして「ナメられない」ことを主眼とした外交を展開すべきであるとなる。
上川陽子氏が派遣した柘植芳文氏は全国郵便局長会会長だ。つまり外交の専門家ではなく郵便局長さん(名古屋森孝郵便局長)である。外務副大臣は上がりポストである。安倍派の副大臣が政治と金の問題で更迭されたときに後任になっている。つまりそもそも外交交渉力など期待されていない人なのだ。
そのまま「反日投稿を取り締まるように」とお使いに出された。外国勢力にとやかく指図されたくない中国側は「仇日教育などない」と反発したという。
岸田総理はロシアの領空侵犯について「毅然とした」対応を指示している。だが指示しただけで実効性のある画期的な何かを思いついたわけではない。現場への丸投げ姿勢は相変わらずである。またアメリカをはじめとした同盟国と緊密に連携すべきだとしている。結局アメリカ頼みなのだ。
また海上自衛隊の中にもかなり不満が高まっている可能性がある。すずつきの艦長が(事実上)更迭された。現代的な装備を備える護衛艦が「うっかり間違えて」領海に迷い込んだということにされてしまった。本来はスレスレのところをわざわざ選んで航行しているわけで「うっかり」などありえないように思える。仮にうっかりだったとしたら装備にかなり問題があることになる。だが、日本政府は調査内容をいっさい公開しない方針で「艦長がうっかりしていた」として艦長一人に責任を負わせて中国側に「責任者は(事実上)処分した」と説明したという。
とにかく問題は起こしたくないと言う岸田政権の気分がよく伝わってくる処理だった。責任はすべて艦長が引き受けることになった。
国民の期待が「中国や韓国にガツンということ」なのだとするとこれらの対応に物足りなさを感じる人が多いのだろうと推論することができる。
もちろん高市早苗氏の「ナメられたら終わり」には明確な欠点がある。
少年ジャンプの世界では対立のエスカレートは問題にならないが(主人公が根性でパワーアップする)現実には収拾不能な対立につながる。そもそも日本は戦中に新聞が陸軍の大陸進出を煽り国民生活が破綻をさせたという前歴がある。国民は難しいことなど考えず軍部を支持し中国大陸進出に肯定的な新聞を読みたがった。結果的に翼賛体制の成立につながった。だが国民が破綻を志向していたとは考えにくい。単に後先考えずに勢いのある報道を読みたがり結果的に国土を焼け野原にした。
しかし、これも国民の選択だ。
高市氏の戦略は東西が核の抑止力を背景に「にらみあっていた」時代を前提としているが、世界はウクライナ・ロシア、イスラエル・ガザなどの現実の脅威を抱えている。そもそもアメリカ人の中にもアメリカはこれ以上外国のいざこざに関わるべきではないとする人も増えている。
アメリカが退潮し中露の影響力が増している状態で高市氏が総理大臣になり、かつ高市氏がこれまで通り「ナメられたら終わり」路線を取り続ければおそらく日中関係の対立は激化するだろう。しかしアメリカがこれまで通り日米同盟にコミットするようなことはなくなるはずだ。現在のアメリカにその様な余裕はない。
だが高市氏を支える人たちにそんなことを説明しても彼らは興味を持たないかもしれない。彼らが気にするのはその場その場の爽快感だけである。
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