各紙が一斉にトランプ陣営がハッキング被害を受けたと報道している。もともとの記事はポリティコが発信している。内容はトランプ陣営がバンス氏を人物評価していたというもの。過去のトランプ氏を批判する発言などが問題視されていた。内部リークの可能性もあるがトランプ陣営はイランからハッキングされたと主張している。
このように真相は明らかになっていないが、少なくともアメリカ人が持っている被害者感情は透けて見える。彼らは自分たちの繁栄が外から狙われていると考えているのである。
ポリティコの記事のタイトルは「We received internal Trump documents from ‘Robert.’ Then the campaign confirmed it was hacked.」という謎めいたもの。
トランプ陣営はAOLの「ロバート」と名乗るアカウントからメールを受信しはじめた。中には271ページにもわたるバンス氏の過去の発言録やルビオ上院議員の文書などが含まれているという。トランプ氏陣営が彼らをどう見ているかがわかる。
この内容だけを読むと「内部に内通者がいてメールが外に漏れているのではないか」と思える。ところがトランプ陣営はマイクロソフトの発表を引き合いに出し「イランから盗まれたに違いない」と言っている。トランプ陣営は一枚岩ではなく裏切り者が紛れ込んでいると言う風評を恐れているのではないかと個人的には感じてしまう。
マイクロソフトの金曜日のレポートはどちらの陣営からのハッキングがあったかを特定していない。マイクロソフトはコメントしていないため、このレポートと今回の事件の関係はわからない。
非常に興味深いことに「内通者がいるのではないか」という可能性はまるで無視されている。ポリティコの別の記事によればアメリカ議会は「連邦当局はハッキングについて真剣に調査すべきだ」と騒ぎ始めている。アメリカの民主主義は外からの破壊活動にさらされており狙われていると考える議員が多いのだろうということがわかる。Newsweekの記事も同様だ。アメリカ大統領選挙は地方のレベルでサイバー攻撃を受けているという。
実際に起きたことが十分に評価されることはなく「外からの攻撃にさらされている」ということのほうが重大な脅威だとみなされているということがわかる。
アメリカ合衆国は長い間覇権国家として特権的な繁栄を維持ししてきた。彼らはそのことが十分にわかっており「この繁栄が外から盗まれようとしている」と考えている。この「外から盗まれるかもしれない」という不安感は様々な具体的な形を伴う。例えばそれは外からのサイバー攻撃・専制主義国家の脅威・国境を押し破って入ってくる移民などがその例である。
一方でアメリカの国内で起きている様々な分断・兵器レベルまで改良が進んだ銃の放置による殺し合い・文化闘争などの影響は過小評価されているようだ。
アメリカの経済は一人勝ちの状態が続いているが、同時に彼らはそれが外から盗まれるかもしれないという下り坂の恐怖にもさらされている。これを払拭するためには「もっと強く」「もっと正しく」を突き詰めてゆくしかない。だが同時に内側にも亀裂が広がっている。皮肉なことに彼らは外からの脅威は雄弁に語りたがるが内側の亀裂からは目を背ける傾向にある。
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